10 それはオレのお稲荷さんだ!
ホントにこんなの書いてていいのか^^;
蛍の舞う黄昏時。
裸の肉がぶつかりパンパンと小気味良い音が響いていた。
周囲には飛び散る汗とすえた体臭が漂い、
「うおおおおお!」
獣の咆哮をあげる男の体が強張り、素足が高々と伸びてビクビクと震える。
「ぁあああ!」
もつれ合う二人の体が固まったまま地面に崩れた。
荒い息と息を呑む音だけがあるそこに
高々と軍配が上がる。
「東~蹴速山~」
「しゃああああ!」
うん。至って普通の相撲です。本当にありがとうございました。
「すいません。負けました」
「あ、はい。ご苦労様でした」
それにしてもなんて体力してるんだろう。
連れてきた十人、全員負けてしまうとは。
ここまでくると素直にすごいと思えてしまうな。負けても爽やか。
ちょっと羨ましいな。
「いや~! 今のは危なかったが良い勝負だった!」
「流石は父上!」
この門番はおっちゃんとこの子供らしい。
父上父上ってべったりだなぁ。
いつかはこの子も筋肉達磨になるのか。
「おうよ! っと……最後の一番と行きたいが、流石に腹が減ったな。よぉし! 飯にしようぜ!」
おっちゃん同様、豪快な腹の虫が鳴り響いて相撲大会はお開きになったようだ。
「今日は宴だ宴! 蔵を開けろーい!」
宴会とな。ではうちからも提供しよう。
「あ、うちから持ってきた肉も使ってください」
「お肉!?」
「肉か! そいつはいい! 今日は無礼講だー!」
「父上は何時だって無礼講じゃないですかー」
む……糞真面目な美形なだけかと思ったら肉を見て喜ぶとは。なんだ。
「笑った顔もできるんじゃないか」
意外と可愛いし。
「なっなにか言ったか!?」
「い~え。何も」
それにしても、この世界に来てこういう所はホントにいいなと思う。
時計は無くても太陽は出ているし、腹の虫とあわせて一日を過ごす。
起きてゴハン食べて出勤して。
時間が来るまで働き続けて。
なけなしの給料はビールとタバコに消えてしまう毎日よりは、よっぽど充実してると思う。
素晴らしき哉。晴耕雨読。有言実行。横断歩道。
そして燃え上がる組み木を囲んでの盛大な焚火。むしろキャンプファイヤーか。
肉が中心になったが、久しぶりの白米は本当に美味しかった。
此処にはもう一つ、美しい物があった。
最後に出された『特別料理』
「これは――!」
金色の俵のような包み飯。噛めばジュワリとにじみ出る甘い煮汁。
逆に中は甘みを抑えたさっぱりとした酢飯。しかも硬すぎず柔らかすぎず、絶妙な固め具合!
これは間違いなくお稲荷さん!
米だけじゃなく大豆もあるだと!?
しかも発酵技術があるということは味噌もあるのか!?
「神や……間違いなく神が此処に居るでええ!」
「お兄ちゃん大丈夫?」
いかん。あまりの懐かしさに涙が……。
皆が何事かと見てるがしかし、懐かしの和食なのだ。感激しても罰は当たらない!
『ふむ。ばれてしもうたかの?』
「え?」
「え?」
蛍だと思ってた黄色い光が一個、人間大に大きくなると、そこには本当に神がいた。
「いや、ばれてなかったんじゃないか?」
「え?」
「え?」
垂髪の黒髪和服美人!ウズメ様と違ってしっかりでっかい大人の女性に……狐耳と尻尾だと!?
ファンタジックな和服を押し上げるほどの存在感。これが八百万神の実力か!
『いやいや。この者達も信仰の匂いがするし、いずれ気付かれてしまうなら、のぅ?』
あ、そういえばウズメ様も大神殿派の匂いとか言ってたな……やっぱり神様同士はそういうのが判るのか。
となればやはりここは真面目に交渉しないといけないのか。
「改めまして。天宇受売命神、アルテミス神を祀る隣国の国王タカトと申します」
「宇迦之御魂神を奉る秋津国の蹴速だ。まっ堅っ苦しいのは無しにしようや」
「国を大きくする為に神々の力をお借りしたい――」
神様を前に嘘吐いちゃいけないよな。
これは俺の本心。国を大きく強く。その為にはまず地盤が必要だ。
「……はふぅ」
湯船に浸かれる日が再びこようとは……!
なんというか、大きな五右衛門風呂といったら判りやすい。十人位は入れるかもしれない。
しかしそんなことよりも、日本人の魂には風呂は必要不可欠だ。
ちなみにシズクちゃんは疲れて寝てしまっている。
まぁうちの国で風呂に入りたくても、水を引いてこないといけないし、大変なんだよなぁ……。
あ、そういえば国の名前……決めてないな。
秋津……和風だ。
響きも良い。先を越されたようで少し悔しいな。
此処は一つ、負けないような名前をつけなければ……タカト国。ないな。
タイフォン。英語はちょっとな
タ……タイランド。違うなもっとこう、和風の。
……古風で和風…葦原中津国!
近い! 近いけど秋津と中津は発音的意味で近すぎる!
そうだ高天原!
「これだ!」
「わっ!?」
勢いよく立ち上がったらすぐ後ろで声がした。
なんだ。蹴速のおっちゃんとこの門番じゃないか。
尻餅なんてついちゃって。
「うわ……顔だけじゃなくて体まで線が細いなぁ。全然焼けてないし、肌真っ白じゃないか。そのくせピンクの突起とか女の子か……」
ん?
「き……っ」
きのせいか胸膨らんで……る?
「へ?」
「きゃあああああああ!」
『バシーーーーン!』
強烈な平手打ちを食らって湯船に浮かぶ俺。
なんて凶暴な普乳だ……。
いつか絶対泣かす……。
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国名:『秋津』
国王:蹴速(44)
王妃:――
王子:多々良(24)
王女:五郎八(16)
人口:79人
兵士:33人
宗教
主神☆宇迦之御魂神
広域:×疫病祓い・×雷雨招来・○五穀豊穣
個人:Lv3呪殺・Lv2呪詛返し・Lv1空腹耐性
標準武器:青銅(輸入)
標準防具:麻の服
標準住居:丸太小屋
農耕技術:水田。水車小屋
総合評価:農耕民族
【国王】蹴速 44歳/男/国王/寡夫
守護神:宇迦之御魂神Lv2
才能:【尚武】
性格:【精力的】【公明正大】【勇敢】【不屈】【脳筋】【高身長】【筋肉質】
総合能力:豪快な武人
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……
幸運とは、何を持って言うべきか
障害とは、乗り越える事によって自身をより強い物へと変えるモノだ
不幸もまた、障害となる意味では、不要なモノとは言えぬらしい
乗り越えるべき障害を、不幸を、たまたま降って湧いた幸運が吹き飛ばす
これでは成長を失ってしまう。そうだろう?
ただ連綿と続く変化の無い毎日が楽しいだろうか?
時に刺激がなければ人生はあまりにもつまらない
だが、その為に後の人生が狂わされる様な事はあってはならない
花火のように大きく感動を与え、そしてすぐに消える
それこそが本来あるべき
幸運の姿だと、私は思う。
そう。今日の彼のように
一瞬の感動と
一瞬の衝撃を。
男の無理強いは、いかんよなぁ?
紳士諸君?
ちなみに作者はタバコも酒もやりませんよ。
相撲は神事です。ヤラシイ目で見てはいけません。
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