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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
その後の結晶たち
207/443

207 閑話 カイ&カミル Twin growth







俺たちはここ700年の間で、マザーが管理するようになってからは初の”白縹の双子”として生まれた。

マザーが管理する人工授精システムである以上”二卵性双生児”はありえない。理論上は一卵性双生児であればもっと生まれていてもよかったんじゃないかと思うが、多分生まれる前にシステムが体に合わず死んだのだろう。


だからずっと思っていた。

「俺たちは強運だ」と。




*****




他部族の双子の話などを図書館で調べると、同時に笑うとか片方がケガするともう片方が同じところに痛みを感じるとかいう不思議体験的なエピソードを見ることができる。俺たちにもそういうのがあったんだろうか?と思い返してみるが、残念ながら”不思議”という意味では経験がなかった。


なぜなら、俺たちは固有能力として明確に”共鳴シンクロ”という魔法能力があることがわかっていたからだ。だから双子特有の不思議現象なのか共鳴の魔法を無意識に使っていたのかがわからない。そんなことは境目などなくて、しかも日常茶飯事すぎて俺たちにはどうでもいいことだった。


なぜかナニーは俺たちにお揃いの服を着せる。同じ動きをすると「まあ!やっぱり双子って気が合うのね!」などと嬉しそうだったりする。初等6年生の頃に、俺たちはそのことをようやく「「…なんで俺たちがそんなに面白いんだ」」と疑問に思った。


その瞬間からだ、カイとカミルが分離したのは。


それまではカイと呼ばれようがカミルと呼ばれようが二人とも振り向いて反応していた。同じ動きをする自分たちを二つの体を持つ一人だと思っていたからだ。それはたぶん共鳴の魔法を制御できていなくて、常時発動させていたからだと思う。もちろん一人ずつ分かれてやらなければいけないことなどたくさんあった。だが二人が揃うと途端にまた一つになってしまう。それほどナチュラルに強力な結びつきだった。


カイとカミルに分かれた俺たちは、まず「共鳴を使うのを意識してやめてみよう」と約束した。すると俺たちは一緒にいるのに違う動きをしたり、一つの質問に違う答えを返したりすることができるようになっていった。


共鳴を使わず、会話でカイとカミルとして話す。


それはとても新鮮で、段々俺たちは二人いるのだなと思えるようになっていった。俺たちは二人とも体を動かすことが大好きだ。でもカイは格闘術、カミルは武術と好みが分かれ、それは少々の体格の差や性格の差を生み出していく。そのうち俺たちが一つだったこともほとんど忘れて、ただの仲のいい兄弟として成長していった。







高等学舎へ入るころになると俺たちはますます格闘術と武術にのめり込み、卒舎前には師範級の免許を取得することになる。なぜそこまでのめり込んだかと言うと…原因は女の子だった。


彼女たちが悪いわけではない。一心不乱に格闘術の訓練をしていたカイに惚れ、数日後に一大決心をした一人の女の子は、たまたまその日に格闘術の訓練をしていたカミルに告白した。「カイ」と呼ばれて告白され、「ああ、そんなに見分けがつかないのか」と衝撃を受けた。武器の手入れをしていたカイへ、カミルに惚れた女の子が告白してきたこともある。


二人で「「…どっちでもいいのかねえ、女の子ってのは…」」と呆れつつ、そっくりすぎる自分たちが混乱の原因なのもわかってはいた。そして、久しぶりに俺たちは共鳴してみた。つまりカイに告白してきた女の子の経験をカミルへ。カミルに告白してきた女の子の経験をカイへ。「「経験を譲渡すれば、彼女たちの間違いはなかったことにならないか?」」と考えたのだ。


結果は…惨敗だった。

リアルタイムで共鳴していたならともかく、「過去の経験」は単純に知識として共有できただけで、ほんとに経験したのはそれぞれなのだから。幼い頃のように「一人」になることなど、もう自我が確立した後では無理な相談だった。


すると、二人にはプライドというものが芽生えた。俺たちは違う人間であり、いくらそっくりでも人違いで告白されて嬉しいわけはない。俺たちを見分ける手がかりが「格闘術をやっていればカイ、武術をやっていればカミル」という程度だったというのは、それは彼女たちが浅い気持ちで告白してきたとしか思えなかった。


それからは、更に自分たちに「違い」を生み出そうとしていった。ヤケになっているわけでも、ライバル意識があったわけでもない。自分自身を、いつか好きだと言ってもらえるように。武器の有無などではなく、こういう考え方をするのがカイ、こういう考え方をするのがカミル、と分かってもらえるように。


きっとそれは周囲にも親切だろうと思うし、自分たちの少々傷ついた心を慰める方法でもあった。俺たちは女の子に好かれる顔のようで、度々告白されたり女の子たちに囲まれたりしていた。だけど「取り違え告白」のこともあって、うぬぼれられるほど単純でもなかった。


俺たちはそれぞれ「この子は”俺”を見てくれている」と思った女の子と付き合うことになって、相手をとても大事にしていたつもりだった。だが、その女の子たちは”カイのイタズラを思い出して笑ったカミル”と”カミルが裏から手を回して仕返しした件を思い出して笑ったカイ”を見事に取り違え、どっちがカイでどっちがカミルかわからなくなってしまった。俺たちはその程度で彼女たちを嫌いになどならなかったが、彼女たちの方が自信をなくして離れて行ってしまった。


