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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
明の年、暗の年
113/443

113 無感動な荒野 sideヘルゲ

  





「なぁなぁ、白縹の女の子ってレベル高ぇか?」



俺は初日にフリッツと仲が良くなったこともあり、ヒマな時は大抵フリッツ班のやつらの仕事を手伝うか、雑談するかだった。そしてこういう話題を振るのは、大体がエクムントという男だった。



「まーた始まったよエクムントの無駄調査!お前に靡く女のレベルが高いわけねぇだろ、自重しろ!」


「うーるっせーよ、夢見るのは勝手だろーが!」


「ヴァイスの女子なら見たことあるんだろう?他部族とそう違いがあるとは思わんがな」


「同じ軍部でもヴァイスと接触なんてそんなにないぜ?特殊部隊だから、俺らがいる所にそういう事態が発生しないと来ないしさ」


「そうそう、こういう力技が必要なとこは特に女の子は来ないな」



うーむ…昔アロイスに顔の美醜についての特別講義をされたような…そうか、俺に必要なくとも、エクムントのようなやつには重要情報だったんだな。



「まあ、美人もいるとは思うがな」


「そっかー!白縹っつーたら目が特徴なんだよな。目を褒めると気分いいかな?」



…これはまた…俺には高度すぎるぞ、その質問は…



「…瞳については繊細な問題があるからな、下手に褒めると逆効果ということも…あるかもしれんな…」


「うーん、やっぱ他部族の女の子は研究しないとダメか!」


「エクムントは研究したって蘇芳の女も落とせないじゃねぇか」


「蘇芳の女は見る目がないんだよっ だから他部族の子でいい子を探すのっ!ヘルゲ、お前の知ってる女の子の映像記憶見せてくれよ、参考までにさー」



…ナディヤを見せたらコンラートに殺されるな。ニコルもダメだ。

…とりあえずリアにしておくか…



「うは、キレイな子じゃん!もったいぶらずにもっと見せろって!」



だんだん面倒になってきたぞ…誰かエクムントを止めろ…

…なぜ、皆して映像を覗き込んでいるんだ。

引っ込みがつかないじゃないか…



以前商店で群がってきた女子の映像を次々に出していった。



「なあ、これってさ…目が潤んで、めっちゃ見つめてねぇか?全部ヘルゲ狙いの子じゃんか、どう見ても…」


「…村で騒ぎながら近寄ってきた女子の記憶しかない」


「お前…それはエクムントに玉砕しろと言ってるも同然だな…」


「…すまん」



美人と言われてようやくビルギットを思い出したが、この流れでは出せなくなってしまった…





*****




「美人の映像記憶を出せと大騒ぎだ。俺には高度すぎる」


『おい、ナディヤ見せてねぇだろうな!?』


「見せるわけないだろう、お前がそういう反応になるのはわかりきっている。知り合いではリアしか出さなかった」


『…お前にしてはナイス判断だな』


「うかつに他の知り合いなんぞ出せるか」


『リアは蘇芳の軍人でも褒められたって教えたら喜ぶかなぁ?ニコルに”地上にはいい男がいない”って叫んでたことがあるらしいけど』


『鳥でも狙ってんのか、リアは…』


「…ニコルはどうしてる?」


『うん、元気だよ。毎日メガヘルと訓練してるし、いつもの4人で仲もいい。…でも、ヘルゲと話したいと思うよ?まだ話さないの?』



…ニコルと話したくないわけではない。

ただ、違和感があるだけだ。


あの肉塊の襲撃以来、戦闘らしいものは何もない。索敵しても山津波で押しやったベースは撤収しているらしく、もう俺の知覚範囲内にはいない。北方ベース自体が国境に建設された新しい砦へ移動しているにも関わらず、だ。


それでも拭えないこの違和感は…うまく言えない。


コンラートが「自分が汚れていると感じて遠慮しているってことか?」と聞いてきたことがある。コンラートはそういう経験をしたらしいが、そうではないんだ。俺は全くと言っていいほど敵を殺すことに忌避感がない。忌まわしいことをする、汚れた自分だとは感じない。逆に、軍で褒められても高揚しないし、自分がすごいことをしたとも感じない。

ただ、やれることを当たり前にやった、というだけ。



村でニコルやアロイスと過ごしていた時は、いろんな感情で乱高下していた気がする。喜んで、悲しんで、怒って、また喜ぶ。ニコルのことを思い、アロイスのことを思い。

周囲の綺麗な魚が、鱗に虹色を反射させながら、自由自在に泳ぐのを見ているような。捕まえたいけれども捕まえてはいけないような気がする、そんな日々。



でも俺が今実際にいるところは…何もないんだ。


キラキラした魚はいない。

いるのは敵を掃討するために集合している狩人の群れ。


動く感情はない。

あるのは”やって当然のこと”。



この無感動な荒野で、ニコルに話してやりたいことが何もないことに気付く。北方のこの地には、ニコルに見せてやりたいと思うような景色も何もない。



たぶん俺は、空っぽな自分をニコルに見せたくないのかもしれない。

空っぽの俺が、空っぽの場所で、存在自体が感動的な”ニコル”と話す…

違和感しか、ない。



俺がうまく言えないまま黙っていると、アロイスは困ったように言った。



『…ヘルゲがまだ話したくないなら、すぐ話せとは言わない。でもニコルは、たぶんヘルゲと話すことが重要だし必要としてる。僕はニコルがどうしても話したいって言ったら、きっとミニロイをニコルの前に出すよ?それは…覚えていてね』


『ヘルゲー、考えすぎっと後悔すんぞ。さらーっと話せばいいだけだぜ?それだけで喜ぶ子がいるって、わかれよ?』


「ああ」



会議通信を切る。

…ふう…

これは、考えすぎ…なのか?


俺はいったい、どうしたんだろうな…





  

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