162 計画と仲間 sideヘルゲ
『やあ、ヘルゲ。久しぶりだね、元気だったかい』
「はい、おかげさまで。なんとか生き意地汚くやっています」
『はっはっは!”山津波”の映像、私もリーヌスに見せてもらったよ。本当に君の才能は底が見えないな』
「あれは方陣研究室のフィーネが考えたんですよ。自分にああいった独特のアイデアはなかなか出せません」
『そう!彼女も奇才だね!ああ、私の所に来てくれないかなあ彼女!パピィの方陣が見たくて、うちの研究室の予算で一体買ってしまったよ。重要な部分を念入りにブラックボックス化してて見れないようにしてあるのは当然としても…私にはとてもマネできないね。ああ、世界には素晴らしい逸材がまだまだいる!』
「…フィーネもデボラ教授にそこまで言っていただけたら喜びますよ。しかし本人は自分で構文を作る類の才能はないのだと嘆いていましたからね…」
『むぅ、そうなのか。だが、ぜひ一度彼女とは話してみたいものだな!…さて、ヘルゲ。ついに立体複合方陣の正式運用が決定したぞ!やっとマザーのマナ容量増加の目途も立ってね、この年末に導入作業の運びとなる』
「…! 年末ですか」
『ああ、やはり休暇でマザーの使用率が落ちるからね。そこを狙って導入作業をする。軍には年末年始を中心とした2か月間は君に出動命令を出さないよう通達するからね、留意しておいてくれ』
「了解しました。…導入フェーズでの自分の役割は、主に障害時対応でよろしいのでしょうか」
『ああ、その通りだ。実際の作業も平行モニタリングもこちらでやる。運用マニュアルは君が既に作成済だし、チューニングも元々がこちらの領分だ。ま、気楽に見物でもしていてくれ』
「そういうわけにも…短時間でもマザーの動作効率が落ちるわけですからね、何かあったらすぐに対応しなければ」
『ま、そこは最初から折込済の導入計画なんだ。気を張りすぎていては疲れてしまうからね。じゃ、導入フェーズの詳細は完成次第送るから、よろしく頼むよ』
「はい、よろしくお願いします」
…とうとう、来た。
今年の年末…それがお前の最後の日だ、メデューサ。
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「うっはあ…じゃあ、僕の藍玉情報が出て…一か月後か。少しバタバタしそうだね」
「まあ、お前の情報でてんやわんやになるのは中枢とヴァイスと養育セクトだろう。大佐たちに任せておけばいい」
『ふむ…そうなると当日の配置はぼくが7色の分体の保守かな。間違っても余剰メモリを作業中のマザー本体に繋ぐわけにはいかないからね…マザーは遅く、ヘルゲは速く…うん、ぼくはそちらに張り付く』
『俺はハイデマリーさんの警護につくぜ。”影”に集中してもらわにゃならんだろ、あんな精密魔法を駆使してたら警戒がおろそかになる』
「私、ヘルゲ兄さん本体の警護につきます。簡易養育室へ誰かが注意を向けること自体を精霊魔法で逸らせるし、何かあったら守護を通してヘルゲ兄さんと連絡できるから」
「…僕は待機しかない…かな?軍が僕をどう扱うかが未知だし、マリーのそばにいると目立つもんね」
「私は基本的にマザー施設内に潜伏って形になるだろうし、コンラートが潜伏場所の周囲を哨戒してくれるんだから安心よ。それよりアロイスは藍玉の件で注目を浴びるはずだわ。ヴァイスや軍の年末パーティで思い切り蘇芳の目を引いてくれた方が助かる」
「…うん。そうするとアリバイは…ヘルゲは”影”で、ニコルは村にいることになってて…フィーネとコンラートとマリーは任務扱いということに、中佐が情報をコントロール。これで大まかなところは大丈夫かな」
「…そういうことだな。ま、あまりカッチリ計画してもな。どこかでトラブルが起こるのが当たり前くらいに思えばいいんじゃないのか。このメンバーなら何が起こってもフレキシブルにフォローして軌道修正できる。…気楽にやればいい、仕掛けは済んでるんだからな」
「あらぁ、リーダーから信頼篤いお言葉が出たわね。上等、それがヴァイスを上手く扱うコツよ」
『バジナとホデクにそれ言ってやってくれよ、ハイデマリーさん』
「言って聞くなら苦労しないでしょ」
…これが、俺たちの計画。
俺の、じゃなくて”俺たちの”だ。
これが、仲間というものか。
俺は…気のせいじゃなくて、もしかしたら本当に。
人の輪の中に、ちゃんと入っているのかもしれない。
そう信じてみても、いいのかもしれない。