それ以来なんとなく”告白してくる女の子”から距離を置くようになってしまった。でも好意を向けてくれる人を無碍にもできず、あいまいに笑ってスッと引くことだけが巧みになっていく。そして声を掛けにくくなるようにと訓練に明け暮れ、自分たちを忙しくし…とうとう師範の免許まで取ってしまった。







軍へ配属になり、双子で共鳴という能力を持つ俺たちは裏の部署へ回された。襲撃をすれば必ずベストタイミングで挟撃ができ、追ってきた相手と同じ顔が正面に現れて驚いた敵に一瞬のスキが生まれれば勝ったも同然。どちらへ敵が行っても近接戦闘でまず負けることがなく、必要とあれば大規模魔法も単独で撃てる。


だが、俺たちの”モテ顔”はあらぬ災難をヴァイスへ呼び込んだ。


俺たちがシュヴァルツだと知らない山吹どもは、俺たちをアルカンシエル軍の広告塔として使いたがった。白縹の双子という、希少性に希少性を重ねた存在が欲しくて執拗に俺たちを追う取材陣。黒の仕事も満足に行けなくなり、ヴァイスは厳戒態勢を敷いて俺たちを守った。


「君たちがこの件を了承してくれれば、この国の大きな宣伝になるんだよ!それと君たちの幼少の頃もきっとかわいらしかったんだろう?その映像記憶や当時のことを知る人に話を聞いて、感動的なエピソードがあればなお言うことなしだ。白縹の地位向上にも役立つ!いつまでも家畜のままでいいのか!?」


不意を突いて警戒網を突破してきた山吹のクソ野郎は大きな声で、まるでアジテーションのように俺たちへ叫んだ。これを聞いていたバル爺は激怒し、もう少しでそいつの首をへし折るところだった。俺たちは学舎へ迷惑がかかる可能性まで考えておらず、真っ青になりながら通信で謝罪した。バル爺の怒りを目の当たりにし、黒の仕事を無自覚にジャマされた軍上層部が激しく抗議して渋々と山吹は諦めた。


この頃には「俺たちは強運だ」などとは、とても思えなくなっていた。まるで厄災のようなこの顔は、シュヴァルツでも”男娼扱い”という、とびっきりの災いを呼び込んで俺たちを激怒させた。





それから…もう俺たちは、俺たちの顔にしか用のない奴等に嫌気が差し、遠くからキャーキャー言う女の子などは笑顔だけ向けて不用意な敵意を貰わないようにフェイドアウト。俺たちがモテまくっていると羨ましそうに言う奴等のために「まあ、可愛い子だったけどな」と余裕の言葉だけを残し煙に巻く。近くにいる人々には俺たちの黒い部分をほどほどにさらけ出し、それでドン引きしてくれるならそれでもよかった。


おかげで気軽に話せる奴等が周囲に残り、俺たちは随分と快適な生活を送っていた。ある日フィーネとコンラートがニコルを連れてきた。この子はとにかく俺たちを無警戒にし、ホッとさせる。この子は表面に惑わされず人を見て、まっすぐで誠実で適度な好意を向ける。なんという安堵感だ、と思った。この素直な子を遠慮なしに可愛がっても、俺たちに惚れることはないだろうという、ちょっとひねくれた安堵感ではあったが。


ニコルはその後、死にかけたヘルゲのことを救ったらしい。これは俺たちがグラオに入ってからようやく知ったことだ。その時に俺たちはコンラートの裏マツリと思って協力していたわけだが、実際はもっと深い事情があったようだ。弟に助けてほしいと言われれば事情なんぞ聞かなくとも協力するから、そんな後になるまでほとんど知りもしなかった。


ニコルは精霊魔法使いである以前にヘルゲを深く愛しているから助けられたんだと今では理解している。ヘルゲは俺たち以上に対人関係の障害持ちだったが、今ではニコルの彼氏として赤くなったり青くなったりしているのが面白い。


…そしてそれは、俺たちには本当にうらやましいことだった。ニコルのように、ヘルゲという人間の本質を愛することができる者というのは稀だ。そういう”運命のパートナー”を見つけられる奴らは本当に運がいい。俺たちよりよほど強運なのだということを、ぜひ知っていてほしいと思う。



ミ「俺たちもじじくさい考え方で後輩を見るようになったもんだよなー」


イ「いいんじゃねえ?気楽だしよ、なんだかんだとやり甲斐のある部署に誘ってもらえて。おもしれーよ灰は」


ミ「違いない、こんだけ面白いとこはねーな。俺たちにジャストフィットだ」


イ「うーっし、俺は今日オスカーとユッテをギチギチに…」


ミ「なんだよ、お前もオスカー面白いか。じゃあ俺はアルマをギッチギチにしよう。ニコルは最近魔法専門だからな、棍はほどほどにしないと…後で俺にもオスカー回せよ」


イ「ち、わーったよ」



グラオ設立と共に俺たちに本当の強運が訪れ、既に「運命」がそばにいたことを知るのはもう少し後の話だ。





  

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