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龍王様の半身  作者: 紫月 咲
3章 ただす者
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相反した対面

大変お待たせしましたー!

今回は、視点が入れ替わります。

ご注意くださいませ。



美しく完璧な、計算された微笑み。

けれどこちらを値踏みする侮蔑と嫉妬、相反する感情が爛々と輝くその瞳を、彼女は隠せていると思っているのだろうか。




「お初にお目にかかります、殿下。わたくしはサフィール・モルフィードが娘、ルエナ・ロジェル・ネマ・モルフィードと申します。以後、お見知りおき戴ければ、光栄に存じます。」


目の前で形式に乗っ取った挨拶と淑女の礼を取り、こちらを見つめるルエナ嬢の、その微笑みの裏に隠された悪意に、私は内心深い深いため息を漏らしながらも、営業で培った笑顔を、幾重にも貼り付けたのだった。





     ◇◇◇◇◇





ルエナ嬢が私との謁見を求めた理由は、『王太子妃候補となったことへの挨拶をするため』という、ある種正当なものだった。

けれど、それが本来の目的ではないことは、フィオ達の報告を聞く限り、明らかで。

しかしそれを周りに悟らせず、更には私が断らない理由を選んでいる辺りに、頭の良さを感じる。


何故なら、この挨拶は私には避けては通れないことだから。



龍王の半身()にしか出来ない役割の1つに、王家と七公家(しちこうけ)を継ぐ者を指名するというものがある。

何故それが半身()に出来て、龍王(レイ)に出来ないのか――それは、見えざる者が関わっていて。


人が人を判断する時、その見た目や言葉からは、完全に善悪を見極めることは出来ない。

何故なら、人は本心を隠しながら嘘がつけるから。


でも見えざる者達は、力の強さに関わらず、人の本質を見抜く眼を持っている。

嘘を見抜き、本心を見透かす――曇りないその眼を、誰も誤魔化すことは出来ない。

龍王(レイ)も、半身()ですらも。


その見えざる者の声を聞き、意志疎通を図れるのは、半身()だけ。

だからこそ、私が見極めなくてはいけない。


そしてそれは王太子を支える、将来の王太子妃となる女性を選ぶことでも、必要なことだった。







「ようこそ、ルエナ嬢。今日の用件は、王太子妃候補となったことへの挨拶でしたね?」

「…はい、仰る通りにございます。本日は、貴重なお時間をお取り戴きまして、心より感謝申し上げます。」

「いいえ、構いません。執務がありますので、15レイルほどしか時間が取れないので…早速いくつか質問しても?」


私のある種一方的な言葉にも、ルエナ嬢の微笑みは崩れない。

これは長い戦いになるかな、と心の中で呟いた時、ルエナ嬢がおもむろに私の背後へと視線を向ける。

その視線に私は気づくと、自分の背後を軽く振り返り、その動作にルエナ嬢はまた淑女の礼を取った。





「お初にお目にかかります。サフィール・モルフィードが娘、ルエナ・ロジェル・ネマ・モルフィードと申します。ご挨拶もせず、申し訳ございません。御名をお伺い出来ますでしょうか?」

「わらわ達に構うことはありません。本来であれば名を教えることはありませんがしかしサーナ様の御前です、名乗りましょう。わらわは雷香龍セラフィナ、サーナ様の守護と補佐を務めさせて戴いている者です。」

「では、わたくしも。わたくしはシェリア・クエイクと申します。サーナ様の専属侍女を務めさせて戴いております。」


すると2人が名乗った瞬間に、ルエナ嬢の瞳に何か感情が映った。

その一瞬の出来事にルエナ嬢を見つめれば、彼女は既に私を見ておらず、その瞳はセラフィナさん達に釘づけだった。





「まあ…では、御二方があの有名な?前水龍クエイク様の御息女で在らせられる、『藍紅の君(モルガフィア)』シェリア様と、誇り高き雷香龍、『紫牙の君(エグゼフィア)』セラフィナ様。そんな方々が、殿下の御傍にいらっしゃるなんて…」

