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龍王様の半身  作者: 紫月 咲
3章 ただす者
73/80

紅焔の宴《1》3時間前 対峙

約4ヶ月、とか…!

大変長らくお待たせしました!

いよいよ第一の事件、解決編『紅焔の宴(ヴァン・フレアベルタ)』始まります!




深緑の絨毯が敷き詰められた長い廊下を、侍従の青年に先導され、優雅に歩く1人の令嬢。

その足取りは淑やかに、それでも浮き足立つ心を現すように軽く、そして令嬢の口元に浮かぶ微笑み。


彼女はまさしく勝利を確信し、自身が望んだ相応しい結末と、自身を待つかの人の元へと歩んでいる。





「モルフィード侯爵息女、ルエナ様が御到着なさいました。開扉を。」


豪奢な造りの大きな扉の前で立ち止まり、扉の左右に立つ騎士に侍従の青年が願い出ると、彼らはすぐに動き出す。

そして扉が開くまでの僅かの間に、侍従の青年は令嬢――ルエナを振り返り、淡々とした口調で告げた。





「わたくしめの案内はここまでとなります。ここから先――『龍妃の間』への立ち入りは、ルエナ様。貴女様のみが許されておりますれば…」

「結構よ。すぐに立ち去りなさい。」


侍従の言葉に傲慢な態度でそう告げたルエナに、青年は一切の感情を消し去った表情で優雅に一礼し、元きた廊下を戻っていく。

そんな青年を見送りもせずに、ルエナは扉へと向き合い、さっと自身の姿を見やった後、その場で淑女の礼を取る。

そして扉は開かれ、ルエナは瞳を伏せたまま一礼し、龍妃の間へと歩みを進めた。






「お初にお目にかかります、龍王陛下。サフィール・モルフィードが娘、ルエナ・ロジェル・ネマ・モルフィード、お呼び立てにより参りました。お話をお聞きしたく存じます。」


