18 ヒートアップ sideアロイス
あれから三年経ったけど、まぁヘルゲには驚かされっぱなしだったな。
マザーにハック仕掛けてて、今のところまったくバレてない、とか。
思考が並列で立ち上ってるから魔法の同時行使なんてお茶の子だし、方陣も大抵の種類を自分で展開できる、だとか。
ニコルに出会うまでは視界がすべて紅く染まってて、それが異常だって知らなかった、とか。
もう驚くのも疲れたよ、なんて思いながら高等学舎にあがりまして。
その高等の宿舎で当然のように僕が同室になることが決まり、初日から部屋に防諜の方陣敷いて、がっつり秘匿レベル7以上の情報を頭に直接書き込まれたときは、あまりの変態魔法に半泣きになりましたよ。それももう、いい思い出デス…
*****
ニコルのことや森に行くことに関しては、隠したり嘘ついてもどうせバレると思った。だから、ほぼ真実を言いふらすことにしたんだ。
「偶然なついてくれた妹分が可愛くてね、僕ら夢中なんだよ。あ、ニコルになんかあったら、たぶんヘルゲがブチ切れて何するかわからないからね、注意したほうがいいよ」
みんなヘルゲの実力は(それでも一部だけど)知ってるし、不気味なヘルゲがキレたらどうなるんだとゾッとしたようだった。
一部、僕の顔を見てゾッとしてるやつがいるけど、どういうことかな?
今晩ピーーーがピーーーになってもいいって、言ってるのかな、アレ。
まあいいか、とにかくこれで、みんな僕らが森にいてもヘンに思わないだろう。
*****
この「妹に夢中」作戦は、もちろん良好に機能した。
でも最近、どうも女の子たちの動きがよろしくない。
男どもはパワーワールドなので、ヒエラルキーの頂点と言ってもいい実力のヘルゲをどうこうしようってのは、ほとんどない。
でもねぇ、こういっては不遜なのはわかってるけども、こんなに女の子に纏わりつかれるとは思ってなかった…
「ねえ、今日は行けるでしょ?昨日は急だからダメだったかもしれないけど、毎日森へ行ってるんだし。一日くらい私につきあってくれても、良くない?」
ビルギットがヘルゲに熱心に話しかけてる。
おお~、アレか、昨夜ヘルゲが言ってた「海へのお誘い」ね。
うーん、一応ヘルゲに「キレるな、がまん」ってクギ刺しておいたけど、がまんできるかな、アレ。すっごい眉間のシワだ…
「無理だ。断る」
安定のヘルゲクオリティだな。
チラリともビルギットを見てないね…
せっかくの美人なのに、ターゲットが悪すぎるよ、ビルギット。
そいつの中ではニコル=神なんだよ…
「じゃあ、いつなら無理じゃないの?それくらい教えてよ!」
あ、やばいかな…ちょっとビルギットがヒートアップしてきた…
「無理だ」
「は!?教えるのも無理ってこと!?」
「ああ」
…ばか…ヘルゲさんのばか…アナタそんな煽り上手でどうするの…
仕方ない、馬に蹴られそうだけど、収めに行くか…
「…っ 人のことばかにして!あんな妄想ばっかりで嘘つくような子のどこに可愛いがる要素があるわけ!?」
ユラリ、とヘルゲが立ち上がった。
「うああああああ、ちょーっと待った!ちょっと落ち着こうか!」
ヘルゲを目で制し、表面上はビルギットに向かって笑顔でまあまあ、と宥める。
「ビルギットもさ、僕らが妹をかわいがってるのは、わかってるだろ?それをどうこう言うのは、ちょっと反則じゃない?でも、悪気がないのはわかってるよ。ヘルゲの言い方も悪かったからね。だからそんなに怒らないでよ、ね?」
「…うるっさいわね!関係ないでしょ、私がヘルゲに話してるのよ!」
おおぉ~、怒り心頭。これが噂の女のヒステリー…
でもまあ、引っ込みつかなくなっちゃったのかな…少しかわいそうだけど。
さーて、こりゃどうやって収めようかなって思ってたら、ナディヤが来た。
「ビルギット、いい加減にしなさいよ…どう見てもアロイスは悪くないのに、何を怒鳴ってるの?少し頭、冷やしなさい?」
ごめん、と小さくこっちに拝んで、ナディヤはビルギットを連れて行ってくれた。
…なんか、苦労人気質のシンパシー感じるよ…
感謝、感謝。
さーてと、次はこっちか。
「ヘルゲ、行こう。な?」
うあああ、眉間のシワが倍増してんだけどおおおお…
ビルギット、恨むよホント…さっきの発言も合わせて、ね。