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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
三つの宝玉
161/443

161 置き土産 sideニコル

  






フィーネ姉さんとコンラート兄さんの休暇が終わり、私の”研修”も無事終了です。およそ10日間に及ぶ研修は、とっても実のあるものでした。でもやっぱり、学舎のカリキュラムが遅れ気味。ユッテたちに協力してもらって、がんばって皆に追いつこうと思ってます。


それにメガヘルとの訓練がほとんどできなかったので、さすがに鈍ってました…反省です。コンラート兄さんに一撃どころじゃないや…


放課後にオスカーと乱取りしていたら、小声で話しかけてきた。

むぅ、余裕だなオスカー。



「おい、アレ…なんとかなんないのかよ」


「しば、らくはっ 無理じゃ、ないっ かなぁ!えい!」


「…っとと…自分の部屋で落ち込んでほしいよ…集中できないよな」


「じゃあ、オスカーがっ あの独り言、聞いてっ あげれば!やぁ!」


「ぜったいむりだっつの。ほい、終了」


「うあー、参った…鈍ってるなぁ…」



オスカーが気にしてるのは、訓練場のすみっこで座りながらブツブツ言ってるリア先生のこと。つい先日、アロイス兄さんは藍玉の件を学舎内で全職員に公表しました。軍へ移籍の話はかなり現実味のある予測だという見解に誰も異議を唱えることはできず、移籍になるであろうことを前提に動くことになったそうです。


…で、その時にハンナ先生がさらりと「それと、アロイスはハイデマリーと付き合ってるの。維持セクトにその件も伝えておくけど、皆それも一緒に心に留めておいて。理由はわかるわよね?」と発言したそうで…


ま、アロイス兄さんはモテてましたからね。それで一時期調子を崩したくらいなんだし。アロイス兄さんは「ハンナ先生がほんとに言うとは思わなかった…」とガックリしてたけど。




…で、まあ…リア先生が怪談に出てくるアンデッドみたいな状態になってるのはそれが原因なんです。最初、どうしたのかと皆で心配しました。でも心配しても仕方ない内容の独り言だったので、もうほっといてます。



「…ヘルゲ?あれは最初っからニコルがいるでしょうよ、あの隠れロリコン!ニコルが卒舎した頃でも見計らってバックリ喰っちゃうつもりに決まってるわよ。フィーネは一人愛情キャラバンだもの、満足してるんだからあの子もいいのよ…でも今回のはなんなのよ!アロイスめ…!あいつは仲間だと思ってたのに…見た目はいいけどなぜかいい異性が寄り付かない、神に刃向かう仲間だと思ってたのに…極上のイイ女捕まえて幸せそうにしやがってぇ、裏切り者ぉ~!」



…失礼な。ヘルゲ兄さんをロリコン呼ばわりはないでしょ。私だって日々育っているんですよ!ここにヘルゲ兄さんがいたらアイアンクロー決定なんだからね、リア先生!



「まさかアロイス先生を仲間だと思ってたとはな…リア先生、頭いいのにバカだよな」


「ま、ヘルゲ兄がロリコンっつーのは…知らない人から見たらそうなるか?ニコルも胸ないしね…」


「うるさい、ユッテ」


「えぇ~、7歳差くらいどってことないじゃなぁ~い。私、かっこよくて裏の顔がありそうな雰囲気のおじ様なら20歳上でも全然イイなぁ。それで言うとアロイス兄さんて惜しかったのよねぇ…もうちょっとこう…野性味とか危険な匂いとかが足りないっていうか…」


「…アルマの好みって、俺ぜんぜんわかんねぇよ…」


「…ヘルゲ兄さん、ロリコンならまだ良かったよ…それ以前の問題だし…」


「「「…がんばれ」」」



くぅ、リア先生のせいで…なんかイヤな落ち込み方しちゃいそうじゃない!



「皆お疲れ様、差し入れよ。今日はちょっと頑張っちゃったわ、レモンケーキとレモンティー。先に水分補給してから食べてね」


「うわーい!ナディヤ姉さんありがとー!」


「すっごいじゃんナディヤ姉。このレモンケーキうまー」


「ふふ、アロイスとハイデマリーさんへお祝いにって作って渡したのよ。皆にも喜んでもらえたみたいでよかった」


「ちょっとぉ…ナディヤまで神にすり寄る裏切り者を祝うわけぇ~?」


「あら、リア…いたの?てっきり天罰を喰らった悪鬼がいるのかと思ってたわ」


「「「「!!??」」」」


「どういう意味よ~!んむぐ!」


「はい、私の愛情こもったケーキ食べて?これで浄化されたから大丈夫。リアは素敵な女性よ、もったいない時間は過ごさないで。ね?」


「…うえーん、ナディヤぁ~!」




(すっごぉ…ナディヤ姉さんほんとにあの腐れリア先生浄化しちゃったぁ)


