日の出食堂
「ただいま〜」
がらりと引き戸が開くと子どもの長い影が焼けた陽とともに差し込む。いらえはない。
昔ながらの長家風に連なった商店街。ただしほとんど空き店舗だ。中はいわゆる「鰻の寝床」。
ランドセルを背負ったままの彼は、土間になっている何もない売り場を抜け居間に上がる。暗い。
こたつのスイッチをまず入れておいてから、さらに奥の台所に行く。
テーブルに、いつものように少し汚い文字の書き置きがあった。
み帰り、まさゆき。
夕ハンはトンカツをチンしZね。レーゾーコ9中9漬物も食べZ。
ガスは使っちゃダメa。
母からのメッセージ。
テーブルのラップの下には、とんかつと煮染めがある。
母は夜、働いている。
職場はあっちの隣町。日の出る方。
まな板の音に鍋の音。時折揚げ物の音も。トントン、コトコト。じゅうぅぅぅ〜。
チン、とレンジ。
とんかつが温まったのでごはんをよそいでこたつに。
まぎれもない母の味。少し形は悪いけど旨味が染みている。
「おいしい」
母の職場まで遥か遠い。手作りの味、おふくろの味、ふるさとの味が自慢で単身者らに人気だそう。わいわい、がやがや。わはははは……。
「……おいしい」
思わずつぶやいても、いらえはない。
おしまい
ふらっと、瀨川です。
他サイトのタイトル企画に出展した旧作品です。瀨川潮♭名義でした。
まあなんというか、形は悪いけど味は染みてる感じをお楽しみください。