扉をくぐり、瞳を伏せたまま中程まで進んだ後、淑女の礼を取りながら、促される前に喜びを隠しきれずに口にした言葉。

けれどその言葉に答えたのは、ルエナが既に排除・・したはずの人物だった。





「――ここに龍王はいませんよ、ルエナ嬢。」


聞こえてきた声にルエナは驚愕した表情で弾かれたように顔を上げ、その瞳にその姿を映した瞬間、見る見るうちに表情を歪ませた。





「…どうして、龍王陛下ではなく殿下がこちらに?わたくしをこの場にお呼びになったのは龍王陛下、殿下ではございませんわ。」

「いいえ、私です。龍王の名で、あなたをお呼びしました。」


自身の非難を隠しもしない問いかけに、玉座に座ったまま、静かにそう返すなつなを見上げ、ルエナは浮かべていた気品のある表情を歪ませた。


ルエナにとって、なつなは既にその存在を排除した者。

そんな存在が、当たり前のように玉座に座っていることも、悪びれもせずに龍王の名を(かた)ることも、到底許せることではなかった。






「――恥を知りなさい、下賤な娘の分際で!玉座は、お前のような卑しい平民が気安く触れていいものではないわ!」


手に持っていた扇を突き出し、憎々しげな表情でそう叫んだルエナは、既になつなへの仮初めの敬意を捨て去っていた。

その瞳を怒りでつり上げ、見下すような表情で自分を見上げてくるルエナに、なつなは深く息を吐いた。





「…やっぱりそれがあなたの本音なんですね、ルエナさん。」


動揺する様子も、反論する様子もなく、まるで自分の言葉を予想していたとでもいうようなその口振りに、ルエナはギリッと奥歯を噛み、ますますその口調を強めた。





「それが何なのかしら、理解しているような口振りで偉そうにして!お前のそんな態度がわたくしはずっと気に入らなかったのよ!」

「……」

「つくづく忌々しい娘だこと!わたくしがあれだけ忠告したにも関わらず、愚かな行いを省みないばかりか、未だに半身様のフリをしているだなんて!」

「……」

「何も言えないのね、自覚だけはあるのかしら?龍王様の御名を騙ったことを後悔なさい!今すぐに御父様にお知らせして、お前を牢に入れてあげるわ!」


勝ち誇った表情で微笑み、扉の外に控える騎士に言付けを頼むため、踵を返したルエナの背に、静かな声がかかる。






「私が半身ではないと…あなたは何故、そう言い切れるんですか?」


その問いかけにルエナは足を止め、振り返ったその表情には明らかな侮蔑が浮かんでいた。





「お前が美しくないからよ。『半身様』は、『龍王陛下』と対になる存在。この世界の頂点に立ち、わたくし達人間を導く王――それはきっと互いに美しいはずだわ。」

「……」

「けれど、お前は平凡で…何よりもその髪と瞳の色のなんと不吉なこと!龍王様に相応しいどころか、龍王様を不幸にするだけだわ!」

「……っ、」

「『龍王様』と『半身様』にまつわる昔話を利用したのでしょうけど…愚かなことだわ。お前ごときの容姿で万物全てに愛されるなど、あるはずがないでしょう!『見えざる者』の存在なんて、ただのお伽話でしかないの。」

「……」

「もし本当に存在するなら、きっとわたくしの元に現れるはず。だって…わたくしは美しいもの。万物全てに愛されるなら、それはわたくし…」

「……」

「美しい龍王様の御傍には、美しい者だけが在るべきなのよ。だから、わたくしが御傍で支えて差し上げるの。姿を消した半身様の代わりにね…」


うっとりとした瞳で滔々と語るルエナは、自身の考えが間違っているなどとは微塵も感じていない。

だからこそ、なつなが口にした言葉を、すぐには理解出来なかった。





「あなたは、自分は愛されて当然だと思っていませんか?」


そう問いかけ、なつなの揺らぐことのない意志を映す瞳は、真っ直ぐにルエナを射抜いた。





「護られて当然、かしづかれて当然、愛されないわけがない…それが当たり前だから。そう思っていませんか?」

「何を言い出したかと思えば…本当に呆れること。当然でしょう?わたくしは…」

「あなたは、誰も愛そうとしないのにですか?美しいから自分に相応しい、美しい自分は愛される、護られる、ちやほやされる。…当たり前と思うばかりで、自分は誰かに何も与えようとしないのに。返そうとしないのに。それはおかしくありませんか?」

「…っ!」


自分の言葉を遮り、そう問いかけたなつなの言葉を正しく理解した瞬間、ルエナはその瞳を屈辱につり上げた。

自分が貶されたことに気づいたからだ。

けれど、なつなが怯むことはない。





「レイは確かに美しいです。容姿も、民を想う心も、何もかも。でもあなたが口にするレイの美しさは、レイの外見だけ。レイ自身を、あなたは見てないでしょう?」

「な…っ、」

「自分の欲望のままにしかレイを見れないあなたに、この玉座は相応しくありません。私は、龍王レイの半身です。それが、誰にも揺るがせない事実です。」


はっきりとそう告げて、その雰囲気を今までの穏やかなものから威厳あるものへと変えたなつなに、ルエナは気圧された。

屈辱に震えながらも、二の句が継げず、そのことに更なる屈辱を感じて、ルエナは思わず持っていた扇を絨毯の上に叩きつけた。






「よくも…よくもわたくしを侮辱したわね!そして何よりも龍王様の御名を呼び捨てるだなんて、なんて身の程知らずな…っ!その玉座はわたくしにこそ相応しいのよ!お退きなさいっ!」


我慢ならず、玉座に座るなつなに近づこうとルエナが足を踏み出すと、一歩進む間もなく、まるで何かに弾かれたように押し戻され、その衝撃にルエナが瞳を伏せまた開いた時、そこにいた存在にルエナは瞳を瞬かせた。





