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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
永遠の一日
175/443

175 ReBirth sideニコル






今日も私は、紅い瓦礫の中をヘルゲと追いかけっこしていた。



「ねぇ~、もう疲れたよぉ!ヘルゲがちゃんと案内してくれないと、私迷子になっちゃうよ!」


「にこるー、こっちー」


「もー…わかったよぉ…」



案内されて着いた場所は、私の世界に一番近い端っこ。



「ここでいいの?」


「うん、ここからきこえうー」


「じゃあ行くよ、息合せてね?せーの!」



二人でマナをその場所にぐーっと注ぐと、小さな清流が復元されていく。



「わあ、キレイだね…ここにいるの?”カケラ”」


「うん、いるー」


「じゃあ、一緒になってあげてねー」


「あいー」



ヘルゲはそう言うと、清流に小さなかわいらしい手を浸す。んしょ、んしょと清流をかき回すけど…そんなに乱暴にしていいのかな…



「あったー」



小さなヘルゲは嬉しそうに手を私の目の前に差し出し、捕まえたカケラを見せてくれた。やった!と二人で喜び、その小さなカケラをヘルゲはあーん、と食べた。もぐもぐ、ごくんと飲みこみ、ぷはーと息を吐く。



「よっし、今日中にもういっこ探せるかなぁ~?ヘルゲはできるかなあ?」


「できうー!できうよ、おれー」



負けず嫌いのヘルゲはぷくっと小さなほっぺたを膨らますと、「あっち!」と指を差す。はぁ、どんくらい離れてるのかな…ほんとにヘルゲの心は広い。





***** ***** *****





あの後、私たちは深い絶望と小さな希望を胸に抱いてマザーの中から出た。

歪な通路を通って紅い世界へ入った私たちは、紅い瓦礫の上にミルク色の棺を置く。

棺に納めた彼の胸には、まだポッカリ穴が開いていた。


私は何をすればいいのか何となく分かっていたけれど…これでダメならどうしよう、と思うと紅い魂を持つ手が震えた。


そっと、胸の大穴に魂を置いた。それはやっと自分の位置に戻ったと安堵したかのように、ずぶずぶと胸の穴を埋めていく。


私は息を吸い込むと、紅くて瓦解した世界を見渡した。




さあ…大仕事だ。守護、頼みます。私まで戻れなくなったら…誰も彼をなおせる人がいないから。だから、私は絶対死なないと決めた。お願いします、私たちを助けて。


( 是 どんなに主が拡がっても…必ず連れ戻す。約束する )




紅い世界は”魂喰ソウルイーター”に突き破られた衝撃で瓦解しただけではなく、深淵にその破片を散らし、もとの大きさの三分の二になっていた。守護は紅い世界によく来ていたし、その飛散してしまった量にショックを受けているようだった。…このままでは、彼をなおすどころではない。