(聖女?聖女ですかっ)


(一瞬すげぇヒドいこと言ったけどな…確かに浄化だな、アレ…)


(さっすがナディヤ姉じゃーん。聖女か、いいねぇ。今度そのネタでコン兄イジっちゃえ…うひひ)




えぐえぐと泣くリア先生の背中を優しく撫でるナディヤ姉さんは…まさに癒しそのものでした…




*****




数日後のことです。

なんとアロイス兄さんが応用修練場で、大規模魔法の実演をすることになりました。職員に納得してもらうための措置だそうで、生徒も高等学舎の軍部セクト配置予定者のみ見学が許されています。


で、ヘルゲ兄さんに結界を張ってもらわないと危ないということで…ヘルゲ兄さんも来ているのです。アロイス兄さんと三人で前日に打ち合わせて、一応不可視状態にした守護も保険としてスタンバイしています。

アロイス兄さんはあの一回しかニブルヘイムを出していないので、もしあの時以上の出力になってしまうと本当に危険です。何かあったら精霊にも頼めるよう、私も気を抜かないようにします。



アロイス兄さんは落ち着いていて、「苦手なものから出しますね、火・土・風・水の順でいきます」と皆に告知します。


業火と地壊までは、やっぱり普通の反応でした。アロイス兄さんが中規模魔法止まりだったことを皆知っているので、「おー、やっぱ大規模できるようになったんだなぁ」みたいな感じ。


問題は次からですよね。

まだ正式な名前はついていませんが、あの雪嵐が出ると…暴風あからしまだとばかり思っていた皆は一斉に「えええ!何だよあれ!!」と驚きました。


アロイス兄さんはまた落ち着いた声で、「水がかなりミックスされてまして、特殊型なんです」と説明する。


さーて…守護、頼むね。ちょっとあれは天井も危ないから…よろしく。


( 是 )



アロイス兄さんがぎゅばっ!と収束すると、それだけで「うぉわ!」と方々から驚愕の声が上がる。…まだこれからですよ…



ギシギシギシ ミシミシミシ…パキ…ン!



…ふぅ~、すごいやアロイス兄さん。この前は直径6㎞近い台地だったから、制御が甘いと絶対修練場が壊れると思ってたけど…もう制御してる。高さは屋根にギリギリ届かないくらいに抑えてるし、ヘルゲ兄さんの結界に阻まれているおかげもあるけど直径も応用修練場の範囲を超えてない。

さっすが教導師だね、拍手っ…て、アレ?



…ん~、誰も何も言わないなあ…静かです。

口がパカンって開いてる人ばっかりです。



( 主…輝る水も、昏い火と主にかなりバイパスを通しての影響を受けているようだ。壁ありの宝玉で、いくら特化型といえどもあれだけの出力は通常出ない。それをこの短期間で制御して見せたのは…輝る水の努力と才能だと、我らは思う。周囲が驚くのも無理はないだろう )



う…そっか…やっぱり私って、ヘルゲ兄さんの魔法を見慣れてて感覚おかしいんだね…反省します。


アロイス兄さんは少し苦笑いしながら、「これが水魔法です。津波が凍ってしまうので、広範囲な氷の台地になってしまいます。皆さんには大変なご迷惑をおかけすることになるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします…以上です」と言ってペコリと頭を下げた。



そこでようやく皆が正気に戻って、暖かい拍手や言葉がアロイス兄さんに投げかけられる。アロイス兄さんも笑う。皆も笑う。


…これが、アロイス兄さんが学舎で築いてきた”信頼”と”絆”。


これらを全て捨てて軍へ行くのは、どんな気持ちなんだろう…

きっとこの前マリー姉さんがわざわざ来たのも、アロイス兄さんが何を失くすのか分かってて、どうしても力になりたかったんだ。



「ねえねえ、ニコルぅ…アロイス兄さん制御できてるよねえ?」


「うん、この短期間にすごいよねぇ…この前一回出しただけなんだよ、あの水魔法。なのにもう制御してた」


「アロ兄、料理できるように必死だったんじゃない?」


「あー…そうかも…ほんとに生活魔法を使うたんびに氷がザラザラ出ちゃって、料理も洗濯もできないって落ち込んでたからなあ…」


「俺、生活魔法の制御から丁寧にやり直してみよっかな。もしかしたら収束度とかあがるかもって思った」


「あ~、そうかも。目の付け所がイイじゃん、見直したわオスカー」


「じゃ、皆で明日からやってみよ!」


「おー!」



アロイス兄さんの実演は、こんな風に生徒にも伝播していった。

この後制御を丁寧にやった効果が出たという子がたくさん出現し、”アロイス効果”なんて名前のついた練習方法として定着していくことになる。


アロイス兄さんは、学舎にちゃんと”置き土産”を残してくれたのでした。





  

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