223 ヨアキムで遊ぼう sideアロイス
…三人娘の、ヨアキムでの遊び方が、ハンパないです。
元々こういう性格だったのかは知らないけど、ヨアキムはサービス精神旺盛で面倒見がいいっていうのかな…それとすっかり翼の使い方が巧みになって、たぶんニコルの守護、ヘルゲのガードに次ぐ防御力の持ち主だと思うんだ。
そして発狂してから700年の間に身に着けたと思われる忍耐力や、苦痛に対する恐怖がほぼないという拷問耐性…あらゆる「耐」とつく単語が躍りそうな彼の現在の特徴は、もちろん疲れ知らずの耐久性だ。
僕たちが代わる代わる、時にはいっぺんにヨアキムと遊びたくて押しかけても疲れを感じない彼の魂と体は「いつもニコニコほがらか対応」という、どこかの怪しい店のキャッチフレーズのようだ。
何でちょっとだけウラがありそうな言い方をしたかと言うと、ヨアキムが意外とイタズラ好きだからだ。僕は以前「隠れS男」とか言われていましたが、ヨアキムは「隠れヤンチャ」だと思う。ちなみに僕はもう隠れていません、堂々のS宣言です。吹っ切れましたよ、氷の魔王なんて言われてたらね。
今日も今日とてヨアキムは遊ぶ。
「キムキム~、もふぁ布団よろしくでぇ~す」
「はい、どうぞアルマさん。随分気に入ってくださいましたねえ、存分にどうぞ」
「んはん…気持ちいぃ~…スリスリすると最高ぉコレ…んふん…」
メキィッ!
「ヨアキム、次はコレ!このオスカーのこども狼いってみよう!」
「ふんふん…なるほど、ちょっと胸を張ってえっへん!みたいな感じなんですね?…はい、どうでしょう」
「いやああん!かンわいいっピンピンの耳もフサフサ尻尾もいい再現力!ちょっと尻尾触らせてぇ~!もふ…もふ…んああ、気持ちイイ…」
ボキィッ!
「ウッハァ~!あっはっは、これサイコー!ヨアキム、次あっちのパティオ方向に飛ばしてー!」
「はい、行きますよ~…そーれー」
「ィよいっしょー!着地成功!次はさあ、翼三枚で羽根つきしてクレー!楽しいィ、たまらーん!」
バキバキバキィッ!
…おわかりいただけるだろうか。
所々で聞こえる破壊音は、僕が用意した「発散用アイスバー」を男三人が折ったり砕いたりしている音です。
一応ご説明しますと、ヨアキムの翼布団に魅せられたアルマがうっとりするとカミルがテーブルに用意された氷棒を力いっぱい握って壊す。
獣耳と尻尾を自在に出すヨアキムに魅せられたニコルがそれを堪能するとヘルゲが同じく氷棒を渾身の力で叩き折る。
翼に乗っては放り投げられて天井スレスレまで大ジャンプをし、二枚目の翼に軟着陸させてもらう遊びに夢中のユッテが三枚の翼で三角に跳ばせてクレとおねだりすれば、カイが氷棒を三本まとめてメッキメキに潰す。
ヘルゲもカイもカミルもヨアキムと大の仲良しだけども…さすがに彼女たちがここまでヨアキムとの遊びに夢中になって自分たちにかまってくれないとなると、ご機嫌斜めにもなるようで。
僕としてはコーヒーカップを握りつぶされたりスプーンだのフォークだのを愉快な形にされるのがイヤなので、懸命にアイスバー作りに勤しみます。
たまに目を離している間に壊し尽くしてしまうと、怒声で「おかわりだアロイスゥゥゥ!」と追加注文が飛んでくる。
お願い…そろそろやめて、ヨアキム…!
「…ヘルゲたちだってこの程度のアイスバーは作れるだろ!なんで僕に作らせるんだよ~」
「「「お前のが一番硬くて壊した時にスッキリする」」」
「…藍玉の使い方、間違ってると思うんだけどな…」
「「「人が作ったものを壊した方がスッキリする」」」
「この純粋戦闘脳ども…」
メキボキバキィィィ!
「「「おかわりィィィ!」」」
「もー!これでも壊してろ!」
ギシミシドゴン!
