105 メシマズは罪 sideアロイス
見送りの朝は、以前と違って和やかな雰囲気だった。
ヘルゲが村に滞在していた理由も理由だったし、昨日のヘルゲの大規模魔法で”快癒”がイヤというほど印象付けられたこともあるだろう。
唯一、ヘルゲの成績を聞いたリアが目を丸くして
「っは~、なにそれオールS以上って!聞いたことないわ。難攻不落の家の住人は、二人ともドSってことね~」
と失言を発し、女性では初の「ヘルゲのアイアンクロー」を賜る栄誉に浴した。
もちろん僕はそんなことじゃ怒らない。
「…はぁ…残念だな、リアは次の女子会に不参加か…」
「申し訳ありませんでしたっ ごめんなさーいっ」
わかればいいの、わかれば。
*****
こうしてヘルゲとコンラートは中央に戻った。
通信で頻繁に連絡は取っているし、彼らもフィーネも元気だ。
コンラートはシュヴァルツでまたこき使われてら、と苦笑いしていた。
フィーネは、方陣の接続に関する技術が実質自分しか実現できないのはよろしくない、と汎用化を熱心に研究しているらしい。
そしてヘルゲは、戦場にいた。
中央に戻ってすぐ、ヘルゲはバジナ大隊長とホデク隊長立会の元で、コピー版の白縹マザー分体へ接続できる”簡易養育室”に案内された。
マザー本体をパーテーションで区切り、ヘルゲの養育時を再現できるようにしたらしい。ヘルゲは大層嬉しそうな演技をして、これに接続できるなら安心できると言ってタヌキさんたちをホッとさせた。
さすがにいちいちチューブに入るわけにもいかないので、接続筐体はリクライニングチェアのようになっているようだ。ヘルゲはさっそく接続して内容をチェックした後、本体のパーテーションに”穴”を開けた。そして「ふん、これで仕掛けもダイレクトリンクでやってやれる」と密かに獰猛な笑顔を見せた。
こうしてエサを与えられたヘルゲは、激戦区である北の国境への派兵を快諾したというわけだった。”安定したヘルゲ”は猛威を奮い、奪われていた国境線を所定の地点まで押し上げたそうだ。現在は侵攻してきた北方の国へ逆侵攻するか、外交戦略で土地よりいいものを賠償で奪うかを中枢が協議している。
『…戦場にいるとメシがまずい。我慢できないこともないが、とにかくメシがまずい…アロイス、お前メシ作りに来い…』
「そんなになのか?中枢の協議が終わればヴァイスにいったん戻れるんだろ?もう少しの我慢なんじゃないの?」
『あ~、国軍のレーションはくっそマズイんで有名だからなー。北方は村も少ないし、補給線の確保がキツいんだよな。あー、俺もナディヤのメシ食いてぇ~』
『はっはっは、ヘルゲが戻ったら西区に新しい店を発見したからそこに行こうじゃないか。アロイスやナディヤの料理ほどではないだろうが、おいしい生パスタが売りなんだ。スモークサーモンとルッコラのリングイネが絶品でねぇ』
『うまそうなメシの話をするな、フィーネ。…やってられん…』
『フィーネお前鬼畜か!レーション食ったことねーのかよ?』
『いや、戦場で方陣での補助もしているし、レーションも食べたさ。あれを食べて耐えた後の美食はたまらないのだよ。君の嬉し涙が見れるはずさ、ヘルゲ』
『…一人でその店に行くから、データを送っておけ…』
なんか思いも依らないことでヘルゲが弱ってるなー。
こっちで第二回目の女子会を企画中なんだよ、とか言えないじゃないか。
まあ、そんな感じで彼らはたぶん、きっと…元気だ。