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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
くらい火とひかる水
11/443

11 紅の歓喜 sideヘルゲ









俺は少し驚いて目を見張った。


あえて「意識が広がる」とミスリードしたのに、なんでアロイスはピンポイントでここに辿りついた?


…この男は、いったいなんなんだ?何を見ている?



やめてくれよ、アロイス。

期待させないでくれ。


ニコルを救えると判断したら、俺は何も深く考えずにお前を巻き込みそうなんだ。


そんなことしていいはずはないのに、お前を道連れにして、俺が安心したいだけで、ボロボロの船にお前を乗せてしまいそうなんだよ。



「…自分の、というか」



…対人コミュニケーション担当が話をしている。

やめろよ、アロイスを巻き込むな。


ああ、でも…そうだよな。伝えたいよな。届いてほしいと、願ってしまうよな…



「たぶん最初から…ニコルの中にあったはずだ」



ああ、言ってしまった。

これでわかるとも思えないが、だが、異常性はわかってしまうだろう。




俺は勝手だ。

ニコルの安全を、アロイスの危険で買おうとしている。

俺はなんて浅ましいんだろう。


ニコルをどんな危険からも守ると誓うが、アロイスのような善良な男を、本来不要な危険に巻き込んで、もう一枚の盾にしようとしている。



「そんなこと…って…」



やっぱり戸惑っている。


…もう、いいじゃないか。


たぶんアロイスは、ニコルが苦しんでいる、という事実だけで力になろうとするだろう。


きっと、アロイスならニコルを笑顔にできる。


ここまでわかってくれれば、俺がこれ以上漏らさない限り、俺の事情には巻き込まないで済むに違いない。






どうせ俺はそのうち軍に配属される。


ニコルのそばにいるために、なるべく時期を伸ばそうと画策してはいるが、もって数年だろうしな。


配属された後は俺にとって正念場の「戦場」になる。


そこにとにかくニコルやアロイスが巻き込まれないよう、この村で穏やかに過ごせるよう、綿密に計画しよう。





大丈夫だ。俺は一人でもやれる。

やってやる。



だから…ニコルだけは。



あの蛇女に気付かれたらおしまいだ。


ニコルまで「分割」されるなんて絶対に許すものか。


あの美しい緑の海を、おぞましい形にされてたまるか。





俺がようやくかしいでいた気持ちを立て直した頃に、アロイスは考えをまとめたようだった。


ゆっくり顔をあげて、ひた、と俺を見据えてきた。




俺はこの時、ようやくアロイスの瞳を見たのかもしれない、と後から思ったものだ。


アロイスの瞳は水色に光り、濁りのない湧水のように、滾々と湧き出る強い意志を宿している。


俺は彼を誤解していたかもしれない。


ただただ、優しい男だと思っていた。




今俺を見据えているこの瞳が何を想い、何を訴えるためにここまで強く光を宿しているのか。


何か俺は間違ったことを言ってしまったのかと、少し不安になるまなざし。


ニコルのことをわかってもらいたかっただけなんだが…




少し動揺していると、アロイスは俺が最も恐れていたことを、いとも簡単に暴ききった。





「…どうしてかはわからないけど、最初からニコルの心には、純粋で、大きな願いがあった。だから修練で整理しようにも、最初から大きな心の器の全貌が掴めず、途方に暮れる。…途方に暮れるニコルが縋っていて、道しるべみたいなのが、おじいちゃん。だから、他人には認識されなくていい。いや、認識できない。ニコルだけの道しるべだから。…そんな解釈で、いいかな」



な…



「なん、で…」


「わかったのかって?」




ああ、そうだよ!


なんでわかったんだ!


バカかお前、なんであれしきの情報で、たったあれだけの会話で、俺がどれだけお前を!ニコルを!バカだ、お前はバカ野郎だ、自分から泥沼に足を突っ込んでくる、本物の大バカ野郎だ!




くそ…っ  バカは俺じゃないか…




どんな経路でかはわからないが、アロイスは真実に辿りついた。


こいつの聡明さに、こいつの意志の強さに気付かなかった俺のミスだ。

でも、まだ危険性にまでは気付かないだろう。まだ、引き返せる。



大丈夫、まだ大丈夫だ。



呪文のように繰り返しながら、それでも並列思考の一部は気付いている。


一番の問題は、俺が、アロイスにわかってほしいと。


ニコルを救ってほしいと。


何より願ってしまっていることなのだ、と。




「僕はニコルを理解したわけじゃない。君だよ、ヘルゲ。君も『溺れてる』んだろ?君に『藁』があるのかは知らないけど、ニコルが自分と同じだと理解してる。だから『おじいちゃん』がいることを信じてあげたわけではなく、君は、いることを知ってたんだ。違うか?」





…俺の、願いは。


俺の、身勝手で浅ましくて薄汚い願いは。


こんな風に叶っていいものだと、思うか?




俺はどうしたらこの、清冽な湧水を持つ男に借りを返せるだろうか。


この、俺の願いを拾い上げてくれた、『ひかる水』に。


どうしたら伝わるだろうか、「理解者」を得た、ゆがんだ『くらい火』がこれほど喜んでいると。





俺はこの日、紅い世界をかけて守るものが、二つに増えた。


それはとても、あたたかくて、嬉しくて、嬉しくて、きっとこれが幸せというものなのだ、と思った。






  


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