私は、私を限界か…それ以上に拡げて、彼を集める。包帯のように包んで、薬のように彼をなおしてみせる。また、彼に出会いたい。ただそれだけが、私の望みだった。



マナを限界まで錬成する。

ダイブした状態でもマナって錬成できるんだなー、知らなかった。

のんきにそんなことを考えるけど、余裕があるわけじゃない。

逸る心を押さえ、冷静にマナを制御しなくちゃいけないから…逆にストレスを逃がすためか、余計なことを頭の隅で考えているらしい。




精霊に…マナの友に、心から願う。

私は彼を失いたくない。

深淵に散った彼のカケラを、全部…一つ残らず包み込みたいの。

お願いします。お願いです。

私を拡げて。

彼を包み込めるくらい、広く。

彼を捕まえられるくらい、深く。


また…ヘルゲに会いたいの。





精霊たちは、私の願いを、叶えた。


私の意識は薄く、広く、大きく拡がって。

もう自分が何なのか、自分が何を欲しているのかもわからなくなる寸前で。


でも星の大河の中で彼のカケラを見つけるたびに、喜びに打ち震えるこの心だけを持って、悠久の時を、悠久の大河を、彼だけを探して旅をする。



ある場所では、まるで彗星のようにどんどん堕ちていく彼を見つけて追いかけた。

ある場所では、大きな星にぶつかって砕け散った紅い雪を拾い集めた。

ある場所では、光を受けて紅いプリズムのように静かに佇む彼を見つけた。



どれだけの時が経ったのか、どれだけ自分が拡がってしまったのかもわからない。だけど、絶対諦めない。彼を全部見つける。



ある時、守護が私を連れ戻した。

全部集まった、もう大丈夫だと。

そっか、集まったんだ。じゃあ…彼をなおさないと。



もう私は自分がニコルなのかマナなのか精霊なのか星なのか大河なのか境目が曖昧だった。でもやることはわかってる。願う。マナの錬成?そんなことしなくても願いは叶う。そう、願うの。


彼を包む。彼を癒す。彼の心を、彼の傷を、彼が壊された全てを、なおす。




そうして紅い世界へ戻ってみると、ミルク色の棺の中に小さな赤ちゃんがいた。温かくて、しっとりしていて、お日さまみたいないい匂いがする。棺に零れていた紅い結晶を持たせてあげると、手の中で結晶がほどけて吸収され、赤ちゃんは少し大きくなった。


ああ、なるほどって思って、全部の結晶を吸収してもらったら、2歳くらいの男の子にまで成長した。…これで棺の中の紅い結晶は、全部あげたんだけど…


小さなヘルゲはキョトキョトとあたりを見回すと、「あっちー」と指差しては紅い結晶を発見し、吸収した。この瓦礫だらけの世界をしっかり直すには、私の魔法でも時間がかかる。魔法が浸透して、ヘルゲの力が増せば相互作用でスピードも上がるんだろうけど。


とにかく、ヘルゲが自力で結晶を見つけられるほど成長するまでは…私と一緒に探し物をしなくちゃいけないみたいだ。


そしたら…私がダイブアウトしてるあいだはどうしよう。

この瓦礫だらけの世界に一人で置いておけない。


( 主の森で面倒を見ればいい。我らが見ている )


おお…守護ナニー…すんばらしいね、お願いします。


こうして小さなヘルゲと私の、紅い世界での「宝探し」の日々が始まった。





***** ***** *****





小さなヘルゲを私の森で守護に預かってもらい、超久々にダイブアウトした。ああ…まさか何年も経っていました、なんてオチじゃないよね?ほんと、深淵の旅は長かったから…アロイス兄さんたち、心配してるだろうなぁ…何が起こったか、ちゃんと説明もしないで奔走してたからなあ。



疲れて、途轍もなく眠いけど、目を開ける。

…うーわー、懐かしい…ここ、マザー本体の簡易養育室じゃないですか。

アロイス兄さんも、コンラート兄さんも、フィーネ姉さんも、マリー姉さんもいる。なんだか…何もかも懐かしい。



「…みんな…」


「ニコル!…大丈夫か、何があった?」



…は?

え、どういうことかな?

あれ、リクライニングチェアにおっきいヘルゲがいる…あの日と同じ服だ。


( 主、あれから20分も経っていない )


…ええええぇぇぇぇぇぇっ

うっそーん…私…おばあちゃんになってるかと思うくらい深淵で旅してたのにい…え、あれ夢じゃないよねえ?私、ちゃんとヘルゲを集めたよねえ?


( 是 )


うぐぅ…そういえば昔ヘルゲ兄さん・・・も深淵をわたると一気に年取った気分になるって言ってた…こういうことか…


ああああ、だめだ、ほんとにもう眠い…疲れたぁ…



「…ヘルゲは…私がなおすから安心してね…ちょっとだけ、いまは眠らせて…」




私は必要なことだけ伝えると、深い眠りに落ちた。





  

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