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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
小さな結晶たち
270/443

269 クヴァシール戦線① sideオスカー

皆が猫になったり

大暴れしてたり

ピンクの象さんになってたり


その頃のオスカーはというと。

  






今回の任務、ちょっと長引いたな…半月近く猫の庭に戻れなかったよ。俺が行ってたのはクヴァシールとレインディアの国境付近だ。アルカンシエルの東にレジエ山脈を挟んでブルーバック、北東にクヴァシール。この二国は一応同盟国として密な国交がある。だけど北のレインディアは血の気の多い連中で、とにかくどこかに戦争を仕掛けてる。大抵のターゲットはアルカンシエルだから、リーのいる北方砦はしょっちゅうレインディアからの襲撃を受けていた。ま、アルカンシエルも売られたケンカはすぐ買うけどね。


でもヘルゲ兄が山津波でゴッソリ帰国させるという、バカにするにも程があるっつー魔法でアッサリ片を付けてからは、同盟国のクヴァシール国境へより一層のちょっかいがかかるようになったらしい。大規模魔法での支援要請を受けた中枢は、もちろんヴァイスへ出動命令を出し…俺が行くことになった。


本来なら宝玉へ出動要請がかかりそうなモンだけど、そこはエレオノーラ中佐がリンケージグローブのことを知っているので「誰でも適任者ならかまわないよ」と言ったらしい。宝玉は三人いるけど…レティが生まれたばっかのアロ兄や、もしかしたら妊娠している可能性が高いニコルは絶対ダメだと皆で止めた。もちろんヘルゲ兄もニコルのそばにいてほしいから、やっぱり止めた。


ほんとはミッションの采配に下っ端がしゃしゃり出ていい訳ないんだけど、俺が行きたいって立候補した。だってコン兄だってルカがいるのに平気で立候補しようとしたんだ…俺が行くのがベストに決まってる。それにヘルゲ兄の魔法を扱うのは俺でもできるようになったしさ。リンケージグローブがあってほんとに良かったと思ったよ。


でもカミル兄が「…あ。そうだぜ、今回のミッションは絶対オスカーが適任だ。絶対こいつしかできねえ」って言い出した。なんだろう、そんなに俺のこと買ってくれてんのかって思って少し嬉しくなった。



カミル「カイ、クヴァシールとレインディアの国境線てことはよ…ホラ、あの手使われるぞ」


カイ「あ、そうか!そうだぜ、この任務…オスカー以上の適任はいねえぞアロイス」


アロ「え?何、どういうこと?」


カミル「酒好きのクヴァシール人を使いものにならなくさせるために、レインディアから娼婦とか商人が密入国してよ…レインディアの火酒でツブすことがあんだよ」


全「あー…バッカスが適任…」



…大丈夫、俺はそんなにガッカリしてねえよ…兵士としてじゃなくて酒の強さを買われてるんだとしても、別にいいよ…



ヘルゲ「だが、娼婦ってのがな…リアに誤解されないように俺たちもフォローするからな、安心して飲み尽くして来いオスカー」


オスカー「ヘルゲ兄…何か俺、微妙な気持ちだよ」


アロ「ま、ヘルゲの殲滅型フィールド魔法はオスカーが一番うまいと思うし。体術も申し分ないからね…頼めるかな、オスカー」


オスカー「うん、もちろんだよ」



アロ兄がフォローしてくれて良かった。マジで少し落ち込むとこだった…






*****





リア「え、クヴァシールに行くの?」


オスカー「うん、少し長期になるかもしれない。アルカンシエルの国軍ほど融通効かないだろうし、向こうの命令系統を無視するわけにもいかないしさ。通信は毎晩入れるよ」


リア「通信とかいいから、ハニーミードをブランド別に買ってきて!凍らすの、凍らせて食べるの!」


オスカー「…」



うん、リア先生に甘い何かを期待すんのが間違いでした。なんだろなー、俺のこと嫌いじゃないのはわかるんだけどさ。夜は本を持ってウキウキしながら「これ見てよ、この挿絵すっごくない?」とか嬉しそうに俺の所へ見せに来るし、俺が筋トレしてると何気にスッと着替えとタオルを用意してくれたりするし、いつのまにか筋トレやスポーツトレーナーに関する書物をマザーの図書館で調べ上げたらしくて「オスカー、筋トレの後でこういうマッサージとかするといいらしいわよ」などと教えてくれるし…


