神と龍王 1
真っ直ぐに睨み合う2人。
剣呑な視線の交わし合いに、思わずこくりと息を飲み込む。
「何故なつなだけが、別世界に生まれた。」
“こればかりは、誤りとしか言えない。キミ達の生誕は、神界でも限られた要人しか関われない。赦されざる誤りだと、自覚はしているんだよ”
「そんな一言では片付けられたくない。それがどれだけの影響を与えたと思っている?」
“それも、なつながこの世界に現れたことで解消した筈だ。『彼ら』が求めるのは、なつななのだから”
その言葉に、彼の眼差しに更に強い感情が宿る。
それがどうしてなのかも、2人の会話の内容も意味も分からなくて、私は黙って見守ることしか出来ない。
“『神界』で、『大神様』がずっと手をこまねいていたと思っているのかい?彼の方は御自ら出来ることを全て為し、なつなを探していた。『愛し子』のためだけに…世界は二の次だった”
「ならば何故誤った!?世界よりも『愛し子』と、そういうならば何故!」
“それは龍王、キミに話すにはまだ早い。今キミに話す必要性も感じない”
「…っ!!」
彼にだけはどこかそっけない態度でそう話を終わらせた神様は、ふとその瞳を宙へと向けて、またその瞳を彼に向けた。
“ふむ。先程の話に戻れば…解消どころの話では済まないかな。『今日』だけは、なんとか僕が抑える。だが明日からは、それも出来なくなる。『彼ら』はすぐに動き出すだろう。なつなを求めて”
「……」
“僕が説明しても構わないよ。その件だけは、なつなには説明していないから”
「……いや、僕が話す。」
“そうかい?なら、僕は明日の朝まで席を外そう。キミ達にとって、待ちに待った出会いの夜だしね。——さて、外の様子でも観察してこようかな”
そう言ってしっぽを揺らし、私に一度視線を向けてから、ひらりとベッドから降り立つと、銀色の猫の姿の神様は、そのまま開いていた窓からひらりと出ていってしまう。
唐突に訪れた、2人きりの状況。
2人の話の意味も分からないまま、そっと彼に視線を向ければ、どこか不安そうな瞳があった。
そんな彼の名を呼ぼうとして、ふと気づいたこと。
「レーン……やっぱり呼びにくいな。呼んじゃいけないなら、レイって呼んでもいい?」
「え…」
「あ、やっぱりマズいのかな?なら、他の人はどう呼んでるの?」
「…誰も。誰もが僕を呼ぶ時は、『龍王様』だ。僕の名は誰も知らない。」
「え?」
その意外な答えに驚くしかない私に、彼は真っ直ぐな眼差しを向ける。
「僕の真名を捧げる相手は、なつな…君に決めていたんだ。他の誰にも、名を呼ばれたくも、捧げたくもなかったから。」
そう言って、目を細めた彼。
その真っ直ぐな想いに、胸がきゅんと疼いて、涙が溢れそうになる。
「だから君が僕を呼んでくれるなら、どんな名でも構わない。それに、僕の真名から考えてくれたんだろう?『渾名』を。」
「!え…?」
「この世界でも、真名から別の名をつけるんだ。でも、君がいた世界のように…渾名という言い方はなかった。」
「さっき、そんなことまで読み取ったの?」
「僕は意識して力を使う、その術を知っているからね。でもなつなはそうじゃない。僕と引き合うようにして、初めて力を使ったに過ぎないから。だから意識して力を使うことで、僕と同じくらい読み取れるようになるよ。」
「そうなんだ…」
そう呟いた私に彼は優しく微笑んで、私の目の前へと移動した。
「なつな、素敵な渾名をありがとう。御礼に、君の渾名を僕に決めさせてくれる?」
「決めてくれるの?」
「もちろん。君の真名は、『サワキナツナ』。それに相応しい渾名は――サーナ。この世界の言葉で、『太陽』という意味だよ。」
「太陽…」
「君は知らない筈なのにね。君が名付けてくれた『レイ』という渾名は、この世界の言葉で――『月』という意味を持つんだよ。」
「え…」
「『太陽』と『月』。互いになくてはならない存在――僕達と同じように。」
そう噛み締めるように呟いて、暫くののち。
彼は真剣な眼差しで、私を見上げた。
「だから、僕は君に告げなければいけない。君の秘密を…」
なつな――君が持つ、力を。
すみません、ライナスの登場までちょっと引っ張ります。