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龍王様の半身  作者: 紫月 咲
3章 ただす者
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謁見前日《1》有り得ない提案

大変お待たせしました…!




時は、なつなとルエナが相対する前日まで遡る。


白王宮内――『白議(はくぎ)』。

龍王と半身、六属龍のみが集うことを許されたその部屋の中には、激しいほどの怒りを(はら)みながらも、冷えきった空気が流れ、誰かが口を開けば、たちまち破裂せんばかりの緊張感が張り詰めていた。


その空気を作り出すことになった中心人物であり、紅一点でもあるなつなは、その雰囲気の中で居心地が悪そうにしながらも、それが全て自分が伝えた話のせいで、そしてそれが自分を思いやってくれているためだと理解し、何も言わずにいた。


そして暫くののち、その空気を破るように口を開いたのは、予想外にアルウィンだった。






「――サフィール・モルフィード侯は、どうやら娘の教育を誤ったようだな。」


苦々しい表情と声色で口にされた言葉が、それだけでアルウィンの心情を物語っていた。

そしてその発言に、誰もが異議を唱えない時点で、その場にいる全員がそう感じていることは明らかで。

アルウィンはまた、自分の目の前にある、なつなとの謁見希望者リストに視線を向けた。





「…なつなへの謁見なんて、認めるわけがないだろう。大切な義妹(いもうと)が害されると分かっていながら、会わせる莫迦はいない。」

「兄さん…」

「それに、ルエナ・モルフィードがどんな企みを企てたところで、会わせなければ意味はない。…でも、その罪は問う。俺の愛する義妹を狙った罪は重いからな。」


忌々しげに紡がれるアルウィンの言葉は、彼の常にはない苛烈なほどの怒りを露わにしていた。

そして、いつもならアルウィンの軽口を窘めるエドガーですら、その眉間に深い皺を刻みながら黙り込んでいる。

そんな中、アルウィンの発言に同意したのは、属龍の中で常に冷静であったオルガだった。





「…(まこと)を見通す見えざる者の言葉を、疑う余地などないでしょう。それも、四代(しだい)の言葉ならより疑う余地などない。モルフィード候の娘の企みは既に明らか。なつなを傷つけようなど…到底許せることではありますまい。」

「オルガさん…」

「我には、アルウィンの意見に反対する意志はありません。その娘は断罪に処されるべきでしょう。」


静かな口調で淡々と意見を述べながらも、オルガの瞳には隠すことのない怒りが宿っていた。

そんなオルガの発言の後、白議の中は静まり返り、2人以外の誰もが口を開かない中、突然ゆらりと立ち上がったライナスに、なつなは瞳を瞬かせながら声をかけた。





「ライナスさん…?」

「――城下に出かけてきます。大丈夫ですよ、なつな。誰にも、愛しいあなたを傷つけさせたりしませんから。」

「え…」

「…その娘、僕の手で始末してきます。」


無感情な声でそう言って、ゆったりとした足取りで白議を出ようとするライナスの、予想だにしない発言に、なつなは驚きに目を瞬き、慌てて立ち上がるとその腕に縋りついた。





「待って…!待ってください、ライナスさん!どうしてそんな結論になるんですか!」

「…どうして?おかしなことを聞きますね、なつな。その娘は、あなたを害そうとしている。僕はあなたの(つがい)として、愛するあなたを護る必要があります。」

「だからって、それがどうしてその結論に結びつくんですか!」

「その娘を始末すれば、もう二度とあなたを害そうなどと、そんな考えも持てないでしょう?大丈夫、心配しないで…なつな。あなたは僕が護ります。」


自分の腕に縋りつき、必死な表情で見上げてくるなつなの頬を優しく撫でるライナスの、いつも自分を見つめる柔らかな表情と、口にされた非情な言葉、その相反するものに、なつなは茫然とする。

