23 リンケージ sideヘルゲ
まず最初にやらなければと思ったのは、どうにかして二人にリンクできる環境を作ることだった。
この前、品質検査が終わったばかりだからな。まだ半年は時間がある。
だが、どうしたものか。
いくらなんでも、マザーを介しては本末転倒というものだ。
入力と出力、双方同時に方陣を展開してしまっては、いくらダミーを走らせてもリスクが高すぎる。
数日悩んで少し煮詰まった頃、森でニコルが少し不安そうに首をかしげた。
「…ねえ、ヘルゲお兄ちゃん…おじいちゃんがさっきからね、『さわれ、つなげ』って繰り返すの。なんだろう…」
ドクン、と心臓が跳ねあがった。
触れ。
繋げ。
…繋げ!そうか!
最初からあの小さな光は、俺とアロイスのことを知っていた。
「真の望み」は、俺の直感だと深淵につながっていると見ていい。
無意識の大河。ヒトの種としての、全体の無意識のつながり。
…ニコルの小さな光は、俺たちを深淵から見つけ出したんだ…
…なんて、途方もない…
「…ニコル、アロイス」
「ん?」
「…どうしたの?だいじょうぶ?ヘルゲお兄ちゃん…」
「ああ、大丈夫だ。問題ない。二人とも、木の幹に触ってくれないか」
二人とも不得要領な顔をしている。
そうだ、先に説明しておかないと。
「この三人で、ニコルのじいさんを通じて、『リンク』用のバイパスを今から作る」
「??」
「…バイパス?まさか、マザーなしで直結できるってことか?」
「そうだ。ニコルのじいさんを介せば、できるはずだ。多少修練で見慣れないモノがあって戸惑うかもしれないが、精神衛生に問題はないと思う」
「…必要、なんだね?」
「ああ」
打てば響くアロイスに嬉しくなったが、問題はニコルだな…
ポカンと口を開けてる。
いつものように俺は「どうしたもんか」と思っていると、アロイスがすぐ察した。
「ねえ、ニコル。ヘルゲとおじいちゃんがね、木に『さわって』、みんな仲良く『つながれ』ばいいよって、言ってくれてるんだ」
「 ! あぁ~、そういうことだったんだぁ~、よかった、何のことかわたしわからなくて、どうしようかとおもった!」
「そうだね、びっくりしたねぇ。でもね、つながるとさ、修練の時にね、つながった通路とか、もしかしたら部屋なんかも増えてるかもしれないんだよねぇ。ニコルは、それにビックリしないでいられるかなあ?僕とヘルゲは、ニコルが大好きだから、そういうのが増えてもつながりたいんだけどなあ?」
す…すごいな、アロイスは…脱帽だ…
ニコルの瞳がキラキラしている。ものすごく嬉しそうだ。
「ほわぁ…うん…うん!私もお兄ちゃんたち、大好き!つながる!修練も、だいじょうぶっ」
「でも、内緒だよ?僕らだけの、大切な秘密なんだよ?アルマやユッテにだって、ナニーにだって、内緒だよ?ニコルにできるかなあ?」
おおお、ニコルが手足をバタバタさせて、ほっぺたまで赤くさせて興奮してるぞ…
「できるぅっひみつにできるもんっぜったいナイショにできるからあ!!」
「よーし、じゃあ約束だね!えらいな、ニコルは」
…こ、この男は…
俺は「口八丁手八丁」という言葉を思い浮かべたが、半分以上俺のせいでもあるので、黙っていた。
「というわけで、ヘルゲ!いっちょ頼むよ~」
…軽い…
俺は、これからじいさんを介して、深淵にダイブすることになるはずなんだがな…
力が抜ける…
ふ、と息を吐いて、気合を入れなおす。
「おう、任せておけ。一丁、行くか」
なんだか俺は無性に楽しくなってきて、そうしたら自然に口元が動いた。
「…笑った…マジか!」
ん?ああ、俺は今、笑ってたのか。
ニコルはふわっと嬉しそうに俺を見ているが、アロイスはなんなんだ?
「うおお、野生の狼を手なずけた気分…!」
…チッ
俺の真剣な話をガスみたいに軽く浮かせた上に、人のことをケモノ呼ばわりとはどういうことだ…!
ドム!
悶絶してやがる。ざまを見ろ。
「おい、早く復活しろ。さっさとやるぞ」
「…ヘルゲぇぇ…いってぇ…」
「アロイスお兄ちゃあん…だいじょうぶ?」
「ニコル、放っておけ。たいしたことはない」
「たいしたことあるよ!覚えてろよお~」
「知らん」
「もー!今からなかよしでつながるのに!!ケンカしないでぇ!!」
「「すみません…」」
ニコルに怒られてしまった…