22 楽しい「説教」 sideヘルゲ
今でも、たまに思い出す。
アロイスに本当に申し訳ない、と思いながらも、あの時の俺は嬉しくて仕方なかった。アロイスの強い瞳の光は、俺を理解する、という決意だったのだとわかったから。
そして同時に、どんなに自分が「わかってくれる他人」に飢えていたのかを初めて思い知らされた。俺は、喉が渇いて飢えていて、今にも干からびそうなところを、ニコルとアロイスに救われたんだ。
腹を決めて、俺の「事情」をアロイスにざっと説明した。
アロイスは目を白黒させて聞いていたが、決して疑うようなセリフは口にしなかった。驚きつつ、「じゃあ、こういうことか?」というように時折解釈が間違ってないかを確認しながら、「俺を理解するためだけ」に思考をフル回転させていた。
内容を消化したかな、と思う頃に、俺は少し反省した。
いきなりこんなこと聞いたって、戸惑うだけだろうな、と。
嬉しかったもので、勢い込んで話しまくってしまった。
負担になって、アロイスが困り果てたら、俺はどう詫びればいいんだろう。
そう、思って。
とにかくニコルのことを頼んで、あまり負担にならないようにしよう、と思って。
…そうだ、俺はやつに「説教」されたんだ。くく…っ 説教だぞ?
ニコルを二人で守るのなんて、当たり前だ、と。
俺の事情にも突っ込んでいくぞ、と。
俺のことも守る、と。
もう少し人に頼ること、甘えることを覚えろ、と。
そして、アロイスを、みくびるな、と。
わかってないな、アロイスは。
もうすでに、こんなにお前を頼っていて、甘えていて、だから俺はお前を巻き込むマネなどしてしまったんだぞ?
でも、本当に、よく、わかった。肝に銘じておく。
…まったく、すごいな、新しい世界は。
お前たちといると、俺の新しい感情が、どんどん扉を開けていく。
きっと俺の未来は、俺が想定していたよりも昏くない。
そう思うと、とても「楽しい」気持ちになるんだよ。
なあ、並列思考ども。
「楽しい」って、知ってたか?俺は初めて知ったぞ。ニコルやアロイスが笑うのは、こんな気持ちの時だったんだな。
ああ、もっと「楽しく」なりたいな。
もっと美しい色彩の、美しい景色を、見たいな。
…慌てることはないか。これからは、いくらでも二人が俺にくれるだろう。
…アロイスの顔が赤いぞ?
ああ、俺を説教するのに、そんなにまで感情を爆発させてくれたんだな。
…なんでかな。
アロイスがあんなに俺を悔しそうに睨んでるのに、なんで俺はまた嬉しくなってるんだろうな?
うん、楽しいぞ。嬉しくて、嬉しくて、楽しみで仕方ないぞ、アロイス。