第4話 噂
目を覚ますと、見慣れない天井が目に入ってきた。
こうやってゲームの中で目を覚ましたと言うことは、まだ外部からの助けは来ていないみたいだね。
ふと、時計を見るともう昼過ぎだ。思っていたより疲れていたのか結構寝ていたらしい。
栞から聞いた話だけど、この世界の時間進みは現実世界と全く同じ速さで、時計が示す時刻も現実世界の時刻同じらしい。
ゲームにしては不親切な設定だけど、この世界にプレイヤーを閉じ込める前提で、作られていたなら割と良心的な設定なのかもしれないね。
どうでもいい事を考えながらベッドから出て顔を洗おうと洗面台の前に立った。このとき初めて、この世界の自分の顔を見た。割と小顔で綺麗なコバルトブルーの瞳に黒い2本の角。この世界がゲームの中だと改めて実感する。
顔を洗い、服装を整える、と言ってもあの恥ずかしい服は着っぱなしだから、ローブを装備するだけだ。
部屋を出て、泊まってた部屋の鍵を受け付けに返し街にでた。
気のせいだろうか、昨日より街に活気がない…。
とりあえず、昼食を取ろうと街をブラついていたら露店を出してる、人族のプレイヤーを見つけたので寄ってみることにした。
「いらっしゃい。と言ってもウチには冒険に出るためのアイテムしか売ってないよ。」
客が立ち寄ったと言うのに、肝心の店主さんは商売を諦めたような顔をしてる。
「嬢ちゃん、あの噂知らないのか?」
キョトンとしてると店主さんが声をかけてきた。
「あの噂?」
店主さんの言葉に首をかしげる、その様子をみた店主さんは教えてくれた。
あるパーティの1人のプレイヤーが洞窟エリアでモンスターに殺られたらしい。そのプレイヤーの表示ネームが、見たこともないグレー状態からいつまで経っても戻らないらしい。
この事をきっかけにそのパーティから中心にこんな噂が流れ始めた。
″この世界での死は現実世界での死″
それでフィールドに出るプレイヤーがほぼ0に近い状態になってしまってるようだ。
だからこの店主さんも商売を諦めたような顔をしていたらしい。
正直バカバカしい話だ。
「こんな馬鹿みたいな噂をみんな信じてるんだ…。」
ポツリと自然に言葉が漏れた。
私の言葉を聞いて店主さんは驚いていた。
「嬢ちゃん、怖くないのか?」
「怖い?えぇ、怖く無いですよ、この世界はどれだけリアルであろうと、ゲーム内です。この世界で死んだからと言って、現実世界でも死ぬわけないじゃないですか。」
店主さんの質問に私はマジメに答えた。
私の答えを聞いた店主さんは、ポカーンとしていた。
そんな店主さんを見て立ち去ろうとすると、店主さんに名前を聞かれた。
「嬢ちゃん名前は?」
「シロです。」
一度立ち止まり素直に答えると、店主さんからフレンド申請が飛んできた。
「俺の名前はダーカだ。良かったらまた来てくれ、その辺の店よりは安く売ってやるよ。」
どうやら気に入られたらしい。フレンド申請を承認ボタンを押しながら、また来ると伝え私はその場を去った。
その辺りで遅めの昼食を取ったあと、念の為栞にメッセを送ってフィールドに出た。
今日は最初に行った森に行ってみようかな。
森に向かう途中<索敵>スキルを使い、敵の反応をみて、なるべくモンスターと戦いながら目的地に向かった。
道中で戦ったのは、ホーンラビットと言うモンスターだった。昨日戦った、ナイトラビットと毛の色と名前だけが違ったモンスターだった。
森に入り、1番近くの敵に向かって行ってみると、そこにはこの世界で初めて倒したモンスターである、あのキノコがいた。<鑑定>を使ってみる。
おばけキノコ
HP不明 弱点不明
おばけキノコと言うモンスターだった。おばけキノコを難なく倒し、そのあたりをウロウロと探索していると、動く気を見つけた。
鑑定を使ってみると、やはりモンスターだった。
ビギナーウッド
HP不明 弱点不明
上手く後ろに回りある程度近づいたところで<大鎌>スキルのアーツ<ストライク>を使う。
このアーツはただ勢いよく鎌を投げつけるだけのアーツだ。投げた後は何故かちゃんと手元に戻ってくる。
アーツの補正も入り見事命中。鎌が手元に戻ってくるのと同時に、ビギナーウッドが怒りの表情でこちらを向いて来る。
こちらからも接近しようとしたところ、枝を振って攻撃された。対したダメージじゃないけど攻撃スピードが早い上にリーチが長い。
その分攻撃力と移動速度が低いって感じかな。
接近での戦闘は今の私では無理だと判断して、バックステップで距離をとる。
ある程度後ろに下がると再び<ストライク>を使って攻撃。今度は枝で弾かれた。
何度か繰り返して見たけど、結果全部弾かれました。
弾かれたけど少しビギナーウッドのHPバーが、最初より少しだけ減少している。
どうやらあの枝にもダメージは通るようだ。
コレを続けては埒があかないから再び接近。
リーチ内に入ると枝の攻撃が飛んでくる。躱すのは無理でも耐える事なら私にも出来る。
直ぐに枝は引き戻されるが、その道を塞ぐ様に鎌を振り上げ途中で止める。戻る枝は突然現れた鎌の刃にぶつかり切断された。
なるほど、枝を切断して倒すモンスターか。
同じ方法で2本目を切断。一度下がりポーションを使ってHPを回復させる。
もう一度接近、しかし今度は枝は飛んで来ない。どうやらビギナーウッドが動かせる枝は2本らしい。こうなれば後は普通に攻撃して倒すだけだった。
何度目かの攻撃をした時やっとビギナーウッドは倒れた。
意外と防御が高くて疲れた。
少し休憩したのち、また森の探索をかねてスキルのレベリングに励む。
あたりが暗くなってきたから今日はもう引き上げよう。
そういえば、レベリング途中何度か人影を見た気がする。
やっぱり普通に街の外に、出てる人もいるだね。
どうでもいい事を考えながら数分歩くも森の出口が見えない。どうやら迷子になってしまったらしい。どうしよ…。
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