そしてそのまま振り返れば、自分以外の誰もライナスを止めようとしないことに、なつなは瞳を見開かせた。





「どうして…みんな、ライナスさんを止めないの?」

「――止めてもムダだからだよ、なつな。」

「レックスさん…?」

「龍は、己の番を護るためなら、どんなことも厭わない。…たとえそれが誰かの命を奪うことでも、番のためなら龍は躊躇うことはないよ。そして、そうなった龍を…他の龍には止められない。」

「そんな…」


レックスの発言になつなは言葉を失い、呆然とした様子でライナスやレイ達を見返していたが、やがてその肩を震わせながら声を漏らした。






「…そんなの、そんなのおかしい。私のために、他の誰かが死ななきゃいけないの?話し合いもせずに、一方的に切り捨てるの?そんなことが…そんなことがライナスさん達には、簡単に出来るの?」

「なつな…?」

「私、私…そんなことがしたくてみんなに話したわけじゃないわ!悪意を持っただけで、死ななきゃいけないの?その人を殺さなきゃいけないの?ならどうして私達は、言葉を話せるの?分かり合うためじゃないの!?」

「なつな…」

「そんなことをされても…私は嬉しくない!たとえ悪意を向けられて、分かり合えなくても…私は知ることを諦めたくない!何も知らずに護られるだけなんてイヤよ!私からその責任を奪わないで…!」


真っ直ぐな瞳で手のひらを握り締めながらそう訴えるなつなの姿に、ライナスもそしてレイ達も圧倒されたように、言葉を失った。

そしてなつなはライナスをキッと睨み付けると、子供を叱るような口調で言葉を紡いだ。





「ライナスさん、もしホントにルエナ嬢を殺そうとするなら…私はライナスさんとの婚約を解消します。」

「!なつな…!?」

「私のために、誰かを傷つけようとするライナスさんなんて、私は見たくありません。…お願いです。私を大切だと思ってくれるように、この国に生きる人も大切にしてください。たとえそれで、分かり合えなかったとしても…」


真っ直ぐに交わる瞳と言葉に、ライナスは縋るような眼差しで頷くと、繋ぎ留めるようになつなを強く抱き締めた。





「すみませんでした、なつな。もう二度としませんから…だから僕を拒まないで下さい。」

「分かってくれましたか?」

「はい…僕の結論は極論だったようです。それが正しいと疑いもせずに…あなたも、そう望んでいるだろうと。」

「私は、今もそしてこれからも、そんなことを望んだりしません。だからライナスさんがまたこんなことをしようとしたら、もうラーヴィナスって呼びませんからね?」

「ああ、なつな…!」


なつなの言葉に悲痛な表情で首を振り、また強く抱き締めるライナスに、なつなはクスクスと笑みを漏らしてから、今度はレイ達に視線を向けた。






「アルウィン兄さんもオルガさんも、私のために怒ってくれてありがとう。でも、私は重い罪に問いたいわけじゃないの。ルエナ嬢に向き合いたい、ただそれだけだから。」

「傷つけられると、分かっていてもか?」

「うん。それが、私が請け負う『立場』に紐付く『責任』だと思うから。レイや兄さん達に護られて、甘えてばかりじゃダメだと思うから。」

「……」

「私は、自分自身で向き合って、戦って、それで結論を出したい。そして、その結論に責任を持ちたいの。それが、辛い結論になったとしても。」

「なつな…」

「誰かの命は奪いたくない。私には奪えないから…それが当たり前だと思えないから。」


瞳を伏せてそう呟いたなつなは、深く息を吐くと瞼を開き、その決意を口にする。







「――だから、明日。私だけでルエナ嬢に会いたいの。」







なつなちゃん、龍達の説得を開始するお話でした。

しかしライナス、極論過ぎるだろう…龍は番が絡むとああなります。

レイさんが暫し無言なのは、あまりの怒りに自分自身を抑えることに精一杯だったからです。

なつなちゃんの想いは、きっと甘いのでしょう。人によっては理想論とも、偽善とも言えるかもしれません。

でも、それを口に出来るなつなちゃんを、私は愛しく思います。


さあ、なつなちゃんの説得はまだまだ続きますが、なんとかすぐ更新出来るようにがんばります_|\○_

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