14 お兄ちゃんを怒らせてはいけません sideニコル
今日も元気に、森へれっつごー!
基礎修練もがまんしていっぱい「整理」してきたし!
応用修練はたくさんマナの錬成ができてるってほめてもらえたし!
うっふふー、ヘルゲお兄ちゃん、頭なでてほめてくれるかなぁ~
アロイスお兄ちゃん、「よくできたね」って頭ぽんぽんってしてくれるかなぁ~
おじいちゃんの木に近づくと、アロイスお兄ちゃんの声が聞こえてきた。
…ん?なんか…変な空気??
「…で?君はなんでそれでそこまで不機嫌なわけ?僕はうらやましいくらいだけど?」
「不機嫌にもなるだろうが。あの女、俺の逆鱗に触れたんだ。消し炭にしないだけ我慢してるだろう」
「ちょ…『あの女』なんて、かわいそうだろ…まあ、ちょっと彼女も言い過ぎだけどね」
うおわ、消し炭!?
ちょっとちょっと…ヘルゲお兄ちゃんがこんなに怒ってるの初めてなんじゃ…
「ヘルゲお兄ちゃん、アロイスお兄ちゃん…どうしたの?何怒ってるの?」
恐る恐る近づいていくと、アロイスお兄ちゃんがニコル、と笑顔でおいでおいでしてくれた。
とすん、と二人の間に座る。
うわぁぁ、ヘルゲお兄ちゃん、むっちゃ眉間にシワ寄ってるぅぅ…
「ニコル聞いて聞いて!ヘルゲねー…」
「黙れ」
うひゃっ地獄ボイスぅぅ!
こわいこわいこわいぃ~
「ヘルゲ、ニコルが怖がってる。いい加減にしなよ」
「む…すまん…ニコル…」
「ううん…ヘルゲお兄ちゃんどうしたの?なんで怒ってるの?」
「う…」
黙っちゃった…
アロイスお兄ちゃんが私の頭をぽんぽんしながら、ヘルゲお兄ちゃんに諭すように話し出した。
「ヘルゲ。何もビルギットが悪くないなんて、僕は言ってないだろ?」
ビルギットお姉ちゃん?お兄ちゃんたちと同期の、こげ茶色の瞳の美人さんだったような…
「ふん…さっきかばってただろうが」
「ニコル、ヘルゲはね、ビルギットにお昼ごはん一緒に食べて、海まで散歩に行こうってデートのお誘いを受けたのさ」
「えええぇぇぇぇぇ!」
すっご!すっごい!オトナの話だったのかぁ~!デートだって、デート!!
ヘルゲお兄ちゃんてモテるんだなー、学舎では少しも笑わないのに!
「アロイス!!」
うきょっ
地獄ボイス大音量ばーじょん…
「ほら、話はこれからだってば。そんな怒鳴らないの。でね、ヘルゲが断ったわけだよ。例によって、一言でバッサリとね。『断る』とか言ってさ」
ヘルゲお兄ちゃんのマネで声を低くしたアロイスお兄ちゃんは、目つきまでマネてる。ちょっと…ヘルゲお兄ちゃんの後ろに、黒っぽいナニカが…
あんまり怒らせないでよお、アロイスお兄ちゃん死んじゃうよお。
「で、ね。怒っちゃったビルギットが、ちょっと言ってはいけない一言を言ってしまったわけ。だからヘルゲが怒ってるんだよ。どうも昨日も断ったらしくてさ、それもあったんだろうねぇ」
あ、昨日少し不機嫌だったのって、それでか…
「だから…っあの女がよりにもよってニコ」
「はいストップ!」
ん?アロイスお兄ちゃん、なんか目が…あれれ?
怒ってるのはヘルゲお兄ちゃんじゃなかった??
「誰が許すって、言ったかな?僕もアレ聞いてたんだよ?怒ってないとでも思ってるの?それにビルギットは今晩、髪の毛に膠がまんべんなくついて、朝起きたら香ばしい匂いと共に芸術的な髪形になってる予定だけど?」
…
…
きゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
あわわ、ヘルゲお兄ちゃんまで固まってる!
さっきまで右にいたヘルゲお兄ちゃんから黒いナニカがぶわぶわ出てたのに、今は左側からすんごい冷気が漂ってくるよう!!
「ヘルゲお兄ちゃあん…」
「ニコル…だめだ、俺には止められん…すまん、俺が不甲斐ないせいで…」
アロイスお兄ちゃんの笑顔がっとろけてる…っ
ビルギットお姉ちゃん、逃げてぇぇぇ
「ニコル?ビルギットにも誰にも、言っちゃダメだよ?わかってるよね?」
ニッコリ。
私はガクガクと頷くしかありませんでした…うう
翌朝、ビルギットお姉ちゃんは後頭部のひと房だけ髪の毛が上に立ってて、洗っても変なにおいが取れないって泣いてた。
アロイスお兄ちゃんにやめてあげてって頼んだら、わかったよ手加減するからねって言ってたのに…あ、まんべんなく、がひと房になったってことなの?
それにまったく原因がわかんないらしい。魔法も何も痕跡がないらしくて、誰かのイタズラなのか、事故なのかさえ。
ごめんなさい、ビルギットお姉ちゃん…
…絶対、絶対怒らせないようにしよう…アロイスお兄ちゃん最恐…