「「「バカ野郎、寒いだろ!」」」
うるさいから、三人のテーブルの上にミニニブルヘイムⅡを出してやった。高さ1mの氷のカタマリだ、存分にやるといいよ!
「うっわ寒!なにこれアロ兄…」
「オスカー…たすけて…」
「え?あ、あ~…あいつらヨアキムさんに夢中なんだな…わかったよアロ兄、俺が生贄になるから…」
そう言うと、わざわざ分厚いコートと手袋を装着してまでミニニブルヘイムⅡに攻撃を加えているバカ三人にオスカーは言った。
「おーい、兄貴たち!体なまるからちょっと相手してくんねえ?」
「「ウオォーッシャア、来いウラアァァ!」」
「よし、来いオスカー」
ああぁぁ…オスカーが売られる子牛みたいな目で引きずられていく…!
4人は正面玄関から寒風吹きすさぶ草原へ行き、熱い戦いを繰り広げ始めた。全員体から湯気が立ち昇っていて、オスカー以外は嫉妬の湯気にしか見えなかった。
オスカーも間違いなく各種耐性持ちなんだな。しかも自己犠牲の気持ちまで持っているとは…なんて心優しいバッカス。今日はオスカーのごはんに好物たくさん用意してあげるからね、君の美しい犠牲は忘れない。
僕が氷だらけの戦場跡地を片付けていると、ようやく満足したらしいお騒がせ娘たちがヨアキムと戻ってきた。ほんとにそろそろ、自分たちがどれだけ独占欲の強い男のパートナーなのか自覚してほしい…!
「んっは~、たーのしかった!また遊んでクレー」
「「堪能したァ~」」
「ええ、皆さんいつでもどうぞ」
「ヨアキム…わかってて目いっぱい遊んでただろ~…」
「ははは、あの三人は忍耐力のカケラもありませんねぇ~」
「も~、オスカーが身売りしちゃったよ」
「本当にオスカーさんは素晴らしいですね。彼なら拷問されても発狂しないかもしれない。逸材ですよ」
「そんな耐性持ちの認定されても、オスカーは嬉しくないと思うよ?」
オスカーが存分に扱かれているのを見つけて三人娘がようやく事態に気付き、それぞれの彼氏を宥めてオスカーと一緒に連れ帰ってきた。オスカーはボロボロになりつつ僕にニコッと笑った。
「一石二鳥だから気にしないでくれアロ兄…」
僕はあまりの健気さにホロリとし、オスカーにハグしてからポンポンと背中を叩いた。「今日の晩ごはんはオスカーの好物を大盛りで出してあげるよ、何がいい?」と言うと背後から「酒」だの「肉」だのと声が聞こえ、オスカーの半分にも満たない僕の忍耐力は枯渇した。
「お前らの好物は聞いていない…ッ」
バカ三人の上にリミッターカットした生活魔法で氷の粒をドザーッと出して埋めてやった。
「…ディルクさんのとこに納品されたいのはどいつだ…!」
「「マジすまんかった…」」
「すまん…」
ニコルに氷を消してもらってスゴスゴと帰って行く三人を見て、ヨアキムが爆笑タイムに入っていた。もー…誰のせいだと…
「あははは!アロイスさん、すみませんでした。これをよかったらどうぞ。ほんの一部ですけど記憶に残ってたんです。たぶん珍しいと思いますよ」
そう言ってヨアキムが見せてくれた映像記憶は、なんと700年前の宮廷レシピだった…!
「な…これは、もしかして…」
「ガードに聞いたかもしれませんが、私は子供の頃”宝玉狩りの国”の宮廷魔法使いの弟子だったんですよ。その関係でいろんな本を読む機会がありましてね」
「こんなのマザーの図書館にも…ないんじゃないの?」
「そうでしょうねえ。ガードが王宮を攻め落として…”常の安寧の国”と呼ばれるようになって…私は成人してすぐに旅に出て、この紫紺の地で魔法研究を始めたんですよ。で、マザーを作った後私が死んで、更に百年くらい経ってから緑青が移り住んできて…、その時にはもう失われたレシピだったと思いますよ」
ずるい…こんなので釣るなんてヨアキムずるいよ…!
「くぅ…っ ダマされてあげましょう!ありがとうヨアキム!僕ちょっと厨房に籠るからああ!」
こうして僕は盛大に釣られ、マリーに叱られるまで聖域で幸せな時間を過ごした。




