144 大規模魔法見本市 sideニコル
今日も北東の荒野へ、フィーネ姉さんとヘルゲ兄さんの三人で魔法の練習ですっ!
もー、魔法が思い通りに出せるって…こんなに楽しいことだったんだね。精霊の皆にも守護にも、感謝しかないです。それにフィーネ姉さんがいろいろ提案してくれるので、できることとできないことも、よりハッキリしてきました。
やっぱり、私がどうしてもやりたくない!と「心が拒否するもの」はほとんど無理。悪質な心理魔法の類とか、虫みたいなのがウゾウゾ這い回る的な気持ち悪いのとか。それに当然「ここにアロイス兄さんのお菓子を出して」っていうような、単純にマナで実現不可能なモノとか。
「既存の大規模魔法を覚えるのに一番手っ取り早いのは、ニコルが明確なイメージを持つため、実際に各種の魔法を見て感じることだ。そこでヘルゲの出番だね。これは君にしかできないことさ、頼むよ!」
「おう。4属性見せればいいんだな…収束型も両種出した方がいいか」
「じゃあ、あんまり自然破壊しないように守護にも頼んでおくね」
ヘルゲ兄さんの大規模魔法って…防御できる?
( …難しいが、やってみよう。突破されても威力の八割は減衰できる…やらないよりはいい )
「じゃあフィールド殲滅型、”炎獄”から行くぞ」
ヘルゲ兄さんはそう言うと、ィン!という耳鳴りしそうな収束音をさせてから数㎞先の荒野へ無造作に着弾させた。
ドガァァァァァァァァ!!!
…地獄です…地獄が地上に現れました…
( …なんとか…昏い火も多少は手加減している様子だ、助かった )
「次、ホーミングバレット型”炎蛇”」
ゴアアァァァァアアァァァ!!!!
大蛇です…30体くらいの炎の大蛇が咆哮をあげ、うねりながら次々に着弾していきます…
「次、フィールド殲滅型”ニブルヘイム”」
ギシ…ッ
世界が固まったような音をさせて、さっきまでボコボコと煮立っていた地面が静止…ううん、一瞬で水に覆われたかと思ったら凍ってた…
「…ヘルゲ兄さん、水の大規模魔法って”津波”じゃないの?」
「俺がある程度限られた空間で津波を出そうとすると、出力が高すぎるからなのかわからんが、凍る。広範囲に拡散させれば津波になると思うんだが。まあ、バレット型みたいにマナを凝縮させると大抵凍るんだろうな…殲滅型ということもあって、この魔法には特殊な名が付いた」
「ほえぇ…」
「次行くぞ、ホーミングバレット型”グラムス”」
イイィィィィィ…と甲高い収束音がすると、数えきれないほどの巨大な氷の剣が荒れ地…だった氷の大地へ突き刺さっていく。
ドガガガガガガガガガガガ!!
おっかしいなー…私が見たことのある水のバレット型大規模魔法って、もっといわゆる”氷柱”だった気がするんだけど。なんで神殿の柱的な太さの剣なんだろうね…遠近感狂うな…あはは…
「次、フィールド殲滅型”スヴァルトアールヴヘイム”」
「次、ホーミングバレット型”メテオライト”」
さっき刺さった氷の剣が、ゴボリと湧き上がった泥の触手に捉えられて…締め上げられ、壊され、泥の海に呑みこまれて固まった。そして超高度からの隕石群が着弾。
「次、フィールド殲滅型”雷霆”」
「次、ホーミングバレット型”鳴神”」
…オスカーの”風神”より、電気のビリビリ感がすっごい…ミックスじゃないのに、空気中の分子をすごい勢いで振動させて雷撃にしてるんだって…
雷の檻と、雷の龍…
ええぇ~、台風的な突風とか、鎌鼬じゃないの…?
「次…」
「え!まだあるの!?」
「…”山津波”は見たから必要ないか?」
「あ…ああ、ヘルゲ、もういいよ、ありがとう…今の雷霆と鳴神で、髪の毛が逆立ってしまって…」
「うん、なんかファンキーな髪形になってるね、私も…」
ヘルゲ兄さんも逆立ってるだろうと思って見たら、サラサラないつもの黒髪だった。…なにそれー!!!ヘルゲ兄さんの方が水分量の多いステキ毛髪ってことなの!?なんか悔しい…っ
「…皆、お願いがあります…私とフィーネ姉さんの髪に優しく水分補給を…」
( …是 精霊魔法を美容に使うとは斬新だな、主… )
仕方ないじゃないっ こんな頭で帰ったら「魔法失敗して爆発したの?」とか笑われちゃうよ!
しゅわっと細かい霧に包まれて、髪の毛の静電気はおさまった…はあ…
「よし、では練習してみてくれたまえ、ニコル。結界は守護くんに任せて安心だね?」
「うん、大丈夫!」
よーし、とさっき見たたくさんの大規模魔法を一つ一つ思い浮かべながら練習します。…やっぱり、威力は劣るんだなあ…収束をしないのが原因なの?
( 是 収束は主には不要でも、攻撃魔法を効果的に出すにはいい手法だ。マナを凝縮させ、解放する際の衝撃波がそのまま攻撃力に加算される )
ということは…私がヘルゲ兄さん以上の”炎獄”を出せる可能性はないのかなあ?
