143 大規模な孫バカ sideコンラート
ヘルゲが作った新型移動魔法はおっそろしく役に立つ。
これは下手にデミへでも流れたら最後、盗み放題の殺し放題っつー恐ろしい事態になること間違いなしだからな…ま、俺もそうそう変わらない使用目的で仕事を強制終了させたわけなんだがよ。
2か月かかった今回の仕事の後、懲りもせず別の仕事に放り込もうとするヘド…ホデク隊長を躱し、既定の休みを申請した時だ。
「…そういえば紅玉とずいぶん親しくなったようだな?さすがに1年も接触していれば情も移るか?」
「紅玉本人に対しては、甘えた男だという評価に変わりありません。ただ、任務中に接触した少女Nとは、さすがに仲よく過ごしたものですから。主にその話題で共通点があり、軽口を叩ける程度になったということです」
「ああ、緑玉になった娘か。パッとしない成績から一転…すごい変貌の仕方だな」
「そうですね、あれは自分にも予測が付きませんでした」
「ま、成長期にはそういうこともあるのかもしれんな。わかった、ご苦労」
「失礼します」
執務室を出て歩き、ヘルゲが中央へ戻った直後のことを思い出す。
白縹の養育室でヘルゲの記録を見たホデク隊長は、ド汚ぇ部署のトップにしちゃ驚くほどの一般的な反応を見せた。つまり「あんなことは子供にすることではない」とショックを受けていたんだ。アレかね、ド汚ぇモンばっか見てるからこそ子供をいたぶることに嫌悪感があるワルってのはいるからな…そのタイプだったか、ホデク隊長も…
あれを見るまでは「甘ったれたバカを連れ戻す厄介な任務をバジナにもらった」くらいにしか思っていなかったはずだ。表立って動くと軍部と魔法部の軋轢がヤバいことになるからシュヴァルツに依頼されたものの、サクッと殺せば済む依頼じゃないからな。
で、記録を見た後は…ホデクにも人間らしい感情があったのか、見当違いではあるが「簡易養育室」をわざわざ作る程度にはヘルゲに同情していた。…いや、家畜であり、あんな人体実験をされてもおかしくない環境にいる白縹に同情した、と言うべきか。俺にまで妙に優しくなった気がして、正直居心地悪ィ事この上ない…
俺に直結回路をつけてくれた礼がしにくくなるのは勘弁だぜ。
ヴァイスに戻って村へ帰省予定と申告すると、速攻で大佐と中佐に呼び出された。
「コンラートよぉ、おめぇ今からアレで村に戻るんだろ?これ持って行け」
「ああ、こっちもだよ。学舎に届けな」
そこにあるのはコンテナに詰め込まれたパピィとパープが数体ずつと、ヴァイスの専属コック謹製デザート各種詰め合わせだった…
「孫ボケもいい加減にしろ」
いつもはこの二人を尊敬しているから多少丁寧に話すってのに、思わずドスの利いた声が出ちまったじゃねぇか…
「あたしゃ学舎の武術と格闘術の水準を上げ、質のいいヴァイスを確保するための投資をするだけさね。孫ボケはこっちの爺だけだよ」
「うぉい、エレオノーラぁ!お前昨日”フィーネに金が回ると自動的に可愛いニコルの役に立つところへ流れる”とかマナ見ながらブツブツ言ってたじゃねぇかあ!」
「うるっさいね、レディの秘め事を簡単に暴露するもんじゃないよ!」
「…わかりましたって、持っていきますよ…じゃなくて、そのコンテナ!ゲート潜れないじゃないスか!」
「ああ、そりゃ問題ないよ。アンタを呼んだのは座標を絞らせるためさ」
「は?」
「いいから、この二つの移動魔法に村のアンタの部屋を座標設定してみな」
言われた通りにすると…いつもの3倍近いデカさのゲートが俺のアパルトメントに繋がる。口をあんぐり開けると、大佐はガシッとコンテナを持ち上げ、「そぉい!」と言いながら当たり前のように運び込んでいった。
「ちょ…なんで俺の部屋…」
「あんなの学舎に無断で置いたらただの不審物だろうに。今の要領で、ヘルゲと一緒に学舎へ届ければいいんだよ」
「…うーっす…」
「ああ、それとね。アロイスとか言ったかね、教導師でニコルを守ってるのは」
「そうっすよ」
「…その坊主に、何かあったら私に相談しなと言っておきな。軍属じゃなくたって腕白坊主のドラ息子にゃ違いない。考えすぎるなってね」
「ぶっは、わかったよエレオノーラさん。ヘルゲに言って、通信機作ってもらっとくわ」
「ああ、そりゃいいね。じゃ、荷物は頼んだよ」
そして俺はいったん自室へ戻り、自分の荷物を持って再度アパルトメントに入った。
コンテナの迷路と化した部屋に呆然とした。
…今晩、アロイスが話あるからニコルが寝た後集合って言ってたよな。泊めてもらおう…
*****
「アロイス、客間はニコルちゃんが寝てるんだろ?悪ぃけどリビングのソファで寝かせてくれ」
「いいけど…どうしたんだ、疲れてるのかい?」
「んにゃ、そーじゃねえよ。…あー、見てもらった方が早ぇか。おい、ヘルゲも来てくれよ」
「なんだ」
「大佐と中佐から、ニコルちゃんに貢物だ」
俺はアパルトメントにゲートを開け、コンテナ迷路を見せた。
「…なんだい、これ…」
「パピィが4体にパープが2体。初等・中等・高等に2体ずつヴァイスから寄贈だとよ」
「な、オトし方が普通じゃないと言っただろう?」
「うん…理解した…それとコンラートがここで眠れないわけもね…」
「ちなみにニコルちゃんが気に入ってたヴァイスのデザート詰め合わせがバル爺から来てる。で、パピィは…売上金がフィーネに入れば、ニコルの役に立つところへ金が自動的に流れるって理由だってよ」
「…規模の大きな孫バカだね…」
「あ、それとな…ヘルゲ、大佐と中佐にも通信機作ってやれねえか?俺らが連絡しやすくなるのも利点だが、ニコルがジジババに連絡すりゃ機嫌も良くなるだろ?んで…中佐からアロイスに伝言だ。『何かあったら連絡しろ。軍属じゃなくたって腕白坊主のドラ息子にゃ違いない。考えすぎるな』だとよ。…今回のことも中佐に相談できてりゃ一発だったかもな」
「はは…あははは!本当だね、すごい人だなエレオノーラさんて人は…僕が悩みすぎることまでお見通しかあ。是非お話ししてみたいよ」
「そのうちニコルと一緒にヴァイスへ行ってみるといい」
「そうだね~、どれだけニコルがヴァイスを落としたのかも、この目で見てみたいしね」
後日、ヴァイスへ二つの通信機と大量のクッキーを持ったニコルを連れてアロイスがヴァイスへ出向くんだが…すげぇコトになった。うん、ほんとにスゲェことに…なった…
アロイスのヴァイス訪問は、もう数話あとに出る予定です。