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龍王様の半身  作者: 紫月 咲
3章 ただす者
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謁見前日《2》求めること、望むこと





「1人で…?本気で言っているの、なつな…」


愕然とした表情で、今まで黙っていたレイが声を漏らせば、なつなは真剣な表情で頷き、レイと同じ表情をして自分を見下ろすライナスを見つめてから身体を離し、言葉を紡ぐ。





「もちろん、完全に1人じゃないの。翠月もフィオ達も一緒にいる。でも、それ以外には誰もいない方がいいと思うの。」

「…何か、理由があるの?」

「ルエナ嬢は、私がホントにレイの半身なのか疑ってる…その可能性があるって、フィオ達は言ってるの。もしそうなら、侮らせたままの方が本音を聞き易いんじゃないかって、私は思うの。」

「だから、なつなが1人で会うというの…」

「たとえ侮ってても、私が半身としてルエナ嬢と会えば、ルエナ嬢も無茶なことは出来ないと思うし。それに、翠月達がいる。私に何かしようとしても、みんなが護ってくれるから。」


なつなの言葉に含まれる翠月達への絶対的な信頼と、揺るがない考えを映す瞳に、レイは口を噤み、けれど納得がいかないように問いかける。





「もし、僕達がそれを受け入れたとしても…香龍達やスオウ達が納得するとは思えない。それでもなつなは、それを望むというの?」


レイの問いかけに、なつなは一度瞼をとじてから、ゆっくりとその瞳を開き、真っ直ぐな眼差しでレイを見つめた。





「ライラさん達は、私が説得するわ。だから、お願いレイ…私の思うようにさせて。」


懇願するようななつなの声に、レイはその瞳を交わらせたまま深い深い息を吐き出すと、暫く考えたのち、ゆっくりと頷いた。






「…なつなの意志を優先するよ。龍王として、それを認める。」

「レイ…ありがとう。」

「お待ち下さい、王!本気ですか?翠月殿達が傍にいるからと、それでもなつなを1人でなどと…!」

「ライナス、なつなの意志は固いよ。それは、この場にいる全員が分かっているはずだ。」

「しかし…!」

「くどいよ、ライナス。…これ以上、僕の決意を揺るがせないで。」

「王…」


瞼を伏せたレイの感情を抑え込むような表情に、その苦渋の決断に気づき、ライナスは口唇を噛み締めながら、それでも納得出来ずにまたなつなを抱き寄せる。

そんなライナスに大人しく抱き締められながら、なつながアルウィン達に視線を向ければ、彼らはそれぞれに複雑な表情をしながらも、レイの決定に異論を口にする様子はない。

そのことにほっとしたように息を吐いて、なつなは自分を離さないライナスを何とか促すと、椅子へと腰掛けた。






「――僕から1つだけ、提案があります。」


なつなとライナスが椅子へと腰掛けるのを見届けた後、不意にレックスが口を開き、全員の視線がレックスに集まる。

その視線を受け止め、レックスはある提案を口にした。





「なつなとルエナ・モルフィードの会話を、当日僕達全員が聞けるようにしてはどうでしょうか?」

「会話を?」

「そう。何かあった時の保険にもなるし、確固たる証拠にもなるからね。王を始め、僕達が安心したいのもあるけれど。」

「でも、どうやって?」

「なつなのピアスを使えばいいんだよ。あらかじめ、なつなのピアスを僕達の誰かと繋ぎ、その会話を全員が聞けばいい。翠月殿がいれば、会話を拾うことなど容易いだろうからね。」

「なるほど…いい案ではあるな。」

「ならば当日は、なつなの執務室の隣室に我らが集まるのは如何か。もしなつなに何かあれば、すぐに駆けつけることも出来ましょう。」

「ならば、なつなの執務室全体に可視化の魔術をかけてはどうかな?そうすれば、私達が直接ルエナ・モルフィードの行動も確認出来る。」


レックスの提案を皮きりに、次々と具体的な案が集まっていき、それはあっという間に煮詰まっていく。

そしてあらかた当日の行動が決まると、レイは会議を締めくくり、ゆっくりと立ち上がった。





「――ひとまず、明日の流れはそうしよう。僕はこれから、なつなの記憶を元に、今回の件を伝えに国王と宰相に会ってくる。ライナス、エドガー、供を頼むよ。」

『御意。』

「なら、私も一緒に…」

「いや、なつなには一番にやらないといけないことがあるはずだよ。香龍達を説得しないとね。」

「あ…」

「きっと、容易ではないだろうからね…」


レイの苦笑い混じりの言葉に、なつなは頷きながら、もう1つ乗り越えねばならない問題に深い息を漏らした。





     ◇◇◇◇◇





「――たとえなつな様の願いでも、承諾致しかねます!」


その肩は怒りに震えながらも、きっぱりとした口調で不服さを露わにしたライラに、なつなは驚きもせずにそれを受け止め、そしてセラフィナはライラの態度に眉を(ひそ)め、厳しい口調で窘めた。





