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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
三つの結晶
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28 視野狭窄 sideヘルゲ




ニコルの「鍵付き」には、なるべくニコル自身に影響を与えないよう、必要最低限の種類の方陣と魔法を常駐させている。


ニコルの経験・会話のうち、マザーに知られて困る内容を自動的に秘匿する目的だ。選別基準は、俺のものをそのまま使っている。


また、アルマやユッテなど、聞いた側の記憶も秘匿するよう働きかける。


アロイスがニコルにプレゼントした金色のくま「ロイ」が、バイパスのないアルマ・ユッテにも秘匿操作が行き渡るように、強化フィールドを部屋に展開している。


ちなみに俺の黒くま「ヘル」は、防諜方陣、警戒方陣に加えて、ニコル・アロイス・俺への悪意察知を目的とした心理探査サイコサーチを組み込んだ。


これは軍の中でも諜報機関しか使用の許可されない、「真っ黒」な禁術だ。


捕虜の拷問・尋問で使用されるからな。





アロイスには、マザーのやり口や大国の中枢に関する裏情報を俺の知りうる限り書き込んだ。


あとは本人の希望で、マギ言語を叩き込んだ。これはマザーの構築に使用されている言語で、これを知っているのといないのとでは、「演者」と「演出家兼演者」くらいの違いがある。


構築済の魔法を、教科書どおりに出すのが「演者」であり、一般の魔法使い。


オリジナル魔法を構築して、自分が使いたい魔法を使うのが「演出家兼演者」、マギ言語使いだ。


当然マギ言語使いなどは国で厳重に管理されているし、持ち出し禁止の秘術扱いになっている。俺はもちろん、マザー経由でマギ言語使いの記録に侵入し、秘術をいただいてきた。


アロイスは全部わかった上で、「僕を巻き込め。思いっ切りね」と言った。

「中途半端にかかわったら腰が引けるだろ。そんなこと思いつかないほど、巻き込めばいいんだ」とも、笑いながら言った。


だから高等学舎に入ってすぐにいろいろ書き込んでやったら、「一気に情報多すぎなんだよっ頭いてぇ…」と文句を言われた。納得いかん。







マザーの倫理回路は、大国の上層部のための倫理だ。当たり前だが、そこに個人の幸せだの権利の保護などみじんもない。国が国として動くための、国の利権保護のための倫理だからな。


俺も別に、それに大々的に反抗しようなどと青いことを考えているわけではない。



俺の目的は、単純に「心理的人体実験の阻止」だ。



最初は怒りで動いていたと思う。俺をこんな歪んだ存在にしたマザーに、マザーの倫理回路設計者に、大国の中枢に、俺は怒り狂っていた。だから、「破壊」しようと思っていたのだ。


だが、今はニコルがいる。


それに、俺たちの後に「海持ち」が生まれないとも限らない。


要するに心理的人体実験が「どれだけヤバくて、自分たちを危険にさらすのか」をやつらが思い知らなければ止まらないのだ。


と、ここまで部屋で話しているとアロイスが待ったをかけた。



「なるほど。それで人体実験のせいで狂ったヘルゲが、国の制御を受け入れずに大暴れ。被害甚大だから、もう人体実験やめましょうってパターンかな?」



…そんなにわかりやすかっただろうか。

図星で黙っていると、アロイスは言った。



「却下。その作戦、稚拙もいいとこだね。バカなのかな、ヘルゲは?」


「どういう意味だ」


「で?その狂った生体兵器のヘルゲくん、君が暴れたその後は?…殺処分、だよね?」


「…」


「へぇ~、残された僕やニコルがどう思うか、それを少しでも考えたことは?」


「…」


「…だから君はバカだって言うんだ、ヘルゲ。まだ考える時間はある。焦って愚策を弄するな」



人をバカだバカだと言う割に、アロイスの声には労わるような音色が滲む。



「僕もニコルも、君を大事に思っているんだってこと、そろそろ理解しろ。それと、君は君自身のことを軽く扱いすぎなんだよ。とりあえず僕からの最優先伝達事項だ。『死ぬような目に遭うんじゃない。結果的に死ぬのも許さない』」



ふう、と息を吐いた。


いつも、だ。


いつも、俺はアロイスに自分の視野狭窄を教えられる。

破壊しか思いつかない俺の心は、本当に歪んでいると思い知らされる。



「お前なら、どうする?」



俺は初めて、俺の「戦争」に関する意見をアロイスに求めた。

アロイスも驚いている。が、すぐにニヤッと笑った。



「ようやく、僕を本気で巻き込んでくれる気になったね?ヘルゲ」


「…お前に頼らなければ、どうにもならん」


「ほんとしょーがないなー、んじゃま、いっちょ考えますか!」


ふん、と顔を逸らして軽い返事をするアロイスの顔は、耳まで真っ赤になっていて、「遅いんだよ、まったく…」とブツブツ独り言まで言っている。


俺はわけがわからなかったが、久々にこの男に勝ったようだ、と思って笑いたくなった。










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