20 僕らキラー sideアロイス
僕がビルギットに軽微な「お仕置き」をしたことで、ニコルは高等学舎で女の子たちが浮足立ってることに気付いたみたいだ。
うーん…なるほどね…嫉妬とは盲点。
ヘルゲはあの通り、華麗な煽りしかできないので僕がフォローしている。
僕?僕は「夕方なら喜んでお供するけど、どうかな?」と笑顔で対応してますとも。
それにしてもねぇ~、ビルギットのしつこさがちょっと違和感あるなーって思って調べたらさ。
「天使と悪魔を昼に海へ連れ出せたら、必ず両想いになれる」とかいうおまじない?だかジンクス?みたいなことになってんだけど…
精神年齢の高い白縹で、まさか17歳でそんなもん信じて、あの美人が動くとは思わなかったわー、ないわー。
つか天使とか悪魔とかヤメテ。恥ずかしくて悶死スル。白霧増エル。
ともあれ、なんぞの新興宗教みたいなことになる前に、と思ってね。
「それ、ほんっと逆効果だよねぇ~。妹に会わせないように画策する女の子なんて、冗談じゃないよ。僕はもっと思いやりのある子がいいな~」
とカラカラ笑いながら学舎の裏手でヘルゲと話し、頷かせた。
ほんと、すごいよね。
裏手にわざわざ僕らが行ったってんで、数人聞き耳立ててたらしいよ、ヘルゲによると。
こわいなあ、もう…
*****
「…くっくっく…うん、なるほど。うん、うん…シブい…くっくっく…」
ヘルゲが…シブい…は…腹が痛い…
ニコルにプレゼントした金色の毛並のくまのぬいぐるみ「ロイ」はもちろん僕の命名だ。
内緒だけど、ニコルを守るために必要な、ある方陣を仕掛けてある。
もちろん覗きとかのけしからん機能じゃ、ないよ?
まあ、その「ロイ」をお気に入りだと紹介されたヘルゲの反応ったらなかったね!
「…ニコル、黒クマのヘルは…いないのか…」
とニコルにしょげた後、村の商店に走ってぬいぐるみを探し、黒くまがないと言って部屋でムッスリし、僕に金色のくまをどこで手に入れたんだ白状しろと迫り(もちろん商店だった)、最終的にマザー経由で商店の発注書を改ざんして、最速で黒くま「ヘル」を手に入れた。
で、もちろん僕が仕掛けた方陣に気付いてたヘルゲは、「あれはいい考えだ。採用する」と言って「ヘル」にすンごい高度な方陣を仕掛けてニコルにプレゼントした。
たいそう喜んで「ロイ」と「ヘル」を抱きしめるニコルを見て、僕らは数か月分癒されたもんだ。
…でもどう見たって、ただの女神教の狂信者で変態魔法使いだよねぇ?
僕、「ヘル」は生贄の供物にしか、見えなかったよ?
まあ、ともあれ。
ニコルは自分が嫉妬の対象になっていると聞いて、少なからずショックを受けているようだ。
んー、そだよね…どんな種類の悪意でも、それが自分に向けられているとわかれば怖くもなるし、対策考えてしまうよね。
でも、僕らと会う頻度を減らすとか言っちゃってるよ、この子。
仕方ないなぁ…
こういう時は、対ニコル用に開発した「特殊笑顔爆弾」と「誘導声弾」の出番です。
これは、「ちょっと僕のお願い聞いてほしいな」という時に役立ちます。
本当に極小のチャームがかかっていて、でも望む返事さえ得られれば後遺症も、本当に惚れられることもございません。
まあ、「対ニコル用」だったはずなのに、最近は女の子排除でかなり使っちゃってますが…
だってこれ以上作戦のジャマになる要素は増やしたくないからね~、出力調整も必死ですよ。
ヘルゲと共闘することになってから、僕もいくつか変態魔法を使わなきゃいけない必要にかられましてね。
一度「おじいちゃん」を介して、ヘルゲ・ニコル・僕に、マザーに気付かれないよう細工したバイパス作りやがったんですよ、あの変態。
そのバイパス使って、マザーを経由せずに直リンクできるんで、秘匿情報とか変態魔法とか高度方陣とかを僕に書き込むんですよ、あの変態。
まあ、本当に必要なモノだけしか来ないからいいけど。これ、心が弱いうちにやられてたら精神歪んで変態になっちゃうよね、あの変態みたいに。
ふう、最近ヘルゲ(に纏わりつく女の子)の後始末ばっかりだから、心が荒んでたな。失敬失敬。
僕って少し精神状態よくないことになると、口調も変わるんだよな、注意しないと。
ニコルに変な目で見られちゃうよ。
まあ、そんな裏ワザを駆使しつつ、ニコルが本当に元気にならなきゃ意味がないわけで。
ニコルにだけは一所懸命、真摯に、真剣に対応するヘルゲがウルトラCをかました。
「ニコルが俺たちといるのを見られたくないのなら、遮光の方陣でも使って見えなくするか?」
ナイス!ナイスだヘルゲ!
僕が押したらヘルゲが引く。
なにこの連携プレー、クセになりそう。
帰ったら対人コミュニケーション担当2(ニコルとアロイス専用)を褒めてあげなきゃな。
つかさぁ…そろそろ対人コミュニケーション担当1(対外用)の煽り属性外してくんないかなあ…僕の仕事増えるんだけど…それと、名前が長くていい加減呼びにくい…
とか考えてたら、ニコルはぶんぶんと頭を振ってから、極上の、最上の、天上の笑顔でこう言った。
「ううん!私お兄ちゃんたちと一緒にいたい!それに、見られたってかまわないよ、自慢のお兄ちゃんたちだもん!」
自慢のお兄ちゃん
自慢のお兄ちゃん
自慢のお兄ちゃん
自慢のお兄ちゃん
(以下無限リピート)
か…
顔が緩む…っ
この子なんなの、僕らキラーの属性でも持ってるの?
ちくしょ、かわいいなあ、もう~