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ここはつくりも

作者: 弥生

 あるときあらゆる神々が舞い降りて、人々にこう告げました。

 神話は実在し、神々は存在する。だが、人は権益のために、あるべき神代の世界の姿を大きく変えすぎた。

歪められた歴史を正すため、年に一度、神判を行い、人のおごりや争いを止めることとしましょう。と。


 ここは日本はジャパン、由緒正しき出雲の地。

 神判はどんな文化でも迎えられるだろうということで日本で行われることとなっているため、この地で行われる、決して東京で女神が転生したり、魔人が転生したりはしない。核の嵐が巻き起こったりもしない。

 そして、その神判事務所では各国でいう地霊や幼魔たちがあくせくと働き、年に一度の大仕事に備えている。

「ねー、神様、今年の審判は誰が担当なさるんですか?」

 日本では八百万の神がいるとされているが位の低いものも神とされているので非常にややこしい。だが、大概は各国でいう妖精の類なのでお互いの文化を尊重しあってそう呼び合っている。そして、声をかけらえたツチグモが書類に目を通し、質問に答える。

「ああ、今年はうちの国からですねえ、えっとイザナミノミコト様ですよ」

「へー、有名神じゃん」

 質問したコボルトがタブレットをたたきながら、どんな人かと検索する。土蜘蛛もそれにならって検索をかける。

「ええ、うちの体系じゃないんですけど、なんたってうちの国の生みの親ですからねえ、これは気合を入れて迎えないといけませんよ」

 お気楽なスタッフたちは事務所の中で深刻な会議が開かれていることにまだ気が付いてはいませんでした。

 いくらか上位の格をもつ妖精や地霊、魔人たちが集まって会話している会議室の中で事態は動いていました。

「……イザナミノミコト様の視察、了解しました。しかし……」

 ティターニアが妖精たちの王としてこちらに残ることを選択して十数年、とくに気難しい神はあっても、まぁまぁ人間のやる事ですから、これから是正していきましょう! で、やりすごしてきたが、今度の要求は一筋縄ではいかなそうだ。

「お土産に人間の首1000……ですか」

 同じく残るように強いられたオベロンも頭を抱えている。

「なかったらいろいろ祟る、とのことですが、用意した時点で祟りもいいところですね」

「神判の規則にありませんでしたっけ、神が一方的な損害や理不尽な罰を与えようとした場合、否認する権利がある、って、ここを拡大解釈して首として用意された人間にイザナミノミコト様に首を取られる前に対抗してもらって……」

 英霊コウメイが苦肉の策を挙げる。

「戦ってもらって、対抗しきってもらえば首を取られずに済む、と?」

 ティターニアは渋い表情で答える。そんな人間がいるとは思えない。と考えたからだ。

「武器の使用は自由なのですから、神殺しでも何でも貸し与えればいいんですよ」

「……わかりました、やらないよりはやって砕けてみましょう、各国の政府に通訳の霊と死刑囚の用意を申請してください」

 オベロン夫妻やその他の例は苦虫を噛み潰したような顔をしている、その中でコウメイだけは何か平常心を保ちながら、別所に連絡をかけている。

「あなた、同じ人間が殺されるっていうのによくそんな平然としていられるわね、英霊ってのはそれぐらいの度量がなきゃできないものなの?」

「いいえ、勝算がなきゃできないものですよ」

「しょうさん……ねぇ……」

 称賛とでもかけてるのかしら、そうティターニアは考えて、不機嫌そうに会議室のドアをたたき開けて出ていった。そのあとを慌ててオベロンが追う。

「うちの奥さん怒ると怖いんだから、怒らせないでよ、もー……」

 とりあえず心配してるのは自分の身でもあるらしい、胃の痛い事である。


 そして、10月10日……

 対霊兵器として、桃、銀、アメジストなど、死者に有効な素材を剣や槍、矢として仕立て上げ、陣地構築を行い、かつ、有用性は甚だ疑問だが、足止め程度に使えるとして取扱いやすいとされるMP5を各員に、またフラッシュバンは比較的通じやすいはずだと多量用意された。

