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126 精霊魔法 sideニコル

  





「あのね、アロイス兄さん。私…自分がなんでこう・・なのかわかったの。私、軍で攻撃魔法をガンガン撃つために生まれたんじゃ、なかった。私はきっと、守ったり、なおすためにこの力を持って生まれた。たぶん…きっと、そうなの」


「…治癒魔法とは違う…のかな?」


「ん、違う。でね、たぶん今回の使い方みたいに…盾を攻撃的に使うことも、もちろんできると思う。逆に盾を本来の意味で使えば、自国の軍全部を盾で守ることも可能だと思うから…だから、私は軍での使い道があると思うよ。もう軍に行くことに関して、イヤだとか怖いとかは思ってないの」



まずは、とにかく自分に起こった最大の変化を…それを話そうって思った。今まで、皆と同じように収束もできなければ魔法も撃てないのはなんでだろうって落ち込んだけど、おじいちゃんが言ってたように、「私の真価はそこにはなかった」。


皆が魔法を使う時、マナを「燃料」として錬成し、燃料に「どのように、どこに攻撃を仕掛けるのか」を収束して命令し、座標設定どおりに放出して着弾、破裂させる。


私は少し違っていた。

私はマナを「友人」として錬成し、話しかける。

それはたぶん…もう失われた、「精霊魔法」と呼ばれる古代魔法。


精霊魔法は、攻撃の為にシステム化された「錬成・収束・放出」の手順では使えるはずのない魔法で。きっと他部族の人だって使おうと思えば使えるだろうけど、白縹である私が一番大規模に使えるであろうことは容易に想像できる。


私の「友人」は私が望むことに応えるべく存在するので、私が大規模攻撃魔法を望めばやってくれるだろうし、違うことを望めばその通りに動いてくれるだろうと思う。金糸雀の昔話にあった「大きな魔法」も…「友人」にお願いした結果だったのかもしれない。


そして、私の願いは昔から「昏い火をつつんで、なおす」ことだった。






アロイス兄さんには、もう一つ伝えなければならないことがある。正直に全てを話すには、避けて通れないこと。恥ずかしい、黒歴史の一番の原因。うう…



「私ね、ヘルゲ兄さんのことが好きなの。私の好きな人はヘルゲ兄さんで、きっと私はずっとヘルゲ兄さんしか欲しくない。そういう、好き、なの」


「…そっか…じゃあ、この一年はほんとに辛かったね…」


「う…それは、言われると恥ずかしいっていうか…アロイス兄さんに甘えて、一人で不貞腐れてた自覚があるから…ごめん…」


「はは、ニコルは恋している自分がわかってなかったのと、急にヘルゲがいなくなって淋しいのと、ごっちゃになってたってわけか」


「う…誠に申し訳なく…」



ああああ…やっぱりアロイス兄さんにはわかりますよね、そうですよね。うわーん、穴があったら入りたいとはこのことか…



「あははは!よっぽど恥ずかしいんだなニコル。まあでも、僕もうっすらとしか分かってなかったよ。妹として僕もヘルゲも溺愛していた自覚があるしね。境目はわかりにくかったはずだよ。…あれ、でも…ナディヤはわかってもおかしくないような…ナディヤに何か言われなかった?」



うあ…そこまで読むんだ…

でもまあ…笑い飛ばしてくれて、正直助かったかも…


緊張していた心がほどけていく…



でも、しばらく話すとアロイス兄さんは少し苦笑いしながら、しょぼんとした。さっき”母の轍”のメモを見ていた時みたい。もしかして…収束ができない原因を考えまくっていたのに、自分が解明できなかったせいで、私がひねくれたって思ってる?ううん、これは、もしかしなくてもそうだ。


…違うよ、アロイス兄さん。違うんだよ。私が先祖返りなのが原因であって、いっこもアロイス兄さんのせいじゃないんだよ…!


私は申し訳なくて、アロイス兄さんをどんなに支えにしていたか、どうしてもわかってほしかった。…そうだ、大木の…あの声の話、しなくちゃ…



「ありがとう、アロイス兄さん。あの声があったから、いっぱい思い出したよ。昔っから兄さんたちが私を守ってくれてたこと。…それでも恥ずかしかったのと、意地っ張りがここ半年で板についちゃってて…なかなか素直になれなくて、ごめんなさい」



がんばった。私、がんばって、情けなくて恥ずかしいことを話した。

そうしたら…アロイス兄さんがポロポロ泣き始めた。

ああああ…どうしよう。

あの”突き抜けた”時とおんなじだ。


私のことが心配で心配で、私がどうにかなってしまわないように張りつめて。大木で声を聞いただけで切なくなってしまうほど伝わっていた感情が、目の前であふれてはこぼれる。

こんなに、私は愛されている…


アロイス兄さんは恥ずかしそうに涙を拭うと、悔しかったのか私に反撃を始めた。



「…ニコルのせいでマジ泣きは二度目だぞ。甘やかし倒してやるから、覚悟しなね」


「あはは!これ以上甘やかされてダメになったら、宝玉認定取り消されちゃうよ」


「いいじゃないか、ヘルゲなんてほっといたって死なないし勝手に帰ってくるよ。軍になんて行かないでここにいなよ」


「うあー、それも魅力的だな…」


「ここにいたらおいしいもの食べ放題だよ?」


「うっ」



なんという的確な攻撃…っ

畳み掛けるような絨毯爆撃に遭い、ほんとに軍に行きたくなくなってくる。

ヘルゲ兄さんがげっそりするほどのごはんを、私も食べなきゃいけないんだもんね…軍のレーションにおいしいお菓子が入ってるなんてありえない…ガックリ…戦場行く時に、ナディヤ姉さんのアイスボックスクッキー作って荷物に入れられるかなぁ…





あ、そうだ。

戦場行きで思い出した…通信機もらったんだ!

