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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
その後の結晶たち
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193 卒舎式の大人たち sideアロイス

  






今日は学舎の卒舎式。

5月のさわやかな風が吹く学舎で、在舎生徒の送辞を聞いて泣く子がいたり、主席が答辞を述べたり。先生も感涙に咽ぶ人がチラホラいる。

一年半前まで僕もあの中にいたはずなんだけど、あまりにヴァイスで濃い時間を過ごしたせいか、もうどこか遠くの世界のようだ。


実は去年の卒舎式にも、僕は有休をとって参加している。やっぱり自分が直接指導してきた生徒が巣立つのは見ておきたかったんだ。随分皆に喜んでもらえたので、本当に参加して良かったと柄にもなく感動して泣きそうだった。


今年の首席は、オスカーだ。

やっぱり魔法関係と運動の成績は軍部予定者がダントツだし、加えてオスカーは真面目だから学科の成績もいい。瞳の総合到達度は生来の結晶種類にも左右されるので、卒舎時の成績には換算しない。

緊張しつつ立派な挨拶をしたオスカーは、すっかり大人の体躯で逞しい男になった。懐かしいな、まだ幼い面影があった頃にニコルのことで相談を受けたっけ。


ユッテはちょっとその辺にはいないような、リアと少し似たクールビューティな女性になった。アルマはコケティッシュで小悪魔的な魅力を持った女性に。ニコルは清らかで無垢な雰囲気の女性に。


…ちょっと褒め過ぎかな。まあ中身を知らないと、パッと見そういう感じなんだよねこの三人。中身も知ったらこんな評価は出ないけど、そこは言わぬが花。


卒舎式が恙なく終わり、生徒は皆いったん宿舎へ戻る。これから半月の間に、それぞれが各セクトの宿舎なり、自分で借りた家なりへ引っ越していくんだ。

僕はハンナ先生やリア、ナディヤに会おうと教導室へ向かった。



「失礼しますー、ご無沙汰してます」


「アロイス!今年も来てくれてありがとう。とうとう妹さん卒舎ねぇ、おめでとう。…ほんと、長いような短いような。毎年この日だけは感傷的になるわ」


「ハンナ先生、また一年お疲れ様でした。僕も含めて妹もめちゃくちゃお世話になりました」


「あはは!まったくねー、スッゴイ兄妹だったわ!ハイデマリーは元気?」


「ええ、元気も元気。ヴァイスの姐御は健在ですよ」


「ふふ…ま、こうなってみればあなたたちは本当にお似合いだわ。最初に『意外だわ』って思ったことが意外だってくらいにね」


「ありがとうございます。それマリーに言ったら悶絶するだろうから、楽しませてもらいますね」


「あはは!あんまりイジめないであげてよ?じゃあね、私は謝恩会の準備手伝ってくるわ」


「はい、失礼します」



僕は教導室にリアがいないので、職員宿舎にいるのかなと歩き出した。途中で初等の先生方やナニーに会い、にこやかに挨拶しながら進んでいたら…中庭にリアとナディヤが座っていた。…なんかボーっとしてるな…



「…リア?ナディヤ?大丈夫かい?」


「あら…アロイス!…そっか、卒舎式だから来てくれたのね。ニコルの卒舎おめでとう」


「ありがとうナディヤ。…リア、大丈夫?泣いてるの?」


「えう…うく…ニコルと…アルマと…ユッテと…オスカー…いない…淋しい…アロイスもいなぐなっだ…どんどんいなぐなる…」


「…私もコンラートと結婚したら中央に行っちゃうんだって思ってて…泣き止んでくれないの…」


「だっで…!ゴンラードと一緒にいたいでじょ…当たり前でじょ…」



そっか…さすがにリアには移動魔法のこと、言ってないんだよね。近距離移動はヘルゲの変態魔法だと思ってるし。しょっちゅう帰ってきてるから不思議じゃないのかなって思ってたんだけど、僕らはそういうものなんだって思っちゃってるんだよねリアは。おおざっぱな性格が災いしたか…

ナディヤも移動魔法のこと、話しちゃいけないって分かってるから説明しにくかったんだ。これは可哀相なことをしちゃったなあ。



「リア、大丈夫。学舎には確かにニコルたちはいなくなるけど…ナディヤもナニーをやめる予定はないよねえ?」


「そうよリア。さっきから言ってるじゃない?私はユッテたち以外の子も大事に見てきたし、辞める気はないわ」


「だっで!結婚ずるでじょ!」


「リア、黙っててごめんね。僕らはフィーネとヘルゲのおかげで移動魔法を手に入れたんだよ。しょっちゅう村にいるのはそのせいさ。さすがに禁忌扱いだから迂闊に話せなかった。コンラートはナディヤと結婚してあのアパルトメントに住むだろう。で、毎日移動魔法で中央へ出勤する。僕も同じさ、あの家から出勤してる。だから…いつでも会えるよ、大丈夫。ナディヤも辞めない」


「ほ…ほんど…?」


「うん、ほんと」


「うぶぇ…うあーん、よがっだああぁぁぁ」



ああああ、もっと泣いちゃった…

ナディヤはリアの頭を抱きしめながら撫でて、「もう…リアは泣き虫ね…」と言いつつ笑っている。僕はハンカチを冷やしてリアに渡した。隣に腰を下ろし、そういえばリアってナディヤとコンラートが付き合い始めた頃にも少し不安がってたなってことを思い出した。

淋しがり屋で照れ屋で泣き虫。失言クイーンだけどムードメーカーでトボけてて。リアがいると笑いが絶えない、大事な友達なんだよね。…よし。


「ごめん、ちょっと外すね」と言って物陰に入り、フィーネに通信。



「フィーネかい?」


『おや、アロイス。今日は卒舎式では?』


「うん、実はさ…」



リアが淋しがっていることを伝え、あのアパルトメントにリアを誘ったらどうだろうと言ってみた。



『…そうか、リアはそんなに…わかった、ちょうど3階の住人が出たところなんだ。そこを空けてリアの部屋にしよう。家具はざくっとぼくが買い揃えておくし、ぼくも4階から出勤して、なるべくリアと接触を持つようにしよう』


「そうしてくれると助かる。朝晩のごはんは二人ともうちに来ていいよ」


『あはは、それはぼくにもリアにも最高の誘致条件になるね!わかった、今からミニディアに通信を入れてみよう』


「頼むね」



リアたちの所へ戻ると、ようやく少し落ち着いたらしいリアがコップの水を煽っていた。ミニディアから「みぁ~おぅ、みぁ~おぅ」と可愛い鳴き声がしてナディヤが回線を開く。

フィーネからだと言われてリアは目を丸くした。

アパルトメントに来て三階に住まないか、アロイスのごはんが食べられるよ、ナディヤのごはんも食べさせてもらえるよね、などとフィーネが言葉巧みにリアへ提案。リアはうんうんと頷いた後、また号泣し始めた。



「アロイズのばがぁ~、女いるくせにやざしくするなぁ~」



…あ、さすがに僕の提案だってバレるか。



「大切な友達の一大事だ、優しくするくらいいいじゃないかー」


「ふふ、そうよリア。誰もあなたを一人になんてしないわ」


『ナディヤとアロイスの言うとおりだよ、リア』


「うぶぇーん!!おまえらだいずきだー!!ばがー!」


「「「ぷは!」」」



僕らはやっぱりリアに笑わされ、一時期一人で食べていた食事が随分賑やかになるなと楽しみになった。





  

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