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今回のまとめ

「僕にはもう関わらないでもらいたい」

紅糸さんとメイド服を着た女の子を外に出して二人きりで話したいと切り出した蒼巳君から出た言葉は、明確な決別の言葉だった。

誰にでも優しい蒼巳君にしてみれば珍しい、極めて否定的な言葉。

だからかもしれない。

私はそれがどうしても信じられなかった。

「……どうして?」

「別に君が嫌いだから、そういうことを言うんじゃない」

それならばどうして?どうしてそんなことを言うのだろうか?

私はそう言おうとした。

しかしそれよりも早く、蒼巳君は答えた。

まるで私の質問がわかっているかのように。早く。

「だって君、僕のことよりも自分のことのほうが大事だろう?」

「え?」

それは、考えたこともないような問いであった。

私は、蒼巳君のことよりも自分のことが大事?

私は、私は誰よりも蒼巳君のことが好きだと思う。でもそれ以上に私は私のことが大事だという蒼巳君。

そんなことはない。

私は、私よりも蒼巳君のことが……

「僕に親しい人間は必ず殺される」

「……え?」

話の展開についていけない。ついていけるわけがない。

殺される?どういうこと?

殺されるということは死ぬということ。

蒼巳君に親しくしていると、殺される?どうして?

「僕の両親がそうであったし、彼女もそうだった。僕はね、狙われているんだよ」

「そういうことなら、警察に!」

「警察は何も出来ない。世界だってそいつには何も出来ない」

「え?」

「そういう存在なんだよ。そいつは。あまりにも大きな力を持つが故、世界はそれに対抗できない。人的災厄。世界が定めた脅威。それが『世界脅威』。僕はその一つに、狙われているんだ。そいつは僕に親しい人間を必ず殺しに来るだろう」

何?その話?

冗談だろうか?そんなの漫画や御伽の話に他ならないと思った。

思ったのだけど、蒼巳君の目は真剣だった。

「君は死んでまで僕といたいとは思わないだろう?僕だって君には死んで欲しくない。他人とはいえ、死は嫌なものだからね」

自分が死ぬようなリスクを犯してまで、蒼巳君を好きでいられるのか?

蒼巳君はそれを問うのだった。

私は、私は……

「し……信じられない」

「ん?」

「私はそんなこと信じられない!それならば何故紅糸さんは一緒にいるの!?紅糸さんも死ぬかもしれないっていうのにどうして!?」

「自衛の力があるからだよ。彼女は戦闘能力が高い能力者だ。君と違ってね。だから自分の身は自分で守れる。だけど君は違う。君の能力は隔離能力だ。それではあいつに対抗できない」

「信じない!私はそんなこと信じない!」

嘘に決まっている!

世界脅威なんてそんなもの存在しない!

私を遠ざけるために蒼巳君が吐いている嘘なんだ!

「そう言うと思った。だから……」

蒼巳君が手を掲げた。

掌が私のほうを向いている。それが私に向いている。

「それを見せて、君とは終わりだ」


紅く染まった部屋。

人影が三つ。そのうち二つは死んでいて、残りの一つは死体を**ていた。

私はその残りの一つを、背後から見ていた。

それは常とは違う世界であった。

何もかもが異質で、そして状況は考えうる限りでも最悪の状況。

嫌だ!嫌だ!

こんな空間にこれ以上いたくない!

背筋が凍る。

二つの死体を見たからではない。

人の形こそしているものの、残りの生きているそれが間違いなく化け物だったからだ。

あれに気づかれてはいけない。

あれは人間であって人間じゃない。

化物の最上級。人を**化物。

本能的に、本能的に私はそいつに恐怖している。

あれに気づかれること。それは私が二つの死体と同じ目に遭うということ。

だから気づかれてはならない。

私はそっと、そいつから距離をおこうと考えた。

一歩……たった一歩足を後ろへと動かす。

そんな些細な動作。

そんな些細な動作もそいつは見逃さなかった。

ピタッと、そいつは死体を**のを止めた。

気づかれた!?

いや、物音は立てていない。すり歩くように後ろに一歩下がっただけだ。

気づかれているわけがない!気づかれているわけがない!気づかれているわけがない!気づかれているわけがない!気づかれているわけがない!気づかれているわけがない!気づかれているわけがない!気づかれているわけがない!気づかれているわけがない!気づかれているわけがない!気づかれているわけがない!気づかれているわけがない!気づかれているわけがない!気づかれているわけがない!気づかれているわけがない!気づかれているわけがない!気づかれているわけがない!気づかれているわけがない!

そいつは、ゆっくりと、首を回した。


「いやあぁああああぁああああああああああああぁあああああああぁあああああ!!」

私は叫びながら飛び起きた。

飛び、起きた?

