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龍王様の半身  作者: 紫月 咲
3章 ただす者
74/80

紅焔の宴《2》3時間前 断罪

書き上がりましたので更新します。

続きはまたちょっと間が空くかもしれません…ご了承くださいませ。



ヴェリウスは静かにルエナを見据え、その身体から完全に力が抜けている状態を見て取ると、深く息を吐き出し、けれどその瞳に確かな怒りを宿したまま、切り出した。





「モルフィード侯爵息女、ルエナ・モルフィード。サーナ殿下、そして国王陛下の御前である。控えよ。」


ヴェリウスの言葉に驚き、ルエナが視線を向ければ、なつなが座る玉座より数段下にある玉座に、国王クロードルスとその傍らに立つ宰相ウェザリアスの姿があった。





「ど、どうして…?」


許しもなく漏らされた声に、ヴェリウス達が突きつける剣先がより突きつけられるが、ルエナは構えなかった。

何故なら、自分となつなだけしかこの龍妃の間にいなかったはずが、何の前触れもなく、聖獣やクロードルス達が現れたことに、ただただ困惑していたからだ。


そしてその疑問に答えたのは、ルエナの正面に立つヴェリウスではなかった。





「…余等は、ずっとこの場でそなたの行いの全てを見聞きした。そしてそれを悟らせず、そなたには殿下のお姿しか見えないように、不可視の魔術を雷龍殿自らがかけられたのだ。」


国王クロードルスは、静かな口調でそう告げて、玉座から立ち上がるとなつなに向けて深く頭を下げてから、また玉座に座ることなく、玉座から数段下りて、厳しい眼差しでルエナを見据えた。





「愚かしく分不相応な行いをしてくれたものだな、サフィールの娘よ。そなたの言動のなんと耳障りで不快なことか。…恐れ多くも、そなた如きの身分で殿下の正体を疑い、あまつさえ身分を振りかざすとは…恥を知るがよい!」


クロードルスの苛烈な叱責に、ルエナは震え上がりながらも、それでも渾身の力で意志を取り戻し、まるで縋りつくような瞳で訴えた。





「陛下…!陛下は騙されておいでですわ!ヴェリウス様方も、そちらにいらっしゃる聖獣様も香龍様も、その女に騙されているのです!その女は悪しき力を用いて半身様になりすまし、その地位を得たのです。わたくしは…」

「黙るがよい!」


ルエナの訴えなど聞きたくないとでも言うように、クロードルスは激しい口調で怒鳴り、苛立たしげにルエナを見据えた。





「そなたの瞳は節穴か!今し方、そなたを取り囲んでいた存在は何だ!『見えざる者』達であろう!あの者達は、サーナ殿下を護るために現れたのだ。それすらも分からないと申すのか!」


理解出来ないルエナの言動に眉間に皺を寄せ、自覚させようと説明するクロードルスに、それでもルエナが訴えを続けようと口を開こうとした時、彼らの間に立ち塞がった影があった。






『――いい加減にしていただけますか。貴女の言い分など、我らは聞きたくもないのです』

「翠月殿…」


クロードルスに背を向け、立ち塞がったのは翠月だった。

真っ直ぐにルエナを見下ろし、けれどいつも穏やかなその表情は、今は不快げに歪み、苛立ちを隠そうともしていなかった。


その姿にはっとしたようにクロードルスが振り返れば、そこにはなつなの護人(まもりびと)――メルフィオーサ達全員が姿を現していた。

まるで、なつなの視界にルエナを映したくないとでも言うように、翠月と同じ表情でなつなの前に立ち塞がって。





『我らの王は、我が君――サーナ様だけ。そこに偽りなど有り得ないのです。まして、只人(ただびと)が王と為れるわけもない。思い上がりも甚だしいのですよ』

「そ、そんな…そんなわけがありませんわ!あの女だって人間でしょう?なら…」

《…無礼者がその口を開くな、穢らわしい。愚かな只人に姫の何が分かると言うのか、思い上がりも大概にせよ。我らは心の醜さを見抜く…そなたは我らに愛される価値などない、欲に目が眩んだ醜い小娘だ》


翠月が反応する前にシュアルクスが近づくと手を翳し、言い募るルエナの口を塞ぐように空気の膜を巻きつけ、冷酷に告げる。

ルエナの醜さと、揺るぎない彼らの真実を。





《そなたが生きている理由を自覚せよ。そなたは、姫の慈悲によって生かされているに過ぎん。姫に悪意を向けた時点で、我らにとってそなたの命など価値がないもの。それを努々(ゆめゆめ)忘れるな》

