9 秋津へ!
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年号:未定 季節:秋
国名:『未宣言』
国王:タカト(18)
王妃:ミユ(18)子:タツミ(1♂)
王妃:シズク(16)
侍女:シズル(20) 子:カガリ(3♂)
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「さて。行きますか」
冒険者達の道筋を追って隣の秋津国への道が拓かれた。
彼等は整備されてない道を二日と言っていた。
けど草を刈って道標も立てさせたし。早朝から出発して急げば夜までには着けるだろう。
食べ物の苗や種が手に入れば万々歳だけど、技術や何より情報が欲しい。
折角順調に大きくなり始めた俺の国だ。
こうなったらとことん成り上がってやる。
俺は体力自慢の男達を十人ほど募って使節団を結成。
朝早い出発にも関わらず、国民総出で見送りに来てくれた。
これも王としての人徳か……!
槍よし。
防具よし。
保存食よし。
交換用の毛皮と食料よし。
「よし。行くぞ!」
槍を掲げて気合を入れる。
さぁ行くぞ野郎共。俺達の冒険はこれからだ!
「おぅ!」
「はい! お兄ちゃん!」
はいストーップ。
屈強なむくつけき大男達に予定外の人がいます。
「何で当たり前の顔でシズクちゃんが混ざってるのかな?」
「奥さんだから?」
小首をかしげるのは可愛いけどね。うん。答えになってませんよね。
しっかり体に合わせた槍と革の防具まで付けてるし。何時の間に準備したんだ。
「危ないから残ってなさい!」
「やだ! お兄ちゃんにこれ以上悪い虫がつかないようについていくもん!」
シズクちゃんがぷくーっとほっぺを膨らませて抗議する。
なにこの小動物。すごい可愛い。
しかし悪い虫って……誰だ……誰がそんな言葉教えたんだ。
あ、ミューが顔逸らした。
あれ? 正妻公認ですか。
そうですか。
古来より王族の婚姻は簡単に友好関係を結べるってのに。
……いやまぁハーレムは男の夢だし。期待してるところは多々あるけど!
「あ、それにほらアタシって足速いし? 何かあったらすぐ帰れるもん」
足が速い?
そうなの?
「国一番の俊足ですよ」とむくつけき大男の一人が教えてくれた。
えっへんとシズクちゃんが胸を張ってる。
得意げな顔もかわいいもんだ。
あぁ。
重心を乱す重りがないのと空気抵抗が少ない体だから……。
「おにいちゃん?」
あ……あれ? どうしてだろう。
笑ってるはずなのにシズクちゃんの笑顔が恐い!
僕は今日
笑顔とは
獲物に対して牙を剥くのが本来の姿という事を
初めて教わった。まる。
森を抜けると、そこは雪国――ではなかった。
平原に水車が回って水が引かれ、水田が広がっていた。
黄金色に波打つそこはまさに古き良き日本の田園風景。
女性は着物だし、男も袴姿。しかも裃が膝元まで垂れてて和風ファンタジーっぽいじゃないか。
これだ……まさにここが!
此処こそが俺の追い求めた黄金郷!
「お引取り下さい」
え?
「お引取り下さい。そのような物々しい姿で友好など口にされても、信用できましょうか」
何故だ……俺達の姿を見た人が叫び声をあげて逃げていく。
挙句に門番はまったく取り合おうとしやがらない!
くっ……しかもこの門番。男のくせにめちゃくちゃ美形じゃないか。
俺より若くて顔が良いから余計に腹立たしい!
「奪いたければ奪えば良い。オレ達は絶対に屈しない!」
だから奪いに来たんじゃないって。
なんて頑固なんだ。
「えぇーと、それなら武器や鎧は此処に置いて行くって行ったら入れてくれるの?」
「む……そういう事なら取次ぎも考えんでもない」
シズクちゃんナイスアシスト!
それで信じてくれるならいくらでも武装解除に応じてやろうじゃないか。
仲間に槍を渡し、鎧を外す。
そして服を脱ぐと下着に手をかけ――
「ばっ馬鹿者ぉお! だからって下着まで脱ぐ奴がいるかああ!」
――た所でいきなり門番が怒り出した。。
こっちが一切の敵意の無いことを表明しようとしてるのになんという言い草!
顔真っ赤にするほど怒る事だろうか。言い出したのはそっちじゃないか!
「こちらの誠意を認めて貰うためなら何一つ! 包み隠さず! 無防備な姿を晒す事も厭わない!」
「ダメダメダメ! お兄ちゃんそれ以上は失礼だってば!」
(うわぁうわぁうわああお兄ちゃんの裸!)
シズクよ。止めるか指の隙間からこっちを見るかどっちかにしなさい。
「こここここの痴れ者! 分ったから着ろ! 服を着ろぉおお!」
「いいや! 限界だ! 脱ぐね!」
((((駄目だ……うちの王……))))
「なぁにを騒いでんだぁ?」
む。
門の向うからうちの大男に負けず劣らずの大男が歩いてきていた。
しかしなんだあれは。
メチャクチャ鍛えられた体だがボサボサの茶筅髷に裸に褌とは。
「俺よりよっぽど変態じゃないか」
「だっ黙れこの半裸! 変態! 王に向かってなんて口を!」
王?
秋津の王様ってこんな筋肉褌達磨なのか。
……お姫様に期待出来ない……。
「まぁ待て待て」
そういって真っ赤な門番をなだめて俺達……むしろ俺を ジロジロと見つめて来る。
これが女の子の視線なら最高なのに。
しかし男の顔付きは真剣そのもの。茶化すのは失礼か。
下ろし掛けた下着をあげて正面から見返す。
ふ。俺だって狩りで鍛えているんだ。肉体美なら負けん。
「ふむ。半裸が変態ならいっそ全裸のほうが潔い、か」
そっちかよ!
「ちちうえーーーーーー!」
「かぁっはっはっはっは! 冗談だ。おぅよく来たな。俺がこの秋津の王、蹴速様だぁ」
門番をまぁまぁとあしらって門を開けた秋津王は、俺達を見回すと不適な笑みで両手を広げた。
「いい体してんなぁお前等。ちょっくら俺と相撲しようぜ相撲! 収穫前にカミサンにいい相撲が納められそうだぜ」
な、なぬ?
相撲とな。
嫁さんが相撲好きなのか?
喜ばすのは自分の嫁だけでいいんだけどなぁ……。