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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
小さな結晶たち
232/443

231 教育方針 sideアロイス

  






ルカフィーバーが止まらない。

誰かしらがルカを見にやってくるので、ナディヤは短時間で寝たり起きたりしているのにいつも身ぎれいにしている。本当はそんなことしたら疲れちゃうと思うんだけど、定期的に産院へ行っては体力回復してもらっていたり、ベルカントの歌を聞いていると気持ちが落ち着いていつも元気いっぱいなのだそうだ。


それになによりヨアキムの子守り適性がハンパない。翼でルカをくるみ、ベルカントが優しく歌い…ナディヤもルカもそれで良質の睡眠がとれてしまう。食事は僕が作って密閉のお弁当にし、ナディヤのために置いていく。ナディヤは「こんなに楽な育児、聞いたことないわ」と笑ってる。


マリーも、まるで蕩けるような顔でルカを見ては「かぁわい…」と飽きもせず眺めてる。…さて、善は急げ。ニコルたちの母性に火が付く前に、マリーと相談だ。いや、相談の前に結婚は絶対しちゃおっと。子供を作らない選択肢だとしたって、マリーを名実ともに僕のものにできるんだもんね。





*****




「ねーねーマリー。僕と結婚してください」


「…この状態の時に言うの、反則じゃないかしら…」


「こういう状態だから言ってるんだけどなー…マリーにムード溢れるプロポーズしても天邪鬼を発揮されて逃げられそうだしさー」


「う…それは否定できないけどぉ…だからって…ん…」


「結婚してくれるって言うまでやめませーん、朝まで抱き潰しコースでーす」


「んもぉ!するから、あ…っ」


「ほんと!?」


「ほ…ほんと…っ 他に誰と結婚するって言うのよぉ…んあ!」


「やったー!嬉しすぎる!朝まで抱き潰す!」


「も…ばかー!」



後で盛大に拗ねられてご機嫌取るのに苦労したけど、ミッション成功です!相手に合せた戦略をってね。ちなみに、内心ルカにめろめろ状態だったマリーは限定解除の申請もしてくれた。

自分から「解除したい…んだけどぉ…」と顔を真っ赤にしながら殺人的な可愛さでおねだりされて、解除しませんなんて言える僕がどこにいるというんですか、願ったり叶ったりです。



…で。本来なら入籍する前に皆に知らせて結婚パーティーとかって運びになると思うんだけどね。今はナディヤとルカが最優先の猫の庭でどんちゃん騒ぎなんてやりません。だから、まだ入籍したことも限定解除したことも秘密。まあ…年末パーティーはやるだろうから、その時に便乗だねってマリーと話しました。マリーって自分が主役で引っ張り出されるのが大の苦手なんだよね~。姐さんモードで仕事中ならいくらでもできるのに。あー、可愛いなあ僕の奥さん…




*****





ルカはヘルゲと同じ9月生まれ。11月末の品質検査を前に、グラオで緊急会議が開かれた。もうヘルゲが受けたような施術をマザーにされる心配はないにせよ、「心理層特殊体」と判断された場合にマザーがどういう判断や養育プログラムの提案を出すかは未知数なんだ。

そこで急務だったのは、ルカが自然の体現者なのかを判断することだった。現時点で頼れるのは、もちろんヘルゲのガードとニコルの守護。二人に相談すると、問題点が一つあった。


それは「ルカの世界を見れば一発でわかるけど、深淵からルカの星を探すのが大変」ということ。ちなみにセイバーのユニークに見てもらえば?という案が出たけれど、同期のセイバーであるロルフに話を聞いてみると「俺らは他人の魂を目がけてダイブするんだよね。だからその人の心の中がどういう風になっているのかはほとんど視えてない。意識がどれくらい広がっちまってるとか、どんな風に弱っているのかってのには敏感だけどな」とのことだった。