「…ライラ、なつな様へそのような態度を向け、言葉を口にするとは何事ですか。」

「いいんです、セラフィナさん。ライラさんの態度も言葉も最もですから。」

「しかし…」

「セラフィナさんだって、納得してないでしょう?ライラさんと同じように。」

「……はい。」

「私の願いが、ライラさん達香龍にとって、受け入れられないことだって…分かってるんです。なのに私は、それを受け入れさせようとしてる。ライラさんの不満は、当たり前です。」


そう言って瞼を伏せたなつなを見つめ、ライラと同じく不服さを露わにしながらも、至って冷静な声色でシェリーンは言葉を紡ぐ。





「なつな様。わたくし達香龍は、いつ如何なる時も半身様の御傍近くに在り、剣や盾となって御身を御護りするのが務めであり、わたくし達の存在理由です。…失礼ながらなつな様の願いは、わたくし達の存在自体を否定することですわ。」

「シェリーン…!」

「セラフィナさん、いいんです。私、分かってますから。」

「なつな様…」

「シェリーンさんの言う通りです。私は私の願いのために、シェリーンさん達の想いを蔑ろにしようとしてます。酷い主ですよね…」

「…全てお分かりになりながら、それでもわたくし達になつな様はそれを願うのですか?」

「願います。自分の『責任』と向き合うために。安全な檻にいるだけの籠の鳥に、ならないために。」


シェリーンの問いかけに真っ直ぐな瞳でそう言ったなつなに、シェリーンはその場に跪き、深く頭を垂れた。





「…ご無礼を致しました、なつな様。」

「ううん、いいんです。どうか頭を上げてください、シェリーンさん。」

「寛大な御心に感謝致します。…しかし、やはりわたくしもライラと同じく承諾は出来ませんわ。たとえ翠月殿達が控えていても、その姿が見えなければ抑止力にはならないでしょうから。」

「シェリーンさん…」

「どうか、わたくし達の想いをご考慮下さいますように…」


そう言ってまた頭を垂れたシェリーンの、常にはない頑なさに、なつなが口を開けずにいれば、そんな平行線の会話に助け船を出したのは、意外なことにシェリアだった。






「――では、わたくしとセラフィナ殿がその場に立ち会うというのは如何でしょうか?」


予期せぬシェリアの提案に、誰もが首を傾げれば、シェリアは柔らかく微笑みながら言葉を続けた。





「わたくしとセラフィナ殿は、城下でも存在が知れ渡っています。シェリーン殿が望む、明確な抑止力になれるでしょう。」

「確かに一理ありますが…」

「わたくしとセラフィナ殿は、この中でも年長者。感情を悟らせない術は心得ていますもの。なつな様を御護りし、不届き者の目的を明らかにするのに、適任ではないかしら?」

「シェ、シェリアさん…もしかして、お、怒ってます?」

「当然ですわ。己の分も弁えず、あろうことかなつな様の正体を疑い、問い質そうなどと…到底許せることではありません。」


柔らかな微笑みの中に見え隠れする唯ならぬ怒りに、なつなは顔をひきつらせ、シェリーンを始め香龍達も、気圧されたように言葉を紡げないでいる。

そしてシェリアは亡き父譲りの濃密な魔力の気配を漂わせながら、いつもの慈愛に満ちたものとは違う微笑みを浮かべた。






「では、なつな様?よろしいですね?明日は、わたくしとセラフィナ殿が御傍に控えます。皆さんも、よろしいですわね?」


シェリアの問いかけに、その場にいた全員が頷いたのは言うまでもないことだった。







なつなちゃん、レイさん達の説得に成功しても、実は、誰よりも最強なのはシェリアでは…?のお話でした。

…うん、あの人は怒らせちゃならんと、私もなつなちゃん達も思ったことでしょう。

なつなちゃんが関わると、姉であり母でもあるシェリアは怖いっすね…!ぶるぶる…!

次回は、当日の謁見後に戻ります。

クロードもウェザーも、問題が起こり過ぎて禿げないといいけど…(苦笑)





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