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148 裏の美学 sideアロイス

 




ニコルが楽しそうにここでしゃべっているのを、ハイデマリーさんはわかっているはずだ。さっきの様子では凄い勢いでこちらにやってくるかと思えたけど、一緒におしゃべりしている後輩の女の子たちと楽しそうにしていて来る気配はない。


ニコルもハイデマリーさんに気付いてはいるけど、お邪魔しては悪いから後でクッキーを渡しに行くと言っている。デニスはまだ用事があったらしく出かけてしまったけれど、入れ替わりにカイさんとカミルさんがやってきて、挨拶すると気さくに話してくれた。



「なんだぁ、コンラート寝てんのか?」


「あー、昨日うちで酒盛りしちゃいまして…たぶん寝不足なんですよ」


「っかー、だらしねえカオで寝てるなぁ!ニコル、こういう時はこの半開きの口にカラシを突っ込んで口を閉じ、ヘッドロックでホールド!これヴァイスの常識な?」


「ええぇぇ、ヒド!カイ兄さん私のことダマしてなぁい!?」


「ちぇ、バレたか…」


「カイ、お前聞こえてんぞ…声デカくて起きちまった…」


「くそー、千載一遇のチャンスを逃したな、ニコル」


「私そんなことしないもん!もーぉ、カイ兄さんイタズラとか大好きなんでしょ!」


「お、よくわかったなニコル。でも俺はカイと違ってそんなことしないぞー、安心しろ」


「カミルは裏から手を回すのが大好きなんだぜー、覚えといた方がいいぞー」


「ええぇぇぇ」


「表のカイ、裏のカミルって覚え方だ。一つ賢くなったな」


「自分で言っちゃうのカミル兄さん!?」


「まあ、ニコルにはバレてもいいよ。…アロイスって、俺と似た匂いがするんだよね~…今度ヴァイスで裏マツリがあったら参加しねえ?」


「はは、いいですねぇ。裏の美学が分かる方はなかなかいませんよ。ぜひ誘ってください」



ガシッと握手すると、いーい笑顔のカミルさんと僕を皆がゲッソリした顔で見ている。おや、久しぶりに僕のお仕置き希望なのかな、皆?





楽しい会話の端々で、僕はなんとなくハイデマリーさんが気になって時々様子を見ていた。何でかと言うと、さっきの物凄い違和感のせいだ。

ハイデマリーさんは何だか…少しだけ、一番辛かった時期のコンラートを彷彿とさせるんだ。ちょっと外から見ただけじゃわからないほど、自分の辛い気持ちや葛藤を表に出さない。絶対に周囲に気付かせない強靭なメンタルを持ちながらも、実は誰も知らない場所で瞳の色が溶け出すほど泣いている…そんな感じがしてならない。


あの人は今、心がギリギリなのかもしれない。


…なんでそんなことを思うんだろう。

僕のスタンスは、昔から基本的に傍観。ヘルゲとニコルに会ってからは意識してそういう人見知りっていうか…失礼なほどの警戒心は出さないように気を付けているけれど。…やっぱりヘルゲとニコルだけじゃなく、コンラートやフィーネも大事になって、僕も変化したのかもしれない。ハイデマリーさんを放っておくわけにはいかないと、なぜか強く思う。



そんなことを思っているうち、後輩の女の子に解放されたらしいハイデマリーさんは思った通り凄い勢いでこちらへやってきた。



「ニコルぅ~!会いたかったぁ」


「マリー姉さん!ごめんね、お話をジャマしちゃいけないと思って挨拶しなかったけど…私も会いたかったー!これ、約束のクッキー作ってきたの!マリー姉さんのも大盛りにしてあるから、よかったら食べてー!」


「ああぁぁ~ん、気を遣わせたわ、ごめんねえ。クッキーおいしそう、ありがとお…」


「…ハイデマリーさん、ニコルの隣によかったらどうぞ」



僕が席をずれて隣を空けると、ハイデマリーさんは驚いたように僕を見てからふわりと笑う。「…ありがとう」と少し小声でお礼を言うと、ニコルやフィーネと楽しそうに話し出した。


うん、やっぱりそうだ。

妖艶で余裕のある”かっこいいハイデマリーさん”は、虚像…とまではいかなくても、何かを守るための『鎧』なんじゃないだろうか。それが自分を守るためなのか、仲間を守るためなのかはわからないけれど。


さっき見せた、ふわりと暖かく、少し照れたような笑顔が本当のハイデマリーさんなんじゃないのかな。



うーん…この人…思いっきり泣かせないといけないね。



そんな風に思う僕の顔を見て、カミルさんが「お、何かいいこと考えてやがるな?」と聞いてくる。僕はニコリと笑って、「いやいや、それほどでも」と答えた。そんな僕らをまたしてもカイさんとコンラートがゾッとしたような目で見てくるけど…


やだなあ、僕が女性にそんなヒドいことするわけないだろ?






  

ビルギットさんノーカンの刑。

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