 自衛隊などの持つ本格的な装備は、使用者以外が狙われる可能性が多くなるため、また習熟が必要となるため使用が許可されなかった。こんな装備で、ただの人間が神に抗うことができるのだろうか。迎え撃つティターニアらは気が気でなかった。

 天界と現世を繋ぐ門が開き、一つの影があらわれる。

 途端に辺り一面に腐臭が沸き立つ、着飾ってはいるもののそれは確かに屍であるからして、どうしても耐え難き臭いを辺り一面にまきちらす。

 ティターニアはシルフやアーシーズ、ドリアードらに命じてすぐに消臭にかかるが、直近で嗅ぐほどにそれは打ち消されることなく、直に鼻に来てしまい、あやうく嗚咽を漏らすところであった。

「出迎えの儀、感謝いたしますティターニア様」

 しかし、手を前で重ね、ふかぶかと首を垂れるイザナミノミコトの動きは優雅で、まさしく地母といった慈しみをもつ様子でティターニアたちを魅了した。

「いえ、我々は皆々様を迎えるためにこうして居りますゆえ、どうか頭をあげてくださいませ」

 しかし、イザナミノミコトは少ししか頭を挙げない」

「いえ、醜い顔を晒すことになる角度はあまり好まない故……どうかお気になさらず」

 ああ、悪い神ではないんだなとティターニアは感じた。

「では1週間の世界各地を回るスケジュールを確認いたします」

 てきぱきと、仕事を進めていくティターニア。

「1日目はここ日本で各地の神の習合の具合を見ていただきまして……」

 しかし、こうして仕事をしてる間にも、1000人の命のともしびは確実に縮まっていくのだよなぁ……と考えるとどうしても暗鬱な気持ちになる。

「どうかされましたか? もしかして私の臭気にやられましたか?」

 それをイザナミノミコトは心配して、つんつんとつついてこちらに首を傾げてくる。

「いいえ、私とて神でございますからして、ご安心くださぁい!」

 ティターニアは妙なテンションで返事をしてしまう。

 そして、説明を続け、7日目までのスケジュールについての解説を終えた。

「ああ、私とっても楽しみだわ、日本がどうなっているか、それと……その、お下品ですけど、首……も……」

 イザナミはどきどきとしているようだ、まさか首全員に抵抗されるとは思っていまい。

「7000人分の首……持ち帰るのどうしようかしら、皆に手伝ってもらわないととても持ち帰れないわ」

「ぶほっ」

 ティターニアと、解説についていた一同は思わず噴き出した。

「な、ななせん?」

「はい、7日間在世するので」

「リアリィ?」

「はい」

「……」

 ああ、確かに一日1000人殺すって伝承ではあったなぁ、と今更になって思い出すティターニア一同。

「ええ、大丈夫ですよ」

 そこで話を切り出したのは英霊コウメイさん。

「まぁ! お買い得!」

「今ならなんと首から下までお付けしてこのお値段、どうです奥さん」

「これは貰うしかないわね!」

 ティターニアはいきなりの話について行けていない。

「では、7日間のご視察、お楽しみください」

「はぁい」

 そして、とりあえず今日の宿へと出発する一同。

 すぐさま、すささささとティターニアがコウメイにすり寄ってくる。

(あんたいったい何のつもりよ、全世界の死刑囚足しても7000はないわよ!?)