本を俺に見せてめちゃくちゃ楽しそうに話すリア先生は、たまにハッとした顔になり「あ、ごめ…こんなのオスカーは楽しくないわよねえ…」と言い出す。俺にとってはリア先生が話す本の内容はかなり面白い。学科の教師だけはあって、難解な本の内容をサラリと分かりやすいように説明する手腕はさすがだし、それを無意識にやってるみたいなんだから恐れ入る。でも自分が夢中になってしゃべってしまったことに気付くと途端にビクビクしてまさに”ミニリア”みたいな子ウサギになるんだ。


俺が「いや、今の話面白かったよ。もっと教えてくれよ」って言うとパァッと笑顔になってまたしゃべり出す。うん、かなり…可愛いかもしれない、この人。一緒に暮らすようになってわかったけど、そうやって俺が「もっと教えてくれよ」って言うと嬉しくなって、俺にぴったりくっついて一緒に本を覗き込むように促してくる。これがかなり俺を煽るんだけど、そこんとこはあんまり気付いてない様子でして。


一度「ねえ、ここ!ここ見て!」と嬉しそうに本を指さして俺の方を見た時に、ほぼ鼻がつく寸前くらい近かったことがある。俺が嬉しそうなリア先生を見てほっこりしていた瞬間の出来事だった。リア先生は一瞬びっくりした後「ごめ…興味なかった?」としょんぼりしたので、俺は慌てて「いや、リア先生が嬉しそうで可愛かったから見ちゃってた。話も面白いよ、続けてよ」とちゃっかりキスしてから言った。その後リア先生は本を見せには来るんだけど、ぴったり体をくっつけてはくれなくなった…ちょっと淋しい。



…こんな感じで、二人だけでいるとかなりリア先生が可愛いことをするっていうのはよぉぉ~くわかったんだよ!だけど口から出る言葉が残念なんだよ!

何がハニーミードだ!





*****





翌日、アルカンシエルとクヴァシールの国境へ移動魔法で向かった。本当は直接レインディアとの国境へ向かいたかったけど、仕方ないよな。入国記録がなくて大騒ぎになっちゃうし。身分証を提示するとクヴァシール軍の迎えの馬車が来ていた…うあー、お気持ちはありがたいんですけど馬車で何日かかるんですか…俺ってば入隊した時からヘルゲ兄の作った移動魔法に慣れてて贅沢になってるんだなってのはわかるんだけど。



「デア ナーメ イスト オスカー・白縹。ゾルダード フォン ゼプツェーンフンデァートツェーン。コード0268615。大規模魔法支援に参りました。よろしくお願い致します」


「おお、これはご丁寧に!アルカンシエル軍の方はいつもきっちりしてますねえ!私はクヴァシール軍西方砦所属のメルキオッレと言います、呼びにくかったらメルと呼んでください。オスカーさんがこちらにいらっしゃる間のサポート全般を任されてます、どうぞよろしく!」


「じゃあお言葉に甘えてメルさんてお呼びしますね、俺のこともどうぞオスカーと呼んでください。頼りにさせてもらいます」


「はっはー、オスカーはいい男だ!気が合いそう!じゃあ出発しましょっか!」



クヴァシール訛りで話してくれるメルさんは陽気でいい人だ。というかクヴァシールではどこに行っても陽気な人が多かった気がする。途中の宿場町で一泊したけど、宿屋の一階の食堂は飲めや歌えやの大騒ぎだった。俺とメルさんと御者のアリーチョさん、三人で食事をしていた筈なのに…ものすごくナチュラルに宴会に混ざっていておどろいた。クヴァシールでは毎日こんなもんですよ!とメルさんは陽気に笑う。


毎日…そうですか、カミル兄が変な顔をしていたワケがわかったよ…そんでこの宴大好きクヴァシールを油断させるには酒でツブすのが一番とレインディアが考えるワケもね。


だって翌日の昼、クヴァシールの西方砦に着いたら司令官が酔いつぶれてて寝てたんだ…ありえない…でもメルさんはまた「よくあることです、お気になさらず!」と陽気だった。ちょっと不安になったよ、俺。



砦では個室を使わせてくれることになって嬉しかった。これで簡易テントを展開すれば、通信や移動魔法も使いやすい。快適な滞在になりそうだ、早く仕事を片付けて帰ろう。


メルさんに「オスカー!お食事ですよー、司令官も起きましたからどうぞ!」と呼ばれて食堂へ行った。昼食時にようやく起きたらしい司令官に挨拶すると、ニコーッと笑って「よろしくなー!頼りにしてるよ、ここは楽しいぞ!」と言われた。そしてそのまま「大規模魔法で支援に来てくれたオスカーだぞみんなー!歓迎するぞー!」と皆に叫んで宴へ突入…!


昼ですよ?着任の挨拶もへったくれもないですよ?

なんで戦況を説明する前に宴なんですかあぁ?






  

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