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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
明の年、暗の年
115/443

115 蛹の中身 sideニコル

  




冬の品質検査も終わり、年も改まりました。

私は相変わらずの成績で、宝玉級の判定も変わりません。


同期の子の中には突出した「得意な何か」を持っていることで、既に維持セクトのどこそこの部署への配属が内定している、なんてスゴイ人もいます。


高等学舎になった途端に、皆は進路に対して真剣に、シビアになっている気がします。急激に切磋琢磨の効果が出ている子も多いです。


この三年間のうちに、どんどんそういう内定は出るので…私はとても焦ってしまう。軍部に行っても役に立たなかったら、どんなにガッカリされてしまうだろう。進路が決まらない悩みではなく、進路が決まり切っているのに内定まではいかないことに焦りを感じ、収束のお粗末さに悩み…でも、そんな悩みは迂闊に話せない。


進路が決まっていなくて焦っている子もいるはず。

私みたいな魔法のヘタっぴが軍部に行くことを疎ましく思っている子もいる。

相変わらずコソっとスキを窺って「濁り玉」と囁く子もいる。


それがどんなに「やっかみ」とか「八つ当たり」だとわかっていても…

それを話して発散させられないと、少しずつ心に毒素がたまるような気持ちになってしまいます。




でもストレスをため込むのはよくありません。

とにかく私は棍に入れ込み、毎日毎日欠かさず訓練しました。

オスカーに「参った!」と言わせた時はほんとに嬉しくて、メガヘルに抱き着いてしまったくらいです。そうして訓練していれば、スッキリした気持ちになれます。




*****




ヘルゲ兄さんとは、うまくいけば一か月に一度くらいは話せるようになりました。さすがにいろんな戦場を廻っているから、その度に違う状況になることが多いらしくて…通信しやすい戦場だったり、逆に厳しくて全くできなかったり。



最初に通信で話せた時には、ほんとに嬉しかった。

楽しい話をたくさんして、ヘルゲ兄さんの笑顔も見られて…

あんなに嬉しい出来事だったはずなのに、私はこう思ってしまうのを、まったく止められないでいるんです。



ヘルゲ兄さんに、会いたい。



あの時までは、通信できなくて淋しくて辛くて…きっとヘルゲ兄さんの顔を見て話せたら、こんな心臓の痛みとはしばらく無縁になれるって信じていた。


ヘルゲ兄さんが戦場にいることを隠すアロイス兄さんに、「それは違う、私は知っているから大丈夫」とお願いしてまでヘルゲ兄さんと通信させてもらった。




結果は…顔を見て、話したら、ヘルゲ兄さんの傍に自分がいないことが、より一層鮮明になった、ということだった。




心臓の痛みは変わらない。


ヘルゲ兄さんに、会いたい。


ヘルゲ兄さんの体温を、呼吸を、笑顔を、頭を撫でてくれる優しい手を、おっきな背中を、広い肩を、低い声を。



私は、そればかりを考えてしまう自分に嫌気が差すほどに、そう思ってしまうことを、止められないでいるんです。




「濁り玉」って言われる外的要因の毒素よりも、「こんな自分は情けなくて恥ずかしい」と思う内的要因の毒素は強烈で。いっそのこと、これが原因で白霧が増えてくれれば、宝玉級から宝石級にランクダウンできるんじゃないか、とも思います。そうしたら…収束できないなんて必要以上に悩むこともなく…軍部予定者からも外れることができて…


でも軍部に行けなくなったら、ずっとヘルゲ兄さんと離れたままになるんじゃ?…ううん、ヘルゲ兄さんは紅玉だから、ずっと中央にはいない…じゃあ、私が宝玉になれれば、一緒に戦場に行ける?…違うってば、宝玉は主に一人で、必要とされる戦場をまわるんだから…だから、違うってば、そんな邪な考えで宝玉になろうなんて、違うんだったら!




毎日毎日、こんな風に考えて…気付けば、朝になっていたこともありました。アロイス兄さんが心配そうに私を見ることが多くなっている気がします。アルマやユッテにもどうしたの?と聞かれることがありました。オスカーも「もっかい泣かすか?」なんてイタズラっぽく私を励まそうとしてくれます。


「こんな自分はイヤ」という気力が振り絞れると、いつもの明るいニコルになれて、皆も少しホッとした顔になってくれますが。でもまたすぐにドロリとした気持ちになって、心配かけての繰り返し。


どんどん気持ちが荒んで、周囲の心配がうっとおしいな、と思うまでに堕ちてしまった、私の醜い心。

裏腹にマザーから出される品質検査結果の”宝玉級”の文字が憎たらしいと思う、私の汚い心。



私はだんだん考えること自体に疲れてきて、投げやりになっていった…





  

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