25 頼もし過ぎる相方 sideヘルゲ
最近、女子がやたら俺に物を押し付けてくるようになった。
「いらん」と断っても、机の上や中やロッカーの中に置いていく。
しかも菓子が多い。こんなにあってどうしろというんだ、腐るぞ。
アロイスに救援を頼んだ。こいつらの奇行をどうにかしてくれ、と。
「僕にはどうにもできないなぁ~、女の子の好意を無碍にするなんてちょっとねぇ」
…頼りにならん。じゃあニコルにやろう。ニコルと同室のアルマやユッテたちと食べるといい。名案だ。
「あ、いまニコルにあげようって思わなかった?ダメだよぉ~、女の子たちはヘルゲに食べてもらいたくてがんばって作ったんだからね?」
…じゃあどうしろと…まさか俺がこれを全部食えというのか?何の拷問だ。
「まあねえ、この量は食べきれないか。まあそれとなく、ヘルゲが食べきれなくて困ってる、甘いものもそんなに得意じゃないって話でも流しておこうか、ね?」
最初からそういう方法があるなら言え。
「あ、そういうこと思うなら全部ヘルゲが食べればいいんじゃないかな~。これからもどんどん追加されるだろうけどもね~」
「…悪かった」
「そうそう、素直が一番だよ」
…なんで俺の思考がダダ漏れなんだ。まさかバイパスの影響か?
「ヘルゲがわかりやすいだけだっての。ほんっと、魔法に関しては変態的なスキルなのにさあ、情緒面がヘルゲ品質の一直線思考なんだから。そのうちニコルにも読まれると思うよ?」
ぬ…そうか、単純なのか。といっても複雑にする方法など知らん。
「…まあ、いいんじゃないの。ヘルゲがいきなり情緒豊かになったら気持ち悪いよ。んじゃ、おやすみ~」
「おう」
…気持ち悪いってなんだ…
明日、秘匿レベル8のデカい軍事情報書き込んで、頭痛でのたうち回らせてやろうか…
*****
「ね、今日のお昼一緒に食べましょうよ。どうも海にね、最近クジラがいるらしいの。海岸で食べながらクジラ探してみない?」
ほう、クジラね。資料でみたことはあるが。海面に出てくるのも稀だろうに、高台じゃなくて海岸で目視できるものなのか?それに昼だけで探せると思っているのか、この女子は。まあどうでもいい。昼はこの先数年、予定がある。
「断る」
「少しくらい考えてみてよ。また誘うから。ね?」
言うだけ言うと去っていく。少し考えたぞ、クジラのことならな。
また誘うとか言ってたな。面倒だ、アロイスに報告しておくとしよう。
…翌日、この女は、俺の逆鱗に触れた。
お前がニコルの何を知っているというんだ?
妄想だと?嘘をついてばかりだと?あの小さな光がどれだけ苦労して俺たちを探したと思っている。俺はあのランタンと話した。ギリギリまで力を削って深淵を探してた。それを知りもしないで愚弄したな?お前も深淵を彷徨うか?悠久の時を、あの天の川で過ごしてみるか?お前が何を知っているというんだ。ニコルの何を。
数年ぶりに、視界が紅く染まる。
「うああああああ、ちょーっと待った!ちょっと落ち着こうか!」
…視界が戻った…アロイスの目が水色に光っている…
…
「あのねえ、ヘルゲ。学舎であれはダメだ。わかってるよね?今まではうまく隠してやってきてたよね?」
夜、部屋で俺はアロイスに叱られていた。
他人の情緒にうまく対応できない俺は、たまにこうして本気の説教をくらう。
何も言い返せない。当然だ。
自分が制御できずに、もう少しで精神爆撃を仕掛けて、本気であの女を深淵送りにするところだったのだ。
その記録がマザーに流れていたら、俺はたぶん有無を言わさず品質調整されて「まっさら」にされていただろう。
「まあ、反省してるならもういいけどさ。それよりニコルがさ、心配してたよ?」
「 ? あの女に報復するのをやめてくれと言ってた件か?」
「それはもういいんだよ。手加減するって、約束したからね。そうじゃなくて、ヘルゲのことを心配してたんだってば。あんなに怒るなんて、きっとひどいこと言われて傷ついてるんじゃないかってさ」
ひどいことを言われたのは俺じゃない、ニコルだというのに…
しかし、何を言われたかなんて言えないしな。
…そうか、心配、してくれてるのか…
なんだか胸の中心が温かくなって、今日の不愉快な出来事の怒りが消えていく。
「もうヘルゲは大丈夫だとは思うけどさ、明日は機嫌よくして、ニコルに安心させてやろうよ、ね?」
「ああ、わかった。アロイスもすまなかったな、今日は助かった」
「いいってことだよ~、慣れてるからね」
いいやつだな…
あの女への報復方法には正直言って戦慄が走ったが、深淵送りにしようとした俺が言えることでもない。
俺を止めてくれてありがとう、アロイス。秘匿レベル8の書き込みは後日にしてやるからな。