辺りを見回す。

……紅いわけがない。

そこは私の、いつもの部屋であった。

そして私が現在いるところは、ベッドの上であった。

そこには化物はおろか、蒼巳君もいなかった。

近くにおいてある携帯電話を手にとって今の日時を確認してみる。

火曜日、6:30

昨日は、特に何もない月曜日だったと思う。

普通に授業を受けて、普通に部活に出て、怪我もせずに普通に家に帰っただけだったような気がする。

そもそも私が蒼巳君を誘拐だなんてそんなだいそれたこと出来るわけがない。

それは人の倫理から外れている。

どんなに追い詰められようが、そのようなことをやっていいはずがない。

えっと、つまり……

「全て夢オチ?」


何か腑に落ちないことがあるような気がしたのだけど、そんなことには構わず学校にいった。

しばらくぶりの学校であったので、友人に何があったのか聞かれたのだけど、こちらとしてはただの風邪だったからそんな話に華が咲くようなことはなかった。

あれ?何かおかしいような…………

まあいいか。

昨日と同じように普通に授業を受け、普通に休憩時間中は友人と談話した。

そして放課後になった。

待ちに待っていたように、私の心は躍りだす。

友人との談話も楽しいのだけれど、私はやっぱりこの時間が一番好きだった。

だって……

だって…………えっと何だっけ?

えーっと、…………あぁ、そうだ。部活があるからだ。

部活は楽しい。

家には誰もいない。両親は共働きで遅くまで働いているからだ。それを紛らわせるかのように始めたバレーだったけれど、今じゃ私はレギュラーで主戦力だ。

皆から期待されている。そのことが非常に嬉しい。

だから私は部活が大好きなのだ。

でも……

でもそれ以外にも理由があったようなきがしたのだけど、何だっけ?

まあいいか。

私は、いつも通り部活動をするために体育館に向かった。

そして充実した時を過ごし、今日一日が終わった。

今日も、いつもと同じ、いつも通りの日々だった。



「腑に落ちないことがあるな」

放課後、紅糸さんに屋上に呼び出されて何かと思ったらそんなことを言われた。

屋上には他には誰もいなかった。

まあ使用用途が著しく乏しい屋上だからそれは仕方がないことだとは思う。

屋上にいるのは、僕、紅糸さん、そしてひまわりの三人だけだった。

他には誰もいなかった。

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………いや、ちょっと待とうよ。

何か、おかしい人物がいなかった?

屋上にいるのは、僕、紅糸さん、そしてひまわりの三人だけだった。

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ひまわりがいる!

「ひまわり、何でいるの!?」

「呼ばれたんです」

「呼ばれた?誰に?」

「うな?バカだな。私しかいないだろう。ひまわりも昨日の説明じゃ納得のいかないことがあるだろうと思って、私が昼のうちに連絡をつけておいたんだ」

とりあえずではあったのだけど、昨日起こったことは簡単ながら二人に説明しておいた。

これこれこういう理由があって、僕は詩那さんに監禁されていました、みたいな感じで。

その説明が結構うまかったのか、その場はそれで納得してくれた二人だったのだけれど、時間を置いてみたらやっぱり納得がいかないことがいくつか浮かんできたようだ。

「しかし、よくひまわりここまで来れたね。人見知りだけど大丈夫だったの?」

「はい。誰とも会わないように屋根を伝ってここまで来ました」

忍者のようなやつだった。

そこまで徹底して人見知りだと、何か尊敬の念のようなものを覚えてくる。

実はこいつは凄い奴なんじゃないかと錯覚してくる。

「学校前が大変でした。学校の屋上と最寄の家がそれなりに距離がありましたから、踏み込む時に家の屋根を壊してしまいました。」

「何やってんだ!」

「おかげで目測が誤ってしまい大変でした」

「大変なのは家の屋根だよ!」

全く。後で家の人に謝って修理をしよう。

こういうとき、直すのが僕の能力でよかったと実感するなぁ。

「うな!そんなことはどうでもいいんだ!」

「結構どうでもよくないことだと思うけどね」

「腑に落ちないことは主に二つだ!一つは詩那というやつに何をしたのか?だ。あいつの行動を今日一日監視していたが、おかしなことが何一つなかった」

朝、部屋にいないと思ったらそんなことをしていた紅糸さんだった。

「おかしなことがないんだったら、別に気にする必要は無いんじゃないの?」

僕ははぐらかすようにそう言った。

実際、その質問ははぐらかしたいものであった。

「おかしなことがないことがおかしいんだ!昨日あれだけのことをやった奴なんだぞ!それなのに、あいつは普通に登校して、普通に生活しているだけだった。更にだ、私と目が合ったというのに何の反応もなかった。昨日あれだけ言い合ったというのに、敵意の欠片も私に見せなかった。それは昨日のことがなかったかのような反応だったんだ。そんなのはおかしい。だから私は推測した。ミナギン。お前あいつに何かしただろう?これが一つ目の質問だ」

「二つ目は?」

「その能力は何だ?って話だ。ミナギン、もしかして『時観』と『時戻』以外にも能力あるのか?」

結局のところ聞きたいことはほぼ同じであった。

詩那さんに何をやったのか?それはどういう能力なのか?

