27 強すぎる相方 sideヘルゲ
「ヘルゲお兄ちゃんは、長い前髪で相当ソンしてると思うの。だって『悪魔』なんてひどいよ!ユッテも言ってたよ、『陰鬱な雰囲気が悪魔そのもの。そしてお年頃のお姉さま方は悪に弱い』って!」
「ぶふぅっ悪…悪って…ぶふあっしぬ…しぬ…ニコル勘弁して…今日のニコルはアサシンか…!」
…本日二回目の、アロイスの爆笑か…
俺をなめるなよ、アロイス…ニコルの敵への安易な報復はしないと誓ったが、お前はニコルの敵じゃないよなあ?
わかってる、わかってるぞ。
大丈夫だ、秘匿レベル8の、軍事情報と中枢情報を、優しく一緒に渡してやるからな。
それにしても、なんなんだ本当に、あの「女子」という生き物は。
俺を悪魔だなんだと言ってるのは、正直どうでもいい。
「シブい」のようなわからん内容ではなく、あながち間違った評価でもないからな。
だが!俺は断固としてアロイスが「天使」というのには反対だ!!
あれは慈愛にあふれた存在だと聞いたことがあるぞ。
この、俺を話のタネに「人生最大の娯楽だ」とでも言うように大爆笑するこの男の、どこに慈愛があふれているというんだ。
こいつにあふれているのは嗜虐心だろうが。
俺はなるべく二人に対して感情を出すよう努めてはいる。
だがこいつのあの笑顔だけは参考にしない。
まあ、とにかく。
ニコルがこう言うんだ。面倒くさがって切らなかった髪なんぞ、なくなったってどうということもない。
「じゃあ、とりあえずお兄ちゃん前髪上げてみて?いきなり切っちゃうのも、失敗したらこわいし…どれくらい短いのが似合うか試してみようよ!」
おう、わかった。
髪を上げてみた。
二人が固まった。
何やってるんだ、二人共…
と思っていたら、アロイスが叫び出した。
「ヘルゲ!だめだそれ!却下!お前、フェロモンは顔から発射するもんじゃないんだぞ、わかってるか!?」
「…どういう意味だ…アロイス、お前なんかイラッとするぞ…」
…どうしてくれようか、この男。
何が言いたいかわからんが、また嗜虐心あふれるセリフでも吐いてるんだろう。
「ばかやろう、いいから手をおろせ!誰かに見られたらどうすんだ、誘蛾灯じゃないんだからなっ!」
「だから、どういう意味だっいい加減お前、説明しないと『飛ばす』ぞ!?」
あああああ、コイツほんとに今日むかつくぞ!?
今日だけでお前は秘匿レベル8、9の軍事・中枢情報と高度方陣数種の餌食決定だろう!
おまけに今から高度100mへの射出で大空の旅へご招待してやる、出力500でな!
俺がマナの莫大な量の錬成を始めると、アロイスのやつはマイナスベクトルの方陣で俺のマナを押さえつけ始めた。
くそ…やつも本気かっ
ニコルを守るために教えた、秘術のマギ言語をこんなところで無駄使いか、このサディストがああ!
「いいから!も~!…ってニコル?ニコ…うああああ、ニコルが停止してるぅぅ!」
なに、停止!? ニコル!
驚いて、俺もアロイスもマナが霧散してしまった。
「ニコル!正気に戻ったか?いいな、今のは“秘匿レベル9以上”だ!わかったな!?」
「う…うん、わかった…」
…どういう意味だ、しかもお前今、ほんとにニコルのバイパスにアクセスしたな…?
とりあえず、その日俺たちは宿舎で散々口ゲンカをし、俺が負けた。
アロイスに口で敵うわけもなく、おまけに「顔の美醜」に関してこんこんと講義されるはめになった。
俺にはどうでもいいことだったが、周囲は美醜に敏感で、俺は「美」の部類に入るのだという。本当にどうでもいい。
「ヘルゲ…これだけ言ってもダメなのか…わかった、僕の言い方が悪かった」
「おう。正直どうでもいい」
「ヘルゲ、これから僕が言うこと、想像しろ。いいな?」
「おう」
「お前が髪を切る、もしくは顔を見られると、何が起こるかというと」
「おう」
「お前が言うところの“クジラ女”が百人以上毎日押し寄せて、お前が言うところの“砂糖味の菓子”も百倍来る」
「 !! 」
な…なんの怪談だ、それは…っ
「ようやくわかったか?しかも、だ。さらに男の嫉妬も買い、いらぬ噂が流れ、それを男子と仲のいいユッテが聞き、ニコルへ流れる」
「 !! 」
「ニコル、泣く」
「なんだと…!」
「 ニ コ ル 、 泣 く 」
「…わかった、死守する…」
「わかってくれたか」
「ああ…」
俺は打ちひしがれ、アロイスに軍事情報を書き込むと決心したことも忘れ、恐怖にまみれて眠った。