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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
明の年、暗の年
112/443

112 惨殺対象 sideヘルゲ

R15

残酷な描写があります。

苦手な方はご注意を。

  





山津波の後始末をしてベースへ戻ると、兵士たちが口々に「よくやった!」と俺の肩を叩いたり、拍手したりしてくる。

…見えてたのか?何で状況を把握している風なのかがわからんのだが。


フリッツが来て、俺をリーヌス司令官のいるところへ案内してくれる。道中で、なぜ皆が知っていたのか教えてくれた。



「リーヌス司令がさ、『これは見てなきゃもったいねーぞ』って言いながら監視方陣の映像をバカでかいフォグ・ディスプレイに映して見せてくれたんだよ。あの人やっぱ緑青の人なんだよなー。魔法で霧を発生させて、ほんとの意味でのフォグ・ディスプレイ(霧の映写幕)を作っちまってさ。ちょちょっと監視方陣の受信専用魔石と映写魔石も連動させるように改造しちまいやがんだよ」


「なるほど…それは斬新な改造だな…」


「つーかお前もすんごい事するなぁ。今まで何人かヴァイスと共同作戦したけど、宝玉ってのは出力がケタ違いじゃないか」


「ああ、魔法出力に特化してるようなものだからな」


「へぇ~、白縹ってのも面白いな。蘇芳は筋力特化とか、軍事的思考に偏ってるのばっかりでさあ。だけどリーヌス司令の隊にいるのは面白いことが多くて、もう蘇芳がトップの隊には戻りたくねーよ」


「確かにな。ここはヴァイスと似た空気で、気が楽だ」


「バルタザール大佐ってアレだろ、すんごい胴間声で迫力満点の人。怖くないのか?」


「ヴァイスの中ではただの飲んだくれだ。皆バル爺とか呼んでて気安いぞ」


「ははは!飲んだくれかよ、そりゃいい。あー、ここも酒がもうちょい良かったらなー。気楽だし、国境線はヘルゲが奪取してくれたし、イイとこなんだけど」


「…俺はメシがきつい…」


「慣れだよ、慣れ!」



リーヌス司令の姿が見え、フリッツと別れる。



「ただいま戻りました。国境線は奪取に成功。簡易に壁を生成してきましたので、砦を作るようなら専門家の派遣をお願いします」


「おーう、ご苦労だったな。見てたぞー、なんだよありゃ。面白すぎて爆笑しちまったじゃないか」


「お楽しみいただけて何よりです。あれは方陣専門家のフィーネ・白縹が考えたんですよ。死者もゼロです、ご満足いただけましたか」


「満足も満足、満点くれてやるよ。あんなので押し戻されてあっという間に国境線を回復されたとなれば、あちらさんも死者が出るよりよっぽど精神的にダメージがでかいだろ。今日は全員に酒ふるまってやるから、お前ものんびりしとけ」


「はい、ありがとうございます。…あ、監視方陣の映像のコピーを貰っていいですか」


「おう、構わないが。なんだ、良い子の事後反省会でもすんのか?」


「まさか。フィーネに見せて自慢するためですよ」


「はっはっは!そりゃいい、大いに自慢してやれよ」



フリッツたちのところへ戻り、今日は酒が振る舞われるらしいぞと伝えておいてやった。皆喜んでるな。さっきの魔法についていろいろ聞かれ、俺は答えられる範囲で話していた。




チリッ!と警戒担当の並列思考から信号が来る。




索敵範囲を最大にしてみると、国境線に作った壁に向かって数十人が魔法を撃つ準備をしている。 …? なんだか出力もタイミングもバラバラだな…



「…敵だ」


「は?」


「ちょっと行ってくる」


「おい、ヘルゲ?」



リーヌス司令のところへ戻り、敵襲…というにはお粗末な人数のことを報告。

指示を仰ぐ。



「…はぁ~、あれかね、バカにされて逆上したのがいるのか。現状どんな感じなのか、お前わかるか?」


「…めちゃくちゃですね。一人一人が連携もなしに属性魔法を撃っていますが…ああ、ほんとに腹立ちまぎれという感じです。出力が弱いですし、壁が壊される心配はないと思います。人数は…74人ですね」