「な、何ですの、あなた達は…」


ルエナの目の前に、まるで立ちふさがるように立っていたのは、3人の少年少女。

互いに異なった色を纏った彼らは、困惑した表情で自分達を見つめるルエナを、苛烈な敵意を持ちながら睨み付けている。

その雰囲気に気圧されながらも、それでもルエナは傲慢に、この場に相応しくない彼らを叱責した。





「ここを何処だと思っているの、お前達!ここは『龍妃の間』、選ばれた者だけが入ることを許された、龍王陛下との謁見の間よ。どの家の子供なのかしら…恥を知りなさい!」


自らを高貴な家の息女と自負しているルエナが、その自信と言葉を振りかざしても、彼らは表情すら変えずに、その場を動こうとしない。

そのことにルエナは苛立ち、その苛立ちのまま右手を振り上げた瞬間、そんなルエナを射竦めたのは、彼らの中心にいた紫の瞳をした少年だった。





“傲慢で愚かな娘よ…。我らの正体にも気づけぬ存在が、我らの主を(かた)ろうなどと…思い上がるな”


底冷えするような鋭さでそう告げた少年が、淡い光の中その姿を変える。

それに続くように左右にいた少女達も姿を変え、そしてその存在の正体を知った時、ルエナはその場に崩れ落ち、震えながら声を漏らした。





「聖獣、様…」


本来の姿を現した彼らは、銀色の猫と白銀の虎と漆黒の狼へとその姿を変え、ルエナを見据える。

その眼差しはまるでルエナを仕留めようとするかのように鋭く、覗く牙が彼らの怒りを現すかのようだった。






【愚かな娘…我らの主を侮辱したこと、許せぬ】

《我らの怒り、その身を持って受けるがいい!》


天虎と天狼の咆哮を合図に、龍妃の間を襲ったのは、吹き荒ぶ風だった。

その風はルエナだけを取り囲む風の檻を作り出し、そしてその周囲を取り囲んでいたのは無数の見えざる者達。

身体を透かせた様々な姿をした見えざる者達が、あらゆる害意を向けながら、ルエナを見下ろしている。


その視線達に、ルエナは震え上がった。




《愛し子の望みとはいえ、聞くに耐えれぬ悪言の数々…覚悟は出来ておろうの、醜き小娘》

(わらわ)の愛し子を罵り、蔑んだのじゃ…覚悟は出来ておろう?その自慢の顔から、そなたが口にした罵りの分だけ…傷つけてやろうの”

『さあ、立て…我らの断罪、身を持って受けよ』


あちこちから向けられる言葉に、ルエナは悲鳴を上げながら震え上がり、その瞳からは大粒の涙が零れ落ち、それまでの傲慢さは見る影もなかった。


ルエナは知らなかった、『見えざる者』の存在を。

知らなかったのではなく、信じようとしなかった。

総合学院で学んだはずの、この国の歴史も、龍王と半身の力のことも。

お伽話と決めつけ、自分の都合のいいように解釈した。


この世界が、見えざる者達の存在で成り立っているということも、信じようとさえしなかったのだ。


けれどその断罪の時は不意に終わりを告げ、ルエナに向けられていた苛烈な視線は和らぎ、風の檻も姿を消した。

その気配にルエナが辺りを見回せば、ルエナを囲んでいる見えざる者達の視線は、ある方向に向けられていた。





「みんな、いいの。もう止めて。」


玉座からその光景を見つめ、静かにそう口にしたなつなの周りには、香龍が全員揃っていた。

なつなを護るように傍らに跪き、真っ直ぐにルエナを射竦めて。





「ありがとう、私のために怒ってくれて。でも、それはダメ。力に訴えることだけは…したくないの。ごめんね…」


なつながそう告げれば、見えざる者達は渋々ながら頷き、なつなの優しさを称えながら姿を消す。

ルエナを一瞥もせずに。


けれど見えざる者達から解放されたルエナを、今度は別の影達が取り囲む。

その姿に、ルエナの表情には別の怯えと驚愕が浮かんだ。





「ヴェリウス様…」


力なく座り込むルエナの喉元に静かに剣先を突きつけたのは、“守護の剣(ブレッドオブウォー)”騎士団長ヴェリウスその人だった。

そしてヴェリウスを正面に、同じように剣先を突きつけて左右を取り囲むのは、“紺碧の双翼(アリアンツウィザー)”護衛隊総隊長キールと近衛隊総隊長ウィルクス。

更に後ろには、剣先を突きつけた七公家アーバネスト公爵家一の姫、“紫凰の女帝(ヴェロマジョルカ)”守衛隊総隊長アンナレーナがいた。






また続きます。

暫くお待ちください…_|\○_

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