( 主の魔法が炎獄を超えるには、炎獄よりも高い威力と熱量のイメージを持つことが重要だが、そんなイメージはそうそう作れないかと。…しかし充分すぎる見本なので、昏い火を超える必要性も感じないが )
それもそうか…贅沢になっちゃってるなあ、大規模魔法出せるようになったからってヘルゲ兄さんほどの魔法をさらっと出せたら苦労しないよねぇ。
守護とそんな話をしながら練習していたら、フィーネ姉さんが声をかけてきた。
「ニコル、練習中に申し訳ないが来てくれないかい?」
「はーい!なあに~?」
「うっふっふっふ…ヘルゲといろいろ話していたんだがね…やはり精霊魔法の真価は4属性の中間にあると思うんだよ…」
「中間?…あ、ミックス魔法?」
「そういうことだよ。まあ、4属性に縛られる必要もないと思うが…ぼくとしては混成、連続、更に混成連続魔法といったものもできると思うんだよねぇ!」
「う…ちょっとうまく想像できないかな…」
「つまりね!精霊たちへのお願いを例として挙げると…『直径5㎞くらいの岩盤を、風で吹き飛ばして浮かせて』と願い、その直後にまた錬成して岩盤を認識しつつ『あれをひっくり返して』と願う…こんな手順で連続してお願いするとどんなことが起こるだろうね!君の錬成速度ならいけると思うんだが?」
「うは!おっもしろそ~!よし、行ってみよ~う!」
という訳で、お願いしまっす!直径5㎞の岩盤を真上にぼん!と吹き飛ばしてみてください!
( 是 )
…いまだー!あの岩ケーキをグリンと!ひっくり返してみて!
( 是 )
ズ ドォォォォォン…
「うっひゃー、大成功だよフィーネ姉さんっ おもしろーい!!」
「おお、一発で成功かい…本当に君の精霊たちは優秀極まりない。しかもスッポリと穴にハマっているではないか…なんというストレス解消…」
「ねえねえ、ヘルゲ兄さん!私の魔法にも特別な名前付くかなあ?」
「…あ…ああ…俺のは見ていた連中が勝手に付けたがな。自分でつけてもかまわないんじゃないのか」
「えっほんと!?」
「今の魔法ならかなり極悪に町一つを地下へ葬り去れるぞ…黄泉とかカタコンベとかでいいんじゃないのか」
「ええぇぇっ そんな怖いのやだっ フィーネ姉さん、”パンケーキ”なんてどお?あの岩ケーキ、おいしそうだったしキレイにひっくり返ったよね!」
「おお、それはニコルらしい。可愛くて食べてしまいたい名前だねえ」
「じゃあさ、じゃあさ、半球状の岩と岩をばちーん!ってぶつけて、挟んで潰しちゃうのは?綺麗にキマったら”マカロン”って名前つけられる!」
「あっはっはっは!なるほど、付けたい名前から魔法を考えるというのは斬新だ!それが状況に応じて使い分けできれば素晴らしいだろうね」
「っはぁ~、楽しい~。ヘルゲ兄さん、おっきい魔法を使うって、楽しいことだったんだねぇ」
そう言うと、ヘルゲ兄さんはちょっと呆れたような、でも嬉しそうな顔で「そうだな」と頷いた。収束ができないでずっと悩んでた時は、心配そうな顔させてたもんね…こんな風に笑ってもらえる魔法が撃てるようになってよかった…
その日、晩ごはんの支度をしているアロイス兄さんをじーっと観察していました。
おお…すっごい熟練の包丁技です。千切りの速度がハンパない。風魔法でいーっぱいスライスしちゃおっか…でも魔法名が”千切り”ってちょっとな…ふぉ~、ワインをフライパンに入れたら炎が…あ、知ってるっ あれフランベって言うんだよね~、名前かっこいいかもぉ…でもあんまり強い火力がイメージできないかもなー…やっぱりお菓子シリーズがかわいいなっ 女子会のお菓子を書き出してみようかな…うん、それがいいっ
「…くっくっく…ニコル~、料理してる横で百面相しないでよ~。面白くて焦がしちゃいそうだ」
「あ!ごめんねジャマだったね!」
「いや、いいんだけどさ…どうしたの?」
「うん、魔法のヒントを探してて…アロイス兄さんて女子会のお菓子レシピはどうやって探してるの?」
「ん?図書館だよ?」
「なるほど…でも食べたことがないとイメージ湧かないかな…うーん」
「それは僕に作れということかなー?」
「はぅっ そういうつもりじゃなかったけど、一概にそうじゃないとも言えないです!食べたいです、そしてカワイイ魔法を作りたいっ」
「あははは!なんだそれ~。可愛い魔法って?」
「食欲の湧く魔法!そんでスッキリサッパリする魔法!」
「ぶっは!なるほど、ニコルがそういうワケわかんないこと言うってことは、夢中になって魔法開発してるってことだね。じゃあフィーネがいる間にやろうって言ってた屍の宴の時にでもがんばるかな」
「きゃっほーぅ、よろしくお願いしまーす!」
明日はマカロンの実験とぉ~、シブーストにも挑戦しちゃおっかな!アロイス兄さんがキャラメライザーっていう道具使ってるの見て思いついたんだけど、何も炎を上げなくても地面だけめっちゃ温度上げて焦がしちゃうってアリだと思うんですよねっ
フィーネ姉さんに相談しーようっと!