「まーったく、索敵も使えりゃ範囲も精度もケタ外れか。ほんとに特別製だなァ。うっし、わかった。おーい!フリッツいるかー!」



司令はフリッツを呼ぶと、馬の手配とフリッツの遊撃班の出撃準備を指示した。



「あ、いけね…白縹って馬に乗れないやつ多いよなあ?」


「そうですね、乗馬の訓練が学舎にないもので。俺も数えるほどしか乗った経験がありません」


「馬車の手配がいるか…」


「自分が現場に行く必要があるということですか?」


「ん?ああ、お前が精密遠距離爆撃がイケるのはわかってるがな、フリッツにその“ダダっ子”がどういう種類なのか見てほしいんだよ」


「種類ですか」


「ああ。ダダっ子の種類によっては、お前に殲滅を頼むことになるだろう」


「それはかまいませんが…あの程度ならフリッツたちの敵ではないのでは」


「まあな、そんな癇癪起こすやつらにフリッツの班が遅れなんぞ取らないさ。ただな、そいつらがヒヨっ子ならお尻叩いて追い返せばいい。しかし力量を見極めて撤退できないような阿呆の上官クラスだったら、あいつらはまた侵攻してくる。そういう老害は、双方の国のためにならんよ」


「…なるほど、了解しました。でしたら馬の準備だけで結構です。自分は走っていけますから」


「なんだなんだぁ、また特別製ってとこを見せてくれんのか?」


「それほどではありません。結界方陣の道の中を、風に吹き飛ばされながら行こうかと思いまして」


「ぎゃーっはっはっはっは!!それいい!今度やり方教えてくれ、俺もやってみたい!」


「かまいませんが、練習でケガしても知りませんよ」


「俺はデボラと方陣いじくって遊んでたんだ、腐っても緑青ってとこを見せてやるよ」


「司令は腐ってなどいませんよ。では、行って参ります」



フリッツたちと合流し、俺は方陣で走っていけるから現場で落ち合おうということになった。皆俺がやることは宝玉の特殊さなのだろうと納得するらしく、面白がりながらも反対したりしない。


結界方陣の道を、敵のいる壁の直前まで山なりに伸ばす。

頂上までは押し上げる勢いを強くしておくか。あとは様子を見ながら加減して行こう。足元に半球状の“風受け”用の結界を設置して…発射。


ドゥ!という爆発音と共に、風魔法が俺の体を上空へ押し上げる。途中で風魔法を追加しつつ、頂上を超えた。体勢を変え、足から地面へ向かって落下していく…ボフ!ボフ!と、何度か風で減速させながら着地した。



ドォン…ドォン…と、壁の向こうから魔法が爆ぜる音が聞こえる。



しばらくするとフリッツたちが到着した。

遮蔽物のない、平らな地面になっていたので走りやすかったそうだ。



「おーおー、やってるねぇ~」


「で、どうする?あいつらがどういう種類のダダっ子なのかを見るんだろう?」


「ああ、普通にね、こうすんのさ」



壁に向かって土魔法で階段を成形すると、フリッツと数人が登っていく。

俺も一緒に登り、フリッツたちのやることを見ていることにした。


結界方陣で防御しながら、眼下の敵に向かって声を張り上げる。



「襲撃者へ告ぐ!無駄に死にたくなければ去れ!」



魔法が止み、下から怒声が響く。



「見下しおって!このようなことで止まる我らではないわ!お前らこそ無駄死にしたくなければ去るがいい!」


「そんな人数で何ができる?お前が遠足の引率者か、パパとママはどうした?」


「この若造が!すぐにこんなものは突破してくれるわ!今度は慎重すぎる司令官の進軍ではないぞ、お前らを蹂躙し尽くすこの俺が先陣なのだからな!」



…これは…アルカンシエルに侵攻するっていうだけでも正気の沙汰ではないが、あの森林生成作戦に自信があったから侵攻を決意したんだろうに。それが通用しないと分かったら撤退するはずが、一部隊だけで突撃してきたってことか?