皆が「こりゃ難しいな…」と頭を抱えていると、ヨアキムが言った。



「…コンラートさんとナディヤさん、ルカに触ってみてくれませんか?この前見たフィーネさんのアレ、ベルにお願いすればできるかもしれません」



不得要領ながらも言われた通りにしたコンラートとナディヤに向かってベルカントが歌い出すと、いきなりニコルとヘルゲがほぼ同時に驚いて、笑顔になった。



「うわ…そっか!見えた見えた!ルカの星あったあ!」


「なるほど…ルカは自然の体現者じゃないな。壁のある心を持ってる」


「えー、何でわかったのぉ!?」



ヨアキムの話をまとめるとこうだ。フィーネが開発した方陣接続用の紐…あれに似たものをベルカントが実際に歌って、一時的なバイパスをヘルゲ・コンラート間とニコル・ナディヤ間に繋いだということだった。ルカの両親である二人に接続することでルカの星をすぐ感知したガードと守護が、深淵から映像を持ち帰れたというわけだった。心にガッチリ繋ぐバイパスを作る必要もないし、繋がるのはベルカントが歌っている間だけ。ルカへ何も影響を及ぼさずに調査できて、僕らは心底ホッとした。


おかげで品質検査は何事もなくすんなり終わり、ルカは好奇心いっぱいの瞳でいろんな方向を見る。そして僕とマリーが「ルカって大人しいよね~」と言いながらベビーベッドを覗き込んでいる時。


にぱ


「「笑った…っ」」


マリーと顔を見合わせ、二人で「うわうわ、今笑ったよね?」と確認してもう一度ルカを見る。


にぱ


…本当にさ、ノックアウトってあるんだな…

なんだろ、この心臓にダイレクトアタックしてくる可愛さは。

マリーなんて涙目で「かかかかかわぃ…」とか言ってる。

こんなメロメロなマリー見たことないよ、悔しいけど。


ルカめ…人の奥さんを誑かしおって…でも君なら許す。

僕にも笑ってくれたからね、ああ可愛い。






*****





「アロイス…話があるの、ちょっといいかしら?」


「うん、もちろん。コンラートに…リアもフィーネも?どうしたの?」



ナディヤはルカが眠っている揺り籠を少しユラユラさせながら言った。



「…この子の…ううん、これから猫の庭で生まれる子供の教育について、なの。まだ早いと思うかもしれないけど、私はルカが2歳になる頃には学舎の幼稚舎へ入れて育てる方がいいと思ってる…リアやフィーネにも相談してたの…」


「えぇっ!?そんな…なんで?実子養育は認められてるんだよ、何も問題は…」


「ふふ、アロイス…ニコルのこと、思い出して?ルカが学舎で紅ちゃんたちやヨアキムさんのこと言ったら、どうなると思う?…私もルカと離れるなんてこと、考えるだけで辛くて仕方ないんだけど、でも…」


「あ…『うそつき』呼ばわり…か。でも6歳から初等学舎へ入れて、それまでに…うーん、無理があるかな…」


「…俺もよ、正直言えばルカを手放すようなマネ、絶対したくねえよ。だがナディヤの懸念もわかる。せめて中等からならな…モノがわかる年齢になってからならとは思うがよ」


「私は…まだ顕在化していないけど、人工子宮で生まれた子と両親から生まれた子の間に何か溝ができてしまうかもって懸念してる。そこを調整するのがナニーや教師の仕事だって思ってるけど、ルカはそれが顕著になる気はするわね…」


「ふむ…リアの言うこともわかるが…それはなるようにしかならないね。しかし実子養育権というのはどこまで許されるのだろうね?学舎へは6歳から入って…宿舎ではなく両親のいる家から通う。ここまでしか自由度はないんだろうかね?」


「どういう意味だいフィーネ?学舎へ通わせない選択肢があるかって言ってるの?」


「そうさ、考えてもみたまえよ。ここに今いるだけで学科の教師、ナニー、元教導師、運動のクラブコーチ…全員揃っているようなものじゃないかい?」


「ぶ…まさかフィーネ…ここで中等教育くらいまで終わらせてしまえって…思ってる?」


「いやいや…高等教育までいけるに決まってる。それだけの能力はあるよ?これはリアがいいと言ってくれればの話だが…全員中央へ引っ越してしまったことにするんだよ。ここをグラオの小さな学舎にしてしまうのさ。どうしてそこまでして子供を隔離する必要があるかというと…ズバリ、この場所と住人の異常性ゆえだね」