僕の能力。紅糸さんが知らない僕の能力。

「……僕の能力が直す能力だけじゃないことは、紅糸さんも知っているよね?」

「うな。『時観』と『時戻』だな。時を司る二つの能力。たしか『二人の世界』とか言っていたか?それだけでも相当ハイレベルな能力と言えると思うが……まさかそれ以外にも出来るのか?」

「うん。まあ。そうしないとあの場は収められないと思ったからね。使わざるおえなかったというか、あんまり使いたくなかったんだけど。今回使ったのは、まあ催眠術のようなものだね。それの凄い版」

「催眠術?」

「そう。能力名は『眠り病』」

そこでひまわりの表情がすこし変化した。

緊張した面持ちになったというか、少し剣呑なものに変わった。

あぁ、そうか。

『正義』は世界脅威を追っているとか風雲さんが言っていた。

ひまわりがその名を知らないわけがなかったのだ。

まあいい。

僕はその世界脅威ではないし、ひまわりには後でその辺りのことを説明しておこう。

「うな。『眠り病』?どんな能力だ?」

紅糸さんはどうやら世界脅威のことをあまりご存じないようで、その単語に特別反応はしなかった。

「さっきも言ったけど催眠術の凄い版。夢は情報を整理するというから、その場でその情報を操作する。それが僕の『眠り病』かな。今回は詩那さんに昨日起こったことを全てなかったことにしてもらった」

「凄い能力じゃないか?何で今まで使わなかったんだ?」

「使用回数が決まっているんだよ。だから乱発したくないんだ」

それは嘘の理由だった。

それは確かに凄い能力だろう。しかしだからこそ、この能力は無闇に使用してはならない。

それは人の手に余るものだから。

それは如何様にも、世界の脅威になりうる力だからだ。

「だから、この能力は、もう使用しない」

「うな。それがあればもっと世界征服が楽に出来ると思ったのにぃ」

「世界征服やる気ないじゃん」

「うな!そ、そんなことないんだぞ!実は次の世界征服の計画を練っていたり練っていなかったりするんだからな!」

「練っていないんだね」

「うな!」

真実を見破られ、一歩後ずさる紅糸さん。

「そ、そんなことないって言ってるだろ!うな!うな!もう、こうなったら凄い計画してミナギンを吃驚&困らせてやるんだからな!」

「後半おかしくないですか!」

やれやれ、またそれなりに心の準備をしていかなければならないようだ。

しかし、世界征服、か。

最近は本当に世界征服に何の前進もないなぁ。

紅糸さんは世界征服をする気があるのだろうか?

無いような気がした。

何かもう、僕らとグダグダやっているのが楽しいだけのような気がした。

だけど……

「なぁ、ミナギン」

「何?紅糸さん?」

「どうしてあいつ……詩那という奴といることを拒んだのだ?お前流されるのが信条だったじゃないか?」

「そんな信条持ったことないから。ただ流されているだけだから」

「それなのに今回は拒んだ。詩那を拒絶した」

「……」

「それは何故だ?」

そう、僕は今回に限って詩那さんを拒絶した。

詩那さんの思いをなかったことにして、彼女との関わりを絶った。

理由は二つ。

一つは、彼女が僕に深く踏み込もうとしてきたから。

それをきっとあいつは見逃すはずがないから。

つまりは詩那さんのためにその関わりを絶った。

そしてもう一つは……

「……酷く簡単な理由だよ。詩那さんといるよりも、紅糸さんやひまわりと一緒にいるほうが楽しいから」

「うな?」

「だから僕はこっちの世界を選んだ」

二人きりの閉鎖的な世界よりも、紅糸さんとひまわりがいる……まあグダグダのゴタゴタの世界のほうが楽しいと思ったから、僕は詩那さんの意思を拒絶したのだった。

「うな~。何か面と向かってそんなことを言われると照れるなぁ」

「言った僕のほうが照れているけどね」

多分僕の顔は真っ赤に染まっていることだろう。

紅糸さんやひまわりはどうだろうとみてみると、夕陽にうまくかかっていて判断がつかなかった。

僕もそうなっていればいいなぁと思ったが、紅糸さんとひまわりの笑みを見る限り、どうやらそれはバレバレのようであった。

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