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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
その後の結晶たち
183/443

183 幼児退行 sideコンラート

181話目を移動させました。

完結に際して収まりが悪いなと思い、このお話は後日談の章にまわそうと思います。


既にお読みになった方々、大変申し訳ございません。

よろしくお願いいたします。

  





9月の半ば、週末にアパルトメントでナディヤと話していたらアロイスから通信が入った。



『ヘルゲが完全に治った!もう少しで目覚めさせる予定だ、来れるか?』


「ったりめーだ!今すぐ行く!」



ナディヤも連れてアロイスの家へゲートを開く。もうフィーネもハイデマリーもいた。ニコルは…めちゃくちゃに泣いたという顔をして、アロイスに頭を撫でられている。


…そりゃそうだ。ほぼ死んでいたヘルゲを一人で救出し、他人の心の修復っつー荒業を一手に引き受けてたんだもんな。お前は、強い。俺はお前を尊敬するぜ、ニコル。



「…じゃあ、ヘルゲの時間を、動かすね」



そう言うとニコルはマナを錬成し、スッとヘルゲに向けて放った。


ヘルゲの体に、生気が戻っていく。

青ざめた死体だった体がドクン、と心臓そのものみたいにハネると、さーっと顔に血の気が戻ってきた。



はあ、と息を吐く。息を吸い、息を吐く。

その当たり前の光景が、奇跡に見える。



ニコルに出会って、新しく生まれたみたいだったと言っていたヘルゲ。

そんで、またこいつは…ニコルによって再誕しやがった。

何なんだろうな、この二人は。



ヘルゲの瞳がふるりと震えて開いた。



…なんつう色してやがる…


こういうの…ピジョンブラッドって言うんじゃないのか。

内側から発光しているみたいな、すげえ色をしてる…





ニコルが結界を解除すると、ヘルゲの体に布団がぱふっと落ちた。その刺激でハッとしたように周囲を見回す。のそっと起き上がると、少し照れたような顔をしてヘルゲが第一声を放った。



「…すまん、待たせた。ただいま」



ニコルがまた泣きながらヘルゲに抱き着く。

アロイスはホッとしたように笑い、「体調は?何か食べるかい?」と聞いた。

ヘルゲは「食う。いい酒も出せよ」と言いやがった。絶好調かよ。



「まだお昼前です!お酒はまだですっ」


「ちっ、俺はまだ年末の夜の気分なんだがな」


「フザけんな、9か月前の話だそりゃ」


「コンラート、フケたんじゃないか少し。俺より一つ年上になったんだろ?」


「お前、その軽口後悔すんなよ…?」




さすがに起きたばかりで体調が悪かったらいけないからとガマンしていたが…

俺はやるぜ?やっちゃうぜ?


宴会罰ゲーム仕様の暗器でヘルゲの顔にべちょ!とベトベトのスライムを発射。アロイスはすぐさまそいつを軽く凍らせて目隠しにする。「おい!冷たいぞ!」と言うヘルゲを、即座に捕縛用の方陣でフィーネが縛り上げる。


ニコルはあわあわしているが、おかまいなしだ。俺とフィーネは学舎へ行き、リアとアルマ、ユッテ、オスカーを移動魔法で連れてきた。その間にアロイスは着々と準備を進め、ヘルゲを牽制し、と大活躍していた。


魔法事故に遭った重病人のはずのヘルゲが「お前らふざけ過ぎだ、この気色悪いものを取れ!」とぎゃあぎゃあ言っているのを見て呆気にとられている学舎組をハイデマリーが宥め、お茶の用意までしている。