(はっはっは、私に策がありますから、まぁここはお任せください、ただ少しの間、天界に行くことをお許しください)

(ならいいけど、きっちりと期日までに戻ってきなさいよ)


 七日後の夜、コウメイはまだ戻ってきていなかった。

 いざという時のために仕方ないので、神判事務所は各地の傭兵やPMC、反神的ゲリラまで呼び寄せて7000人の超巨大陣地を作り上げて「おみやげ」の準備を整えた、プロが混じることで比較的ましな近代兵器が使えるようになったのはいいが……それでも、一人の神に、勝てるのだろうか? ティターニアは祈らずにはいられなかった。

「いやー、楽しかったですわ……仕事だって忘れちゃうぐらい。神判っていいものですわね、また来たくなっちゃうぐらい……って贅沢はいけませんね」

 俯きがちに笑うイザナミノミコトにティターニアはそれは勘弁してほしいなーと思いつつ、ぜひとも、と返す。

「……ところで、申し訳ありません、お土産なんですが、運ぶのはお手伝いいたしますが……生でつかみ取り、という方針になってしまいまして……」

 ティターニアはそれぞれに、どっちに対しても申し訳ないことになったというていで詫びる。

「あら、じゃあ、7000人分もいでいかなきゃダメなのかしら」

「はい、そして、素直にもがれる……ものがおりませんで、抵抗するつもりのものばかりでありまして」

「いいわ、運動不足だったし、ちょっと人に神々の怖さっていうのを知らしめていくのも必要でしょうから……」

「は、ははー……では、あちら、陣地構築している中にいる人間が対象でございます」

 ティターニアはすっかり要塞化した出雲の一角、一般市民は避難している…を指さしてどうぞ、と応じる。

 現代市街地、さすがに神でもこれに対応することはそう簡単ではあるまい。

「逃げも隠れもしてないのが千人ぐらいいるね」

 イザナミノミコトが不思議そうに問いかける。

「おそらく、仕留める、ことを条件に雇われているのかと」

 ティターニアが念じて答える。

「ふーん……ふふふーん」

 イザナミノミコトは何をしてくるのかな、と興味津々だ、おそらく、初の神vs近代兵器である。

 突然あたりが昼のように花火に照らされたかのように明るくなり、さらにイザナミノミコトの目の前が真っ白になり、音が何もかも聞こえなくなる。

そして、柔らかなイザナミノミコトの体を機関銃が撃ち貫いていき、体があった場所へと、ファイアバンが次々と投げ込まれ、腐れた体を綺麗さっぱりに焼かれる。

 そんな火線の暴力が一分は続いただろうか、撃ち方やめっ、と上官らしき男が指示をもたらした時だった。

 辺り一面が沼のようになり、何もかもがずぶずぶと沈み始めたのは。

「腐った肉がはじけ飛んでリフレッシュ……にはよかったかな? 新手のエステ?」

 イザナミノミコトは地面に圧力で倒れていたが、それだけであった、のそっと、立ち上がるとぱっぱっと灰を払い、周囲の兵器にしがみつく者どもを地面に沈めこんでいった。

「今すぐもぎたいけど、後でまとめて……熟成されたのをもぐのがいいから、楽しみにしててね」

 この戦闘でバリケードを築き、近代兵器に頼ってやれば勝てるという傭兵の一部、PMCの部隊がほぼ壊滅した。被害者数は700名ほどが地面に埋め込まれている。

 そして、第2波、夜の間に狩らねばならないのでイザナミノミコトは急ぎ気味だ。

 手引ヶ丘公園に陣取る、神代の武器を持った部隊3000とイザナミノミコトは衝突する。

 同士討ちしない程度にしか連携を取らず、桃を投げつけたり、銀の矢を打ち込んだりしようとしてくる。

 先ほどより……さほどやっかいでもない。

「神与の桃ってわけでもないなら、さほど怖くもないねえ……」

 イザナギに投げつけられた時を思い出し、ちょいちょい悲しくなるぐらいだ。

 銀、アメジストなどはもちろん破魔の効果はあるが、元よりこちらも神なのだ、死んでても神、射していたくもない。

 mp5では豆鉄砲のようなもので、当たってもあまり痛くないし……

「急いでるからさ、ちょっと悪いけど疫病風にでも当たって動けなくなってておくれよ」

 体中にガス壊疽を発生させておけば、しばらく大人しくなるだろう。

 この時点での戦力、形勢不利を悟って逃げ出した死刑囚がまばらに居る程度で、ほぼ3000が全滅。


 そして、第三波、反神徒3000……ティターニアは彼らにかけていた。本来は平和を乱すことしかしないテロリストだが、現状可能性があるとすれば……先に潰走した500名ほどがそれに合流している。

