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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
三つの宝玉
159/443

159 シャドウ sideニコル

  





アロイス兄さんの話は、私が知っていることと、少しは察していたこと、それと…まったく知らなかったことが混在していた。


私がマザー施設の養育室を破壊した時に守護が言っていた「間接的加害者はマザー本体の基幹倫理システム」と言っていたことを思い出し、少し身震いした…私はそこまで深く考えずに、ヘルゲ兄さんが…あの子が囚われている養育室を破壊した。

でも、兄さんたちは「これから生まれてくる子」をも守ろうとしていたんだ…



…一生、この二人に私は敵わない。私の、最高の兄さんたちには。



いつも守られてるって感じてた。魂の守護者だと思ってた。それは間違ってなかったけど、こうなるともう…白縹の守護者だって言っていいとも思う。身内贔屓なのはわかってるけど…



ヘルゲ兄さんが病気を装って村に戻ってきたのも、魔法部の重要な人にコンタクトして”仕掛け”を進めるためにマギ言語の研究をしていたのも、アロイス兄さんが教導師になったのも…私や、これから生まれる”先祖返りの子”のためだったなんて。


そうだよね…私が養育施設を破壊したって、同じ施設を作るくらいマザーならやっちゃう。根本から変えなきゃ、意味がなかったんだ…



「ニコル、もしかして落ち込んでる?」


「う…私って単細胞な突っ走り方して…破壊事件起こしちゃって…兄さんたちはもっとちゃんと、深く考えてたのに…」


「あはは、そんなことで落ち込んでたんだ?ヘルゲ、あの破壊された養育室見てどう思ったか…ニコルに教えてあげれば?」


「…お前にそんな話、したか」


「してなくてもわかるって。そのへんは僕にわからないなんて思わない方がいいと思うけど?」



ヘルゲ兄さんは小さく「くそ、ここで話すのか…」と眉間に皺を寄せ、渋々という感じで言った。



「…幸せだと、思った」


「え?」


「俺がアレに縛られてるのが許せない、俺を今よりもっと幸せにしないと気が済まないと、ニコルが思ってるのがわかった。だから、俺は幸せだと、思った」



ぶわーっと、顔に熱が集まるのがわかった。

コンラート兄さんが苦笑してる。フィーネ姉さんがうんうんと満面の笑顔で頷いてる。マリー姉さんが「こういう男だったのねぇ」とヘルゲ兄さんをまじまじと見ている。



泣きそう。

今日のお昼のことなんて、ぶっ飛んじゃいそうに嬉しい。

私のしたことは単純で突っ走った行動だったのは間違いなくて、それは反省すべきなんだけど…それでも。


ヘルゲ兄さんの心に、届いていたことが、嬉しい。


ああ、この人が大好きだ。

途轍もなく、大好きだ…




フィーネ姉さんがハンカチをそっと目にあててくれた。

いけない…ぼろぼろ泣いてたよ、私。



「ご…ごめ…話の途中なのに。気にしないで続けてください、大丈夫だから」


「あはは、わかったよニコル。で、まあ…そこに僕がいきなり藍玉になっちゃったって要素がね…加わったわけで。もし僕の情報を操作して…冬の品質検査でマザーの情報を無理に改ざんした場合、何らかの齟齬が発見されると非常にまずい。ハンナ先生も知ってるわけだからね。誰かがマザーを騙せる技術を持っていることがバレたら、警戒される」


「そりゃそうだな…ひとまず俺はヘルゲとの確執がなくなりつつあるとホデクにゃわかってる。次の内偵は絶対俺にはならねぇだろうな」


「コンラートがシュヴァルツだろうっていうのは何となく察してたけどぉ…黒って兵士をそんなに魔改造してたわけ…?俄然やる気が出てきたわ…」


「マリーもやっぱり戦闘脳なんだな…さすが…」


「あらあ、アロイスも”裏”戦闘脳でしょ…とにかく、ここまで皆のこと話してもらったなら…私もナイショの能力くらい明かさないとね」



そう言うと、マリー姉さんは色っぽく笑いました…なんだかアロイス兄さんが怒ってる時の極寒笑顔に雰囲気が似てて、迫力満点です…

「ちょっと失礼するわよ、ヘルゲ」と言うと、マナをきゅっと収束しました。一瞬攻撃魔法かなって思うくらいの密度だったけど、放出なんてさせずに収束したままのマナを成形させていきます。…こんな手法があったんだ…そして、気が付いてみると。



…ヘルゲ兄さんの隣に、もう一人ヘルゲ兄さんがいますよ…?



「「…”幻影ファントム”か」」


「「「「!!??」」」」



しゃべったぁ…二人同時にしゃべったぁ…



「…ハイデマリーさん、幻影は…質感が非常に本物に近いけど、ハイデマリーさんが命令しながら動作するのでは…それに話せるとは…」


「これは一体しか出せないけど…”シャドウ”よ。本人と思考回路を浅くリンクさせてるから、おおよそ本人が取るであろう行動と発言ができる。行動範囲は私を中心に半径100mくらいね。それと影にされた本体…この場合はヘルゲの近くにいればいるほど思考の影響を受けるから、発言も行動もシンクロ率が高くなるわ。計画に使えそうなら使ってちょうだい」



ぽかーん…すっご…レア・ユニークって、すっご…



「「俺が計画時にマザーへダイレクトリンクする時の影武者に使える。頼めるか、ハイデマリー。…それと、いい加減コイツを消してくれ…」」



そう言うと、二人のヘルゲ兄さんはお互いにお互いを指さして不機嫌な顔をした…



「面白いのにぃ~。慣れればカワイイわよ、影も」


「「いいから、消せ」」


「はぁ~い」



ふっと”影”のヘルゲ兄さんが消える…

ぽかんとしてるのって私だけかもしれない。


コンラート兄さんは「ぶぅっくっくっく…影に”消えろ”とか指さされてるし…」と肩を震わせてる。フィーネ姉さんは「おおお…なんというまろやかなコク…」とマリー姉さんのマナを味わうのに忙しそう。アロイス兄さんは「いいねぇ、マリーの戦闘モード。惚れ直しちゃったよ」とニコニコしてる。そしてもちろんヘルゲ兄さんはマナを収束させながらコンラート兄さんを睨んでいた。



皆、すごい。

私はあそこまで昇っていけるのかな。

いつか、誰かが何かを守る時に…あんな風に大きな力になれるのかな。


ヴァイスに行ったら、こんなすごい人たちに囲まれるんだ。

とても自分が小さく思える。でもとても安心する。

守られてばかりの私だったけど…これからは。


これからは彼らの”仲間”として恥じないように生きるんだ。






  

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