「…っ…!」


冷徹な眼差しと言葉を自分へと向けるシュアルクスを見るともなしに見つめて、ルエナはそこで漸く自分自身の過ちと、見えざる者達の深い怒りを自覚し始める。

震えが止まっていた身体が呼吸出来ないことで更に震え出し、その眼差しが虚ろになり始めると、シュアルクスは忌々しげにその拘束を解いた。





《姫…身勝手な振る舞い、お許しを。ただどうしても、我慢ならず…》

「…うん、分かってる。止めてくれるって信じてたから。」


自分の行動を諌めずにいてくれたなつなの信頼に、シュアルクスは深く頭を下げて、翠月と視線を交わし合うとなつなの元へと戻っていく。

そして解放されたルエナをまたヴェリウス達が取り囲んだその場に、膨大な魔力のうねりと共に声が響いた。






「――サーナ、もういいね?白王宮に帰ろう。」


龍妃の間の隣室で、可視化の魔術を用いて一部始終を見ていた龍王レイが、空間転移の魔術を使って現れたことに、なつなも、そしてクロードルス達も驚くが、レイはただなつなだけを見つめて、その頬を撫でる。

まるでルエナの存在をないものとするようなレイの態度に、なつなは戸惑いながら問いかけた。





「レイ…どうして?まだここにくるタイミングじゃなかったでしょ?何か…」

「もういい、もういいんだ、サーナ。もう聞きたくもない。後はクロードルス達に任せればいい。」

「レイ…?」


常にはなく焦ったような口調で自分を促し、何かを抑えつけているような表情をしたレイを見つめて、なつながその頬を包み込めば、ビクリと一瞬強ばった後に、震える声でレイが呟いた。





「…もう、抑えられそうもないんだ。君を傷つけたサフィールの娘を…殺してしまいたい。その憎しみを、衝動を、抑えられそうもないんだ…!」


レイが漏らした言葉が偽りのない本心だと、自分を見つめるエメラルドの瞳に宿る魔力の揺らぎが、通じ合う心が訴える。

そしてレイが纏う気配の鋭さと膨大な魔力のうねりが龍妃の間を覆い尽くし、その怒りを向けられているルエナにも、この場にいる全ての者達へも向けられていく。





「王…!」


隣室から慌ててレイを追って転移してきたライナス達六属龍が、玉座の傍に揃った時、飛び込んできたその光景と膨大な力の圧力に、彼らは恐れていた事態を覚悟し、相殺するために自らの魔力を凝縮し、身構えた。


けれど、彼らが恐れていた事態は起きなかった。


何故ならなつなが立ち上がり、レイの額に自分の額を触れ合わせ、優しく抱き寄せていたからだ。






「――大丈夫。大丈夫だよ、レイ。怖くない、怖くないの。私はここにいる。レイの傍に、これからもずーっと…」


まるで子供に語りかけているような優しい口調で、何度も繰り返し同じ言葉を囁きながら、その手は一定のリズムでその背中を叩く。

そうしたなつなの行動に、レイの強ばっていた表情も膨大な魔力のうねりも次第に緩み、その両手が同じようになつなの背を抱き寄せるまで、時間はかからなかった。






「龍王、様…」


その一連の光景を、ルエナは呆然とした表情で見上げていた。


自分を襲った圧倒的な強さの魔力のうねりも、そしてその魔力に込められた自分への怒りも殺意も、錯覚だとは決して思えなかった。

そしてそれを恐怖と感じ、目の前にいるかの人へ縋りつこうとすら思えなかったことも。


そして何より、この場にいる誰もが動けずにいる中で、何より傍でその膨大な魔力のうねりに(さら)されたなつなが、何の躊躇いもなくレイに触れ、その怒りも何もかもを容易く、解いてしまったことも。

そして――レイのその瞳がルエナに向けられることが、ただの一度もなかったことも。


全て、事実で。


ルエナは漸く、この時までに自分が起こしてきた言動の全てが、全くの思い違いであったことを、心底思い知ったのだった。






まだまだ続きます。

ここで漸く、漸くルエナが自分の勘違いと思い違いに気づいた模様です。

遅いよ…_|\○_

そしてレイさん、この人が1番危険な爆弾抱えてたっていうね(苦笑)

ナイス爆弾処理です、なつなちゃん!


そして今回初めて、レイさんやライナス達が空間転移の魔術を使うシーンを書きました。

何故今までそういったシーンを書かなかったのかといいますと、1番はなつなちゃんの力にあります。

彼女の力は、外的な要因が1番力の自覚を促します。

そしてそれはレイさん達がなつなちゃんの側で魔力を使えば使うほど、その魔術が強ければ強いほど力に誘導されるわけです。

なので、レイさん達はなつなちゃんが全ての覚醒を終えるまで、空間転移の魔術を使うことを避けてきたわけです。

翠月は例外です。翠月はなつなちゃんの血を与えられているので、ほぼ同一の存在となるので影響がありません。

あ、ちなみにレイさんは1人で空間転移の魔術を使えますが、ライナス達六属龍は全員が揃ってないと使えません。

扱う属性が違いますからね。


さあ、いよいよ次回はお白州です。さてさて、どうなりますことやら…

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