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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
三つの宝玉
163/443

163 異変 sideコンラート

  




『ねぇ、コンラート。最近のヘルゲって…なんだか不思議ね』



10月も半ばのある日、ナディヤが急にそんなことを言いだした。



俺は新型移動魔法が完成してからこっち、非番の日だけでなくナディヤがメシを作ると言った日は村のアパルトメントに移動して食ってるからしょっちゅう会えている。


ヘルゲも似たようなもので、ヴァイスの食堂よりアロイスのメシを食ってる方が多い。朝はあの家からヴァイスに出勤したり、自由自在に動いているらしい。


たまにナディヤも含めて週末にアロイスの家で皆で遊んでたりするから、ナディヤもヘルゲには会ってるんだがよ。…回数はそんなに多くないような気がする。

そのナディヤが、ヘルゲの様子について話すのは珍しいことだった。



「…何か視たのか?不思議っつー意味がよくわかんねぇんだけど」


『んー…ビジョンを視たわけじゃないわ…ニコルのこともだけど、私たちのことも、すっごく注意深く観察しているような気がするの。興味深いものを見ているような、そんな感じかしら…』


「…そうかァ?あいつたまに妙な思考回路こねくり回すからなァ、何か考えてんのかもな」


『うん、そうね…でも、最近は私にまで柔らかい笑顔を見せることがあるわ。あれが本来のヘルゲなのかしら。だからちょっと不思議な気分だったの』



…なんでだろうな、今ヒヤッとしたぞ。


いい話じゃねぇか、あのヘルゲが人当りのいい態度を取るってぇのは。少しはニコルの努力が実を結んでるのかもしれねぇって考えりゃ、朗報だろうがよ。


…だが、俺の勘が言っている。

あいつ、ちょっと精神状態がマトモじゃねぇ。






ニコルが見たっつう”抉り取られた感情”の話は聞いた。ニコルは愛情を取られたと言っていたが、俺は”衝動的な感情”を取られたんじゃねぇかと思ってる。あいつは自分以外の他人を大切にすることを知っている。やり方はドンくせぇけど、自分なりに愛情を持ってやってんだ。


問題の一つは、ヘルゲ自身が「自分なりに大切にしているが、俺のような者のやり方では、その人は大切にされているとは感じられないだろう。そういう方法でしか俺は人を大切にできていない」と劣等感丸出しに思いこんでいることだ。


もう一つは「自分が大切に思う者を、自分のものにしてしまいたい」という衝動に欠けていることだ。ニコルに近づこうとする害になるような人間を排除するって思考はあるのに、自分がニコルを手に入れようとは思わない。当然、ニコルにはいつか自分が不必要になるだろうとしか予測が立たない。


要・不要。

それでしか、あいつは自分の周囲にいる人間の価値を測れなかった。


そこをアロイスとニコルが守って、フォローして…こんなにあいつの周囲には人が増えているのによ。あいつの良さがわかる人間が、こんなにいるのによ。

それでもあいつは根本的なこれらの問題点を直せなかった。

それは、マザーに壊されて、消されたものがあるからだ。


人は自分の中にあるモノ以外からは答えを導きだせない。

だから、俺らは仲間を頼る。

仲間の経験や知識を持ち寄って、一人では解決できねえ大波を一緒に超えていくんだ。


だが、それをなかなかできねぇでいるヘルゲは…だからこそドンくせぇままだった。



そいつが、計画実行の仲間ではないナディヤに笑顔を向けた?


今までだってナディヤを無碍にしてきたわけじゃない。俺の彼女になったと知ってからは、ナディヤの保安にまで気を回してきた。だが、ナディヤはヘルゲの”内側”に入った人間じゃない。そこの線引きは、アイツの中で確実にあるはずなんだ。

あいつの中で今、何が起こってるんだ?







*****





「なぁ、ニコル。最近のヘルゲの様子ってどう思う」



非番の日、久々に学舎でニコルたち4人の訓練を見てやっていた時にちょっと聞いてみた。



「コンラート兄さん、ヘルゲ兄さんが少し変わった感じがするってわかるんでしょ」


「…んにゃ、正直気付いてなかった。ナディヤにちょいと言われたことが引っ掛かってな。もしかしたら何か不安定になっているか…おかしくなってやしねぇかってよ」



ニコルはちょっと考えてから、「後で通信で話してもいい?」と言ってきた。



『ヘルゲ兄さんの島がね、ちょっと昏すぎるなって思ってた』


「あ~、ダイブすると見れるっつー俺らの島か」


『うん。すごく昏いし…ヒビが入ってる。今にも壊れそうに見えるのに、実際にヘルゲ兄さんと話すと普通だし、逆に機嫌いいくらいなの』


「…本人も気付いてねぇってことか?」


『そうかもしれない。ヘルゲ兄さんってわかりやすいから、落ち込んでるのを隠そうとすれば絶対わかるんだけど…そういうわけでもなさそうで』


「ふん…なるほどなァ…やっかいだな。しばらく注意して見とくか」


『うん、私も何かあったらコンラート兄さんに知らせるね』


「おう、あんまり気に病むなよ」





通信を切り、考える。

アロイスにも伝えた方がいいな、こういうことはあいつが一番敏い。だが…ニコルでさえ理由が判然としない”機嫌の良さ”は何だ。


俺の脳裏に、腹から下を吹っ飛ばされて死ぬ間際の兵士が「あはは、けっこう死ぬのって痛くねーんだな」と笑っていた光景が浮かぶ。…縁起でもねぇ。


何か死んでもおかしくないほどの痛みを、脳内麻薬でラリってゴマかしてんじゃねぇのか、あいつ。でもそれが表に出ないっつーことは…あいつ自身が痛いと認識してねぇってことなのか?…くそ、世話のやけるヤツだな!



俺はアロイスへ通信するため、回線を開いた。







  


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