 反神徒は魔法陣を組んでイザナミノミコトを第1、第2波を利用し魔法陣の中心へと誘導してもらっていた。

 ただが人間と侮ってかかったイザナミノミコトは見事に中心部の公園にたどり着いていた。

 そして、口々に、自らの信じる神やソロモン柱神を呼び出したり、もしくは、下位精霊を召喚していく声に囲まれていく。

 霊的なものには霊的なものをぶつけるのが一番強い。

 そう考えた邪教徒や精霊使いなどを大量に呼び出したのがここである。

 臭気や、屍土を使った術に関しては結界が防ぎ、ありとあらゆる術で攻撃を試みてみる。

 …効果は確かにある、しかし、イザナミノミコトは倒れてはくれない。

 だが、結界を貼る術者はバタバタと倒れ、いつまでも維持していられるかはわからない。

 このままでは時間切れで終わりとなり、水入り、という、何とも後味の悪い結果となってしまう。

 そんなところに、空から声が響く。

「おーい、ティターニアさーん、イザナミノミコト様ー」

「……この声は……コウメイ?」

「コウメイさんですね」

「ようやくお土産が用意できました、争いをやめてください」


 辺り一面軽い焦土と化している中に、夜明けが迫り、世界が紅に染まる中コウメイが天界への道を開いた。

「7000人分の、しかも極上の格の、生娘をご用意いたしました。これならご注文通りです」

 コウメイが自信満々に述べる。

「ほうほうほう! それなら私も納得じゃ!」

 イザナミノミコトも期待で目を爛々とさせて喜ぶ。

「ちょっと、生娘7000人なんて、いくらなんでも許可できないわよ、どこで調達してきたのよ」

「それはですね……」

 天界の道が開かれていく……

「ドウモー桃娘アルヨー」

 いきなり出てきた桃娘にイザナミノミコトがぶっ倒れる。

「ゲボッ」

「ドウモー桃娘Bアル」

「ゲホッ」

 そう、神格のある桃だけを食べて育った天界の桃娘はイザナミノミコトの大の苦手。

「この方々を7000人ほど用意しました、約束に違いはありませんな」

「い、い、いらぬ」

「はい?」

「いらぬといっている」

「そんなせっかくお土産として用意しましたのに」

 コウメイと桃娘たちはイザナミノミコトを取り囲む。

「こ、心遣いは無用、あ、もうこんな時間だし、私はいかねばならぬ、もう首はいいから、早くここから返してえええええ!」

 イザナミノミコトは逃げ帰るように天界への道を歩いていってしまいました。

「……」

 ティターニアはその光景を呆然と見つめていた。確かに桃娘7000人用意するのは大変だっただろうけど、これは……

「と、とりあえず、被害者の救出を、首を取るためにそう殺してはいないだろから、急いで!」

 ティターニアは現場の指揮に戻る。

「いやー、これはなかなか甚大な被害で…すいませんもう少し早く戻れればよかったのですが」

「いえ、あなたの策はなかなかだったわ、ただ、もう少し教えておいてくれても…」

「いきなりあれを出すから効果的なんですよ、桃娘を出す、なんて言っておいたら断られるに決まってるでしょうから」

 ……そんなコウメイを後ろから桃娘たちがつついてくる。

「あの、観光案内してくれる、まじあるか」

「日本一度来てみたかったよ」

「あー、はいはい、お任せください、事務所を挙げて歓迎しますから」

「はい!?」

「すいません、お仕事終わったばかりで申し訳ないんですが、そんな風に勧誘してきちゃったんですよ。だから旅行プランの方の企画をお願いしま……ゲフゥ!?」

 ティターニア=サンの華麗なエルボーがコウメイにHIT!

 LPが1しかないコウメイサンは倒れてバイバイ!

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