222 ヨアキムと遊ぼう sideコンラート
「おーい、ヨアキムいるかァ」
ヨアキムの器はソファで藍と翡翠に挟まれて鎮座している。俺が呼びかけるとすぐに接続したようで、ぶわっと翼が広がった。ヨアキムはニコニコ笑いながら「お待たせしました」と言う。
「よ、悪いなー。いま時間あるなら当時の暗器情報でもねえかと思ってよー」
「コンラートさんは研究熱心ですねえ。しかし暗器については今の方が性能がいいに決まってますよ。あの当時の暗器はその武器一つに習熟しないと使いこなせなかったし、弱点もハッキリしてますからね」
「なるほどな…つーことはやっぱ、ヨアキムから聞くなら魔法か方陣てことか。つか、それでもよく暗器のことそこまで知ってたな?」
「はは、私はコンラートさんとデボラに共通点の多い仕事をしていましたからね」
「んあ?裏部署かよ?」
「ええ、まあ。当時も攻撃魔法や便利な魔法を一般化する方陣の研究は盛んでしたが、マギ言語で思考するマナの集合体を作り出そうというのは斬新な発想でした。私はその研究を見込まれて、暗部にスカウトされたんですよ。暗器使いはそこで見ました」
「はぁ~、なるほどな。つかその研究で暗部か…よっぽど危険視されてたんだなお前」
「はは、そうでしょうね。おかげで言うことを聞かずに善良なマザーを作ろうと頑固だった私は、さっくり拷問&発狂ですよー。あれは参りましたねー、あははは」
「…笑っていいんかよ、ソコ…」
「え、面白くありませんでした?ヘルゲさんやカミルさんにはウケるんだけどなあ」
「どんだけ体張ったギャグだよ。つかヘルゲもカミルもヒデぇな」
…ヨアキムと話してるとズドンと重いはずの話が羽根みてえに軽くなる…この翼ってそういう機能でもついてんのかよ。
「コンラートさんてレア・ユニーク魔法の使い手なんですって?」
「おー、そういや見せてなかったか?透明化ってんだ、ホレ」
「…へー!これはまた…ハイデマリーさんの幻影はこの体に接続した瞬間に概要を把握できましたが…コンラートさんもすごい制御力ですねえ」
「そんなトコ見れるんか、お前もすげえな…」
「その能力、ご苦労なさったでしょう。私の叔父にね、”不可視”というレア・ユニーク持ちが居たんですよ…彼は触れた物体を見えなくしてしまうんです。彼も苦労していました」
「うっは…制御するまでの苦労話聞いたら鬱になっちまいそうだな…」
「はは、そうですよね。あの当時は緑青のレア・ユニーク持ちは生存確率が極端に低かった。皆自殺してしまうんですよ。白縹ではメンタルの強い方が多くて、そういうことも少なかったと聞きますがね。あなたが元気に生きていて、よかった」
「それが取り柄だからなー。アロイスのやつにも聞かれたことあるぜ、なんでそんなに強いんだってな。実際は強くなんてなかったけどよ」
「はは、ナディヤさんはそう思っていないでしょう?」
「うぇ!?そうかァ?…あ、そういやそんなこと言ってたな…」
「ナディヤさんも不思議な方ですよねえ。あの方は魔女のようだ」
「ま…魔女ォ!?そんなワルそーな女じゃねえぜ?」
「あはは!これは失礼しました。違うんですよ、あの当時占い師の通称が”魔女”だったんです。ほとんどが女性だったもので」
「そういうことかよ…占い師ねえ…確かにそんな雰囲気あるかァ」
「ええ、特にタロゥ使いに雰囲気が似てますね、神秘的な方だ。そういうところにもコンラートさん、惚れちゃったんでしょう」
「ぶ…お前いきなり不意打ちスンナ…」
「…ナディヤさんに今の映像記憶見せちゃいましょうね…きっと喜びます」
「ヤメロ!!」
くっそ、こいつヘルゲとよく遊んでるうちに「俺で遊ぶ」ことを覚えたらしい…余計なことをしやがって、あのエロファイア魔王が!
そんなことを話してたらナディヤが買い物から帰ってきた。
「あら…ヨアキムさんと話してたの、コンラート。いまコーヒー淹れるわね」
「おー、さんきゅ」
「うんうん、優しい奥さんだ。コンラートさんにはもったいないってよく言われませんか?」
ズドッ!
「…ち、やっぱその羽は突破できねーかコノヤロウ」
「危ないなー、ダガーなんて投げないでくださいよ」
「もう、コンラート?むやみにナイフ投げちゃダメよ…」
「お、おう…」
「ナディヤさんにちょっかい出しそうな男は皆こういう目に遭うんですねー、ところでナディヤさん、これどうぞ」
「見せるなああああ!」
ズドドドド!
「あら、なあに?…まあ…いやん、神秘的なことろに惚れただなんて…コンラートってばもう…」
「羽ジャマああああ!」
「はっはっは、後でアルマさんにYOU WIN!って言ってもらいましょう。えーと、右手を高々と上げるってフィーネさんが言ってたかな…」
ヨアキムに惨敗したものの、その晩は頬が上気して色気を爆散させているナディヤをペロリといただいた。超うまかったよ、こんちくしょう!