でもアロイス「先生」はダメって言いそう…なんとか許してもらえないかなあって思いながら見せると、「ヘルゲ…我慢できなかったんだな、あいつ」と苦虫を噛み潰したような顔をしつつ、許してくれた。やった!!きゃっほーぃ!と思って浮かれていると…すっごい重大事項が残っていたことを思い出しました。



「ユッテもアルマも欲しがるだろうなぁ~…ま、卒舎する頃には二人と、オスカーの分くらいは用意してあげないとね」


「あ…オスカーにも…ちゃんと言わなきゃ…」



優しくて、頼もしいオスカー。ずっと待たせてしまって…その上期待に応えられなくて、ほんとにごめん…もう、こればかりは。

実は少し前に恋を自覚したものの、どうやってもヘルゲ兄さんに届かない自分の非力さを嘆いて…自分のことばかりで、オスカーにどう言おうということまで頭が回っていなかった。

情けない…誠意の欠片もないな、私…


恋を自覚したからこそ、思う。

なんていう残酷さだろう。

恋しい人はたった一人、ヘルゲ兄さんしかいないから、私はオスカーを差別しなければならないんだ。だからこそ、オスカーには真摯に話さなきゃいけない…



「そっか…オスカー大失恋だな。僕もできるだけフォローするよ」



私が、本日幾つ目になるかわからない「自分の情けなさ」に打ちひしがれていると、アロイス兄さんがサラリと爆弾発言をした。



「うふぇ!?なんでアロイス兄さん知ってるのぉっ」


「うーわー、ニコルの鈍感ってまだ健在か。オスカーが最初に相談しに来たのは僕だよ?ユッテとアルマはオスカー見てて普通に初期から気付いてたしね」


「あぅ…ソウデスカ…」



がくーん…

私…そんなに…鈍感なんですね…

まるでナディヤ姉さんの対極にいるかのような…

ああ、憧れのお姉さんにも手が届かない情けなさが追加されました…



「…あ。肝心なこと聞いてなかった…今日はなんで養育室に行ったの?」


「あー、それは…その…」



これ…どうしよう…ちゃんと正直に話すって決心してたんだけど…私の中の、怒りに染まった獣の話だけは、したくない…嫌われたく、ないよぅ…


どうしてもそれだけは勘弁してほしいと思って、まごまごと説明していく。あの子に共振した時、ヘルゲ兄さんが10年間どんな風に過ごしたのかは一瞬でわかった。それでも、あの子が一番痛くて、怖かった記憶がクローズアップされて…私はその中にどっぷりと浸かったあげくに暴走したのだ。



「…急に宝玉になったせいだと思うんだけど、建物の中でヘルゲ兄さんの気配がしたような気がして。気配を辿っていったらあの部屋だった。それで…魔石の一つに触ったら…そしたら…」



冷静に話しているつもり、だった。

でも、つい今日の出来事の記憶は、まだ生々しい。


こ…こわい…っ

いたい…っ


( 敵対者の残滓確認。警戒します )


ヴォン…



「あ!あわわ…ごめん、まだ制御しきれてなくて…大丈夫、大丈夫だよ。敵はもういないよ」


「…これが、白斑の盾…すっごいな…」



ご、ごめんね、ちょっと怖かったこと思い出しただけだよ。


( 是 警戒を解きます )


よかった…守護が話の通じる子でよかった…

…「子」? 元おじいちゃんなのにな…

全体的に声も雰囲気も若返ったおじいちゃんは、ヘルゲ兄さんやアロイス兄さんが混ざったあげく、声も高いんだか低いんだかわからない感じに聞こえてて…


( 主、我らは主の大切な人間と深淵で繋がるモノだ。すべて混ざっている )


…へぇぇ…守護って面白い生態してるんだね…


( 生態… )


守護が小さくため息をついた。

だってねえ?そういうとこ、普通に人間と同じだもん。



「あー…つまりね、あの部屋でヘルゲ兄さんが何を取られて、どんなにひどい心の壊され方をしたのか…全部視えちゃったの、私」



とりあえず説明の続きを、と思って端折った言い方をした。アロイス兄さんは、すっごく心配そうに私の心まで壊れていないのかを聞いてくる。


ナディヤ姉さんの「ほんとに男の人って、心配性ね」っていう言葉を思い出すけど、今日ばかりは当たり前だよね。


もうアロイス兄さんに心配ばかりかけるダメな妹じゃなくて…

私は、兄さんたちと同じところへきっと行くから。


私は決意表明のつもりで、アロイス兄さんに「私の真の望み」を告げた。



「それでね、私、ヘルゲ兄さんのこと、なおすから」


「は?」


「なおして、私の事好きになってもらえるように、がんばるの」


「…あっは、そっか…ぷははっ、そうだよね、あの朴念仁は病気だから、治してやらないと恋なんてわかんなさそうだ」


「ほんとだよ、今日だってちゃんと好きって言ったのに、”何で今さらそんなこと言うのかわからん”だって!絶っ対振り向かせてやるんだから…!」




そうなの。そうなんですよ、アロイス兄さんっ

ヘルゲ兄さんを振り向かせるには、国家事業並みのプロジェクトが必要なんだからね!絶対あきらめません!

新生ニコルをなめんなよぉぉぉっ!





  

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