フリッツは呆れたように肩を竦めながら俺に話しかけた。



「先陣ねぇ…ヘルゲ、後続はいないんだろ?」


「ああ、10㎞先のベースにいるだけだな」


「しょーもないね…すまんヘルゲ、あれはリーヌス司令官の基準では“惨殺対象”だ。あの怒鳴ってるやつを除いて、一人ずつゆっくり殺れるか?」


「全員か?逃げないように囲うか?」


「ああ、それはこっちでやるよ。合図したら頼むな」



俺とフリッツが相談している間、向こうは俺たちに向かってボンボンと魔法を撃ち始めていた。…それにしても練度の低い魔法だ…



「はーっはっはっは!結界で防ぐだけか!口先だけのバカどもが! …は?」



バチュッ



怒鳴る男の右隣のやつの頭を爆ぜさせる。



「な…な…魔法、撃ってないじゃないか…何をやって…」



ブチュッ



左隣の男の腹を爆ぜさせる。

見ていた兵がパニックを起こし始めた。

後方へ走ろうとした男の頭を半分爆ぜさせると、近くにいた男に中身が飛び散る。



「お前ら、何をやっとるんだ!?自分でマナの錬成をして、自爆でもしとるのかっ!阿呆め、やつらに攻撃せんか!」



ボチュッ



怒鳴られた男の上半身が爆ぜる。

怒鳴った男に内臓が浴びせられ、呆然としたあと吐き始めた。


別に自殺しているわけじゃないのにな。

俺がマナを対象の体の内側で収束し、属性をつけずに拡散させているだけだ。



「よっしヘルゲ、そろそろスピード上げていいぞ。後方のやつらも気付き始めたからな、10人くらいずつやってってくれ」


「おう、後方からいくぞ」



ホーミングバレット型で火魔法を設定。10個の小さな火球に座標設定をかけ、発射。キュイン、という音をさせながら後方のやつらの脳天を撃ち抜いた。


下は阿鼻叫喚だ。

フリッツ班の中には結界の使い方がうまいやつがいて、誰も逃げることができていない。破れかぶれになって俺たちの方向に魔法を撃つやつもいるが、別の方陣使いが魔法をやつらの至近距離で迎撃し、爆風であっちの被害にしてしまっている。



数度のホーミングバレットで、とうとう残りは5人になった。

怒鳴っていた男はなす術もなく立ちつくし、周囲の4人はガクガクしながら命乞いを始めた。おかまいなしに、一人ずつ頭部を撃ち抜いていく。


とうとう、最後の一人になった。



「おーい、ちゃんと警告したぞ、無駄に死にたくなければ去れ、とな」


「…う…あ…」


「で、どうする?お前を捕虜にして、戦後賠償の上乗せでもしたらいいか?お前が勝手をするのを止めもせず、援軍も出さないようじゃ、それも期待できないか」



最後の男は手を頭に当てると、自分に向かって魔法を撃って死んだ。



「ふー、お疲れヘルゲ。お前らもお疲れさん!いい仕事だったぞー」


「死体の始末はどうする?」


「あぁ、そのうちあっちが様子見にくるだろ。数日はそのままにして、見せしめになったら燃やすさ」


「おう、わかった」


「よーっし、帰るかぁ!今日は酒出るんだろ?ヤッフーィ!」


「じゃあ、後でな。リーヌス司令には先に報告しておく」


「おー、気を付けろよ~」



俺はまた結界方陣の中を飛びながら帰った。ベースの手前でボフン!と減速して着地。リーヌス司令のところへ行った。



「ご苦労だった。監視方陣で見てたぞ。老害の方だったようだな」


「ええ、フリッツも呆れていました。“慎重派の司令官が失敗したが、勇猛な俺様がお前らを蹂躙するぞ”、というようなことを言っていましたね。死体は放置、見せしめの効果が出たら焼却の手筈です」


「わかった、下がっていいぞ。今度こそゆっくりできるといいな」


「そうですね。まあ、あいつら以外は10㎞先のベースにおとなしく縮こまってましたから、大丈夫だと思いますが」



その日は約束通り酒が振る舞われ、皆が機嫌のいい賑やかなベースの夜だった。明日はヒマを見てコンラートたちに会議通信で“山津波”の映像を見せてやろう。気持ちの悪い肉塊の話などしなくていい。





  

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