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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
その後の結晶たち
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198 原石 sideコンラート

  







グラオが本格始動し始めると、アロイスの奴は目に見えて忙しくなった。慣れない仕事の采配や予算配分、対費用効果の算出などもとりあえずソツなくこなしているのがすげぇ。

ブレーンにフィーネやヘルゲがいるとはいえ、皆を巧みに動かす手腕はあいつの資質だもんな。


俺やカイ、カミルはニコルたちを訓練することが多い。時折ハイデマリーも来て、魔法の指導をしている。

ハイデマリーは緻密な“幻影”魔法を操るだけあって、魔法制御力がダントツにすげえんだ。マザーの判定だと精度がA+みたいだが、実質S判定でもおかしくないと思う。カミルたちが言うには「マザーの判定なんて適当だから信じるな」ってことだがな。どうも対象者の力量が特殊だったり飛びぬけて上だったりすると「判定がおかしいよな」という事例が多いようだ。


ともあれ、ニコルたちが戦場へ出る日もそう遠くないだろう。それまでにこいつらを鍛えまくって、損傷率を限りなくゼロに近づけたい。



師範であるカイとカミルはこういうことになるとゴツい殺気を出しながら本気で攻めていく。女だろうがなんだろうがお構いなしだ。だが、実はそれをやってもらえる新人は少ない。兄貴たちの殺気なんて受けたら普通の新人は腰が抜けて訓練にもならねえ。



「オラぁユッテ!腰が引けてんぞ!」


「はいっ」


「避けろ!いなせ!隙を突いて必ず急所を狙え!」


「…はいぃっ」


「お前は非力なんだからマトモに訓練した男の剣を受けられるなんて幻想は捨てろ!お前の武器は敏捷性だろうがあ!」


「…はひぃっ」





「アルマ、手首はもっと柔らかくしろ。ナイフや暗器の扱いは繊細さと何よりも慣れだ。日常的に身に着けるのも重要だし、初見の武器でいかに精度を高く扱えるかも重要。お前はこの中でどれがしっくりくる?」


「…たぶんこの指輪、簪、苦無…うーん、スローイングナイフとどっちがいいかなぁ…」


「なるほどな。んじゃ見せ武器はスローイングナイフにしとけ。指輪と簪と苦無は常に身に着けて、まずは慣れろ。ナイフの精度をまずトップレベルまで上げるぞ。他の武器もそれで多少精度が上がる。この苦無は少しアルマにゃでけえな…小型の苦無を用意しといてやる。んじゃ、早速ナイフからやるぞ」


ストトト!


「…なるほど、攻撃は予告なんてあるわけないよねぇ…」


「そういうこと。ああ、悪い…袖を縫い付けられたら動けねーよな。ホレ」


「ありがとうございまぁーす」


スト!


「お前の精度でそれやったらケガすんだろ、俺じゃなくてマトを狙え」


ストトトトトト!


「カミル兄さんはこれくらい避けられるに決まってるでしょぉ~?」


スト!スト!


「お前、いい根性してんな?しかも精度は甘いが急所狙いか、いいぞ~」


ストトトトトト!


「いったぁ~い…!」


「当たってねぇだろ、そんなブラフ効くかボケ」


「チッ」



おー、アルマはスローイングナイフにしたか。俺はサバイバルナイフだから、カミルに任せるのが一番だな。


…セリフ聞いただけじゃわからんかもしれんけど、ユッテはカイのお気に入りだなコレ。そしてカミルはアルマがお気に入り、と。お~コワ…


今日はハイデマリーがいるから、ニコルは魔法精度を上げたいっつってさっきから不思議な訓練をしてる。その辺にあるような石だの訓練用の武器だの防具だのを縦に積んで、倒れないよう生活魔法程度のマナで制御させてる。…アレ、たぶん地味にキツいぞ…バランスもクソもねえ、同じ形でさえないモノばっかだ。



「…ん、上手よぉ。それが出来たらもう一個ね?」


「ふえぇ…ハイ…」


「そ、集中を切らさない。ニコルは精霊と仲良しなんでしょお?いっぱい語りかけなさいな、彼らはあなたを絶対裏切らない。どんなに小さなマナでもあなたの友人なのよ」


「ふあぃ…っ」



…で。俺はといえば、もちろんオスカーの相手をしている。もうオスカーもよそ見して相手にできるほど格下ってわけじゃねえ。なのになぜ俺はゆっくり周囲をみているかと言うと…



「おーら、あと10回だぞーぅ」


「くっそ…!」



俺に一瞬のスキを突かれて腹固めにされ、オスカーが負け。罰ゲームは腕立て50回。「俺を乗せる」という軽~い負荷付きだ。オスカーの背に胡坐をかいて座り、上下しながら皆を眺めていたっつーわけ。



「だっはー…終わったぁ…」


「お、やるなあお前。俺はもうこんな負荷付きじゃ腕立てなんて50回もできねーよ、すげーすげー」


「これが出来てもコン兄に勝てなきゃしょーがねーよ…」


「わかってんじゃん。ま、今までユッテたちと訓練してたんだもんな。他の男どもはお前の相手にならなかったから、筋トレに集中しちまったんだろ」


「うん、あとはメガヘルと組手だったからなあ。コン兄が来てくれると、いつも一気にスキル上がった感じがしてた」


「ま、ここに来たからにはカイがギッチギチにお前を仕上げてくれるさ。心配ないぞ、そのうち俺だってきっと簡単に勝てなくなるぜ」


「ちぇ…そういう言い方する時って、コン兄は内心“絶対負けてやらねえ”とか思ってるだろ」


「ぶっはは、バレたか」




アロイスが“宝玉の影響”って言ってた件を差し引いても、こいつは真面目で優秀だ。俺らは皆4人を育てるのが楽しくてたまらねえ。つい訓練を高度にしちまいがちなんで、なるべく抑えて丁寧に育てなきゃと思ってはいるんだがなー。


だってこいつらほんとに吸収すんの早いんだもんよ…面白いったらありゃしねえ。これは訓練を始めてから、カイとカミルも同意してくれた。師範としてヴァイスで数多くの後輩の訓練を見てきた兄貴たちが言うんだからな、この4人相当だろ。


ま、仕上がるのが早いとそれだけ実戦に出るのも早くなるっつーこった。ニコルを一人で転戦させるようなことにはならないで済むのが幸いだな。






…つくづく、マザーを改変したヘルゲと、グラオを立ち上げて軍規改変したアロイスがすげぇ。基本的にニコルのことしか考えてねえのがわかるぜ、あのシスコンども。


誰も気付かないうちに変える…か。


難しいこと平気でいいやがるって思うけどよ、あいつらが言うと説得力が違うから手に負えねえ。おかげで俺もナディヤと結婚できるようになったしな。


しょーがねぇ、最後までつきあったるかァ。






  

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