17 ヘルゲにお説教 sideアロイス
僕とヘルゲが同室になったのは、高等の宿舎になってからだ。
それまでヘルゲは、中等5年間ずっと一人部屋だった。
あまりの無愛想さに「トラブルになるだろうから」というナニーの判断だった。
ヘルゲだけずるい、というような声も一切なかった。皆やっぱり気味悪がってたからね。
それが中等4年でいきなり僕と行動を共にすることが多くなって、周囲はものすごく驚いた。
僕と同室だったブルーノとデニスも、悪いやつじゃないんだけどやっぱりヘルゲを敬遠してたし、「お前がなんであいつの面倒見なきゃいけないんだ?」と僕の心配はしてくれてた。
ただ、ほんとになんと説明すればいいか、最初はほんとに苦労した…
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あの奇跡的な歓喜の表情(ほとんど瞳だけだったけど)を見せたあと、ヘルゲは少し深呼吸してから「ちょっと待ってろ」と言った。
で、ほんとにちょっとしたら、すごい勢いでしゃべりだしたんだ。
「あー…、すまん、ちょっと調整してたんでな。いきなりで悪いんだが、俺の事情を少し説明して、いいか?」
あれはねー、ほんとになんと言うか…「ダレ?コレ、ダレ?」って感じだったね。
自分でも顔がポカーンってなってたのがわかったくらいだし。
で、ざっと掻い摘むと、ヘルゲはマザーのダイレクトリンクによる養育で、いろいろ事情があるため、極力他人とコミットしないように自分で制限していてしゃべらなかったのだってこと。
で、今みたいにしゃべったり行動する結果を、マザーに品質検査で知られるのがヘルゲ的にすごく困るから、防諜の方陣とかでいろいろ準備してからならしゃべれるってこと。
ヘルゲは自分がすごく「歪んでる」と思っていて、自分と同じように「海」を持って生まれたニコルがマザーに見つかる(今は気付かれていないらしい。何でなのかは調査するつもりだって言ってた)と、自分みたいにニコルが歪む可能性が高く、それを阻止したいと思ってるってこと。
…もうね、なんかさ。
泣きたくなったよ。
何かあるなって思ってはいた。
でもさ!
なんで同じ白縹の兄弟なのに、こいつだけこんなに苦しんでるんだよ?
なんでこいつはここまで自分を抑え込んで、さらに自分を「歪んでる」なんて卑下して生きなきゃいけないんだ?
そんなこと思ってたら、ヘルゲが静かに言った。
「お前が、必要以上に悩むことは、ないんだ。これは完全に俺の事情で、ただどうしてもニコルのことは守ってやりたい。でも、俺はお前みたいにニコルの気持ちを汲んでやれるようなマネが、本当にできないんだ。だから…すまないが、ニコルを一緒に助けてくれないか。頼む」
そういって、頭を下げる。
くそ…こいつは、もおおおおお!
「ヘルゲ、言っておくけどな」
「なんだ」
「ヘルゲがニコルを守りたい気持ちもわかったし、僕だってニコルが傷ついたり歪むだなんて聞いたら絶対阻止したいし、もちろん協力だってガッツリしてやるさ。でもなあ!これは『僕』が決めたことであって、君に頼まれなくたってそうするんだよ!ニコルを守るし、君の『事情』にだって僕は突っ込んでいくぞ。ニコルは二人で守るとしたって、同じ海を持つヘルゲのことは誰が守るんだよ!?そりゃ僕はマザーのことなんて今まで真剣に考えたことなかったからわからないよ。でも学舎での生活は、ヘルゲなんてトラブルだらけもいいところじゃないか、ほっとけるかよ!お前、もう少し人に頼るとか、甘えるってこと、覚えろ!それと、あんまり僕を見くびるな!」
ぜぇ~、ぜぇ~…くぅ、こっ恥ずかしいこと言った…
顔が真っ赤になってるし、情けないことに涙目になってるのもわかってますとも!
最後なんて「君」とか他人行儀にしてらんなくて「お前」とか言っちゃったよ、あのヘルゲに。
…あ。
ヘルゲが幸せそうな、うれしそうな声で「ああ、よくわかった」とか言いやがった。顔は無表情のくせに、器用なやつだ…
くっそ、いつか絶対、こいつの百面相見てやるからなぁぁぁぁぁっ