「ふうん…私はいいわよ。これでも全教科の教師資格は網羅してるしね。すぐ辞める必要もないんだし、ゆっくり根回しするわよ」


「異常…マジ反論できねーな。つかフィーネ、お前は筆頭グループに入ってんぞ…」


「ま、その意見は甘んじてお受けするよコンラート。しかしぼくは思うんだがね、特にヘルゲとニコルの間に生まれるかもしれない子供…自然の体現者が遺伝なのかはわからないが、その可能性が大きいと考えざるを得ないだろう?その子供も学舎へ預けてニコルのようにヒヤヒヤしながら育てるのかい?マザーが心理層特殊体へどういう反応をするのか、まだわからない。品質検査は全力で皆が防御するとしたって、日常生活はそうもいかないだろう?」



僕は、ニコルの今までを思い返した。修練が苦手だったニコル…真の望みの声が森の大木から聞こえるのに、周囲に信じてもらえずしょぼくれていた。精神的に老成し始めた周囲にもついていけず、子供っぽいと言われたり…品質検査の基準に合わず、濁り玉と言われたり。緑玉として覚醒し、ニコルに本当の自信がついたのはここ数年のことだったんだよな…そう考えると、確かにここで育てるという下地があれば。



「これ…エレオノーラさんにも意見を聞きたいな。ルカも含めてグラオの子供をここで育てる…高等学舎は例えば本人が村の学舎へ通いたいって言えば、その時考えればいいんだもんな…」



僕らはその場でエレオノーラさんへ通信を繋ぎ、今話していたことを説明してみた。



『ふん…本来なら特別扱いすんなと言いたいとこだが…フィーネの言ったことが的を射ているだろうね』


「じゃあ…」


『お前らが両親である子供が、普通の子供に混ざって何かいいことがあるかい?ニコルたち四人に他の軍部セクト予定者がついていけなくて、実質振るい落とされた経緯も考えなくちゃならない。ルカの坊主にしたって周囲に本物の宝玉がいる以上同じことさ、普通にゃ育つまいよ。いいよ、許可するからそこで育てな。品質検査も軍部の検査に混ざって受けりゃいいし、そこで学科の定着度だのがクリアできればどこの学舎へ通ったかなんぞ追求されやしないだろう』


「うは、これは面白いことになりそうね!教師の腕の見せ所よ、まっかせなさーい!」


「…ね、ナディヤ。君はルカとそんな小さいうちに別れなければなんて、考えなくてもいいんだよ?」



ナディヤはエレオノーラさんの言葉を聞いてから、手で顔を覆って泣いていた。ルカと離れるなんて、本当は身を切られるくらい辛いと思ってたんだ…


でもナディヤはナニーで、子供が幸せに生きていくにはどうすればベストなのかを必死に考えてた。そしてフィーネは…ナディヤにそんな思いを絶対させないために今がんばってたんだな。ということは、僕だって…がんばらないとね?



「エレオノーラさん、ありがとうございます。養育方法の…プログラムの骨子はすぐに考えて提出しますので」


『ああ、そうしな。…ナディヤ、ナニーとしてアンタも忙しくなるよ、しっかりおし。あとリアって言ったかね?学科のことは頼んだよ、何かあったら私かアロイスに言いな』



そう言うとエレオノーラさんは通信を切った。さてと。



「ふむ…んじゃ、第一回職員会議でもしますか?今の所ルカしかいないけど…来年にはウチの子も加わるんで、よろしくね」


「「「「ウチの子ォォ!?」」」」


「あははー、9月にマリーと入籍しちゃった。んで限定解除したらすぐできちゃった」


「「「「ええぇぇ!?」」」」


「お…おま…っ何で言わねーんだよ!?ハイデマリーの体調は!?」


「それがねー、ちょっと眠いことが多いくらいでナディヤみたいにごはんが食べられないほどの悪阻じゃないんだよね。ついこの前産院に行ってわかったんだ~。なのでマリーはしばらく戦線離脱するから、コンラートもフィーネもフォローよろしくね」


「そんなことは当然じゃないか!おおお…またこんなに暴力的な可愛さの生き物が増えるのかい…最高じゃないか…」


「まあ…アロイスとハイデマリーさんの結婚パーティーしたかったわ…あ、年末パーティーと一緒にって思ってたのかしら?」


「あはは、そういうこと。マリーもその方がいいってさ」


「っかー、お前もズリィな…俺はあんなに大勢の前で…くそ、未だにカイの野郎がサーモメーターつってからかうんだよな…」



ブツブツ言うコンラートはスルーです。そしてこれから…ああ、すっごく忙しくなるねー…パパはがんばっちゃいますよ?






  

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