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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
三つの宝玉
156/443

156 残酷な人 sideニコル






フィーネ姉さんとの研修もあと少しです…淋しいけど、おかげで力が安定してきました。精霊の皆と少し気持ちが通じ合ったような気もしていて、フィーネ姉さんには本当に感謝です。

でもやっぱり学舎での生活が犠牲になっている部分はあります。本当は毎日しなきゃいけない修練だけど、私は研修期間中のみ一週間に二回なんです。


その分一回にかける時間を増やして整理しなさいねと言われ、必死に…というほど散らかってはいないけど、いつもより多い記憶や感情の整理におおわらわ。守護と一緒に森を駆け回り、お片付けに奔走していました。



( …主。片付けに夢中で気付かないようだが…島を見た方がいいぞ )


え?ああ…今日もぷかぷか浮いてるねぇ~


( そうではなく…輝る水が変化した )


…アロイス兄さんが?変化ってなぁに?連れてってくれるかな


( 是 )




守護に上空まで運んでもらうと、やっぱり目に付くのはヘルゲ兄さんの島。…あれ、なんか…昏い感じがするんだけど…今日は空を焦がすような炎も、突然生成される岩もないや。元気ないのかな…気になっちゃう。



さて、隣にあるアロイス兄さんの島だっけ。いつもおいしそうな湧水が流れてる…んだ…よね…えええええええ、なにあれええええ!!!!



流動する、水のスフィア…

青いゼリーのような…海が球体になったような、その中に白い島がある。…砂浜?

どういう島なのかよく見えないのは、白い砂の上に金色の輝く何かがすぅすぅ眠っているから。スフィア自体もすっごい光を乱反射してて眩しいんだけど、それより何より、中で眠っている金色が眩しい。


金色が、身じろぎする。

リラックスした眠りから覚め、猫のような伸びをしたかと思ったら…ぶわぁっと翼のような金色の羽衣が拡がった。とても、とても大きいその羽衣は…スフィアを突き抜けて、まるで金の翼が生えた水色のたまごのよう。


さぱ、と小さな水音がしたと思ったら、金色の女の子がちょこんとスフィアの上に座ってる。きょろきょろっとすると、羽衣を引き連れながらまっすぐ私の方にやってきた。


まるで黄金の炎でできたかのような眩しい女の子は、私をじーっと見るとふわりと微笑み、次に周囲の島を巡回しはじめた。いっこずつ確認するかのように、時にはものすごく上空にある大きな島へ報告するかのように駆け巡る。


その速度は光そのもののように。その羽衣の航跡は、とろけた黄金のように。

なにか良くないものを見つけると、まるで戦鬼のように光で貫く。

勇ましく戦う、黄金の女の子…伝説の戦乙女とか、ヴァルキューレみたいな。

ああ、なんてきれい。


女の子は疲れると、また水色のスフィアに戻って来る。うれしそうにとぷんと潜ると、羽衣をなくしたただの黄金の女の子になって白い島で眠る。




…マリー姉さん…




私はなんだか、感動して泣きそうだった。

私の大切なアロイス兄さんを、私よりも大切に愛しんでくれる人がいる。

アロイス兄さんに包まれて、すっかり安心して眠るかわいい人がいる。




…かえろっか。


( 是 )



私は満たされた気持ちで森へ降りていった。





*****




お昼に、学舎の森へ走った。

なんだか気分が高揚して、走らずにはいられなくて。


アロイス兄さんはまだ来てなくて、ヘルゲ兄さんがぽつんと座っているのが見えた。…そういえば、ヘルゲ兄さんの島…元気がなくて昏かった…



「ヘルゲ兄さん」


「おう」



表面上はなんともないフリ、してるなあ…

でもダメですう。私やアロイス兄さんにはソレ、通用しないんだからね。



「落ち込んでるね」


「…」



珍しい、否定しないや。



「どしたの?」


「なあ、ニコル。お前は…絶望を見たことがあるか?」


「…どうだろ…見たような気もするけど、私の絶望じゃなかったと思う」


「そうか」


「ヘルゲ兄さんは?」


「俺は…見たと思ってた。だが、これから本物を見ることになるな、たぶん」


「絶望って、見る予定だって言えるものだっけぇ…?」


「ニコルが俺の手から離れたら、見るに決まっている」


「ええ!?私が?…ヘルゲ兄さんの手から離れるってどういうこと?離れる予定があるの?私は離れたくないって、この前言ったよ?」


「…そうだな、物理的には離れないで済むかもしれんな…」



私はこれを聞いて、カチンときた。



「…私の心が、ヘルゲ兄さんから離れるに違いないって、そう思ってるの?」


「…誰かが、ニコルを守るようになる」


「誰かって、誰!?私はヘルゲ兄さんがいいって!好きだって言ってる!」


「…なんで怒るんだ」


「怒るよ!誰かじゃなくって、ヘルゲ兄さんなんだって、何万回でも言うよっ」


「お前はわからないかもしれんが、俺の役目はあと1年以内に終わるんだ」


「役目!?私を守るのは役目なのっ!?…う…そういう風に…抉れた部分を迂回して、そういう風に思考がいっちゃうのか…ああああ、もうっ」


「ニコル…そんなに怒るな、どうすればいいかわからん…」


「うるさいっ ヘルゲ兄さんなんかこうだ!!」



私は激突しそうな勢いで、ヘルゲ兄さんの顔を掴んでヘタクソなキスをした。

がちんと歯がぶつかって痛い。

ヘルゲ兄さんも「ィテッ!」と言って何が起こったかわかっていないようだった。


顔が赤いのは、怒っているから。涙目になっているのも、怒っているから。


私は痛くなんかないもんね。少しだけ血の味がするけど。


ぽかんとしているヘルゲ兄さんはまだ復帰できていない。

ヘルゲ兄さんの唇が少し切れてるのは、ざまーみろと思うことにした。

私はふくれっ面のまま、ぷいっと踵を返して学舎へ帰った。



途中でアロイス兄さんに会ったけど、「ごめんっちょっとヘルゲ兄さんとケンカした!今日は帰るね!」と叫んでずんずん進んだ。



腹が立つ。腹が立つ。

ヘルゲ兄さんが悪いんじゃないのはわかっていても、腹が立つ。


役目…っ


アロイス兄さんは私が「突き抜けた」時に、義務感から心配して泣いたんじゃない!と叫んでくれた。だけど、ヘルゲ兄さんは…っ


私の心が離れると絶望する、と言ったその口で。


私を守るのは役目だ、と言い放つ。




なんて、残酷な人だ。






  

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