「よーし、やるかアロイス」


「了解~。はいヘルゲ、楽しい上映会の始まりだよ」



目隠しを取られたヘルゲは目の前のでかいフォグ・ディスプレイを見て「ガッ!」と言ったまま、再度時を止めた。






『こうぎょくのだいぼうけん みんなだいすき!ヒーローのおはなし』




「…え?なにこれ?」「ヒーロー?」「こうぎょくって…」




『にこるー、こっちー』どべちゃ!『うあーん!いたいー!』ジタバタジタバタ


『にこるー、だっこ!』『えー、またあ?』『だっこおぉぉぉ!』ジタバタジタバタ


『守護ー、のっけてー!』ばん!ばん!『…是』『とんでー!』べち!べち!『…是』『ぐぅ…すぴー…』『…今のは眠る前のグズリだったのか…』


『ヘルゲ、待ってってば!』『ニコルおそい』『ヘルゲが速いんだよ、もー!』『しょーがないな、俺が背負ってやる』『…無理だと思うけどなあ…』『いいから乗れよ』キリッ ⇒ ずべしゃ!『…まだヘルゲ7歳でしょ…そりゃ無理だよ…』『ニコルが重すぎる…』ギリギリギリギリ『いてええぇぇぇぇ!』






ふっふっふっふ…俺とアロイスの総力編集だぜ…どうだよこの破壊力は。

ヘルゲは顔を真っ赤にして「勘弁してくれ…」と言った。

俺とアロイスは頷いてハイタッチ。

フィーネは苦笑いしながら捕縛の方陣を解いた。



「…お前ら…ほんとにヒドいな…帰った瞬間にコレか…」


「ま、これで散々心配かけてくれた分は回収させてもらったからね。これくらいで許してあげるよ、ヘルゲ」


「まあねぇ、これだけやらかしてこの程度のマツリで済むなんて…ヴァイスとしては優しすぎるくらいよねぇ」


「はっはっは、ヘルゲ、君の幼少期だけは最高の可愛さだね!ぼくは3歳までの君なら愛せるよ!」




ポカーンと上映会を見ていた学舎組が、遅れて反応し出す。




「ぶぅっく!ぶあっは!これヘルゲ兄~!?ニコルに軽く『幼児退行したヘルゲの面倒見てる』って聞いてたけどさあ!本気で幼児じゃんっ!あーっはっはっは、『だっこおぉぉぉ』だって!あっはっはっは!」


「ニコル!お前言うに事欠いて幼児退行って…!言葉を選べ!」


「え~っ、だって他に言いようがなかったんだもんっ」


「ダメぇ~、死んじゃう…笑いすぎてお腹が痛いよう…7歳で漢気満々に背負おうとして失敗とか…かっこわるーい、ヘルゲ兄さんっ」



ダメだ…俺も死ぬ!


ニコルひでぇ、幼児退行としか説明したら、聞いたやつは全員「大人なヘルゲがバブバブ言ってる」って勘違いすんに決まってんじゃねーか…!!

俺らよかヒデェお仕置きだぞソレ…!!




「…ヘルゲ、かわいそうな男…」


「お前にだけは同情されたくないぞ、リア」


「…ヘルゲ兄、ごめん…俺も同情しすぎて無表情になっちまうよ…どうすればいいんだ」


「…お前は優しいな、オスカー。いいぞ、遠慮なく笑え…お前なら許してやる」


「あの…ヘルゲ、それで今は何歳なの?」


「ナディヤ…何気に酷い質問だな。厳密には一歳下になったようだが、一応お前らの同期のつもりなんだが…」


「まあ…ごめんなさい。だってさっきからヘルゲの反応が人間らしくて、年齢を推し量れなくて」


「…なるほど、ゴーレムから人間に成りあがったと考えてるんだな…お前の包丁も鉄球になるかもしれんぞ…」


「ふふ、やあねヘルゲったら。そんなことしたらニコルにどれだけ叱られるのかしら…」


「ぬ…じゃあ許してやる…」


「…ナディヤ姉、さすが子供の扱いに慣れてるね…」


「ユッテ、お前も仕方ないから許す。だからそれ以上子供とか言うな…」






ニコルはさっきまでの嬉し泣きから一転、ヘルゲを恐る恐る見てはハイデマリーの後ろに隠れる。それを見たヘルゲの野郎の貌ったらなかったね…まるで獲物を見つけた肉食獣みてーに舌なめずりしやがった。


マザーに衝動的な感情を取られたって思ったのは正解だったみたいだな。今までの反動だか何だか知らねえが、今度は「欲しいものはソッコーで奪いに行く」っつー感じだぞ、あれ。逃げろニコル。






  

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