「……わらわ達の話はよいでしょう。あなたに用件があるのはサーナ様です。そして、わらわもシェリア殿も、あなたに名を許したわけではありません。お控え下さいますように。」

「…っ、申し訳ございません…」


セラフィナさんの突き放すような言葉に、一瞬表情を歪ませながらも謝罪を口にしたルエナ嬢に、私は薄く微笑んだまま、シェリアさんに紅茶の準備をお願いしたのだった。

――そう、今日の目的はまだ果たされていないのだから。





     ◇◇◇◇◇





漸くこの日がきた。

待ち望んだ日、あの女に身の程を(わきま)えさせるため、わたくし自らが出向いて差し上げたの。

全ては、尊き龍王様のため…ああ、一目でもお会い出来るかしら。


そんな期待を胸に、初めて入ることが出来た白王宮は美しく、まさに龍王様と属龍様が暮らす宮に相応しく、近い内にこの場所で暮らせるのだと思えば、その喜びは、言葉に表せないほど。

そのためにはなんとしても、あの女を排除して差し上げなくては。



そして、案内された居室には、あの女と2人の女性が待っていた。

傍に控える見目麗しく、この世のものとは思えない美しさは、美しさを自負するわたくしを前にしても、わたくしが霞んでしまうほど。

思わずため息を漏らしそうになりながら、それでもわたくしは本心を完璧な微笑みと淑女の振る舞いで覆い隠した。


互いに挨拶を交わしながらも、内心の憎々しい想いはなくならず、わたくしは歯噛みする想いだった。





(どうしてこの女に礼を尽くさなくてはならないの…憎らしい!でも、いいわ…この女が偉ぶれるのも、時間の問題だもの)


そんな気持ちで言葉を交わしながら、あの女の傍に控える女性の名を聞いた時、心が震えた。





(『藍紅の君(モルガフィア)』シェリア様と、誇り高き雷香龍、『紫牙の君(エグゼフィア)』セラフィナ様といえば、まさに至極の花ではないの!)


シェリア様は、その多大な魔力で操る魔剣の技術と、その美しさもさることながら、前水龍クエイク様の御息女として、『藍紅の君(モルガフィア)』の異名を持つ御方。

そしてセラフィナ様は、伝説の香龍として、様々な武勲を持ち、そのしなやかながら鋭い動作から、『紫牙の君(エグゼフィア)』の異名を持つ御方。





(そんな御方達が、半身に従うというの!なら…わたくしが龍王様の御傍に参れば、この御方達がわたくしに忠誠を…)


その甘美な状況に、わたくしはくらりとしながらも、しかし突き放すようなセラフィナ様の言葉に、またあの女への憎しみが増していく。





(セラフィナ様方も、騙されているのね…ああ、なんということなの!早く解き放って差し上げなくては…!)


あの女から問われる、王太子妃となることへの考えに、当たり障りないことを答えながら、わたくしはその隙を待つ。

そして、その質疑が終わりを迎える気配を感じた時、わたくしは切り出した。

美しく、気高い微笑みで。





     ◇◇◇◇◇





「では、王太子妃となった際には、どのようなことを心がけられますか?」

「第一に、王太子殿下のお心の安らぎを。良き妻であり、良き王妃となれるよう、心がけて参ります。」

「そうですか…」


先程から交わされる質疑に、そつなく答えていくルエナ嬢を微笑んで見つめたまま、私は内心ため息を漏らしていた。


なにせ、その答えにはどれも具体例がないのだ。

目標にたどり着くまでの、明確な道筋もプランも、何もない。

ただ、王太子殿下の心の安らぎ、傍で支えていく、その言葉を言い回しを変えながら繰り返すだけ。

故にルエナ嬢の本心が、私にですら透けて見えた。





(この人は、王太子妃になんてきっと興味がない。目的は、別のところにあるの…?)


そんなことを考えていた時、不意にルエナ嬢の纏う雰囲気が変わった。

浮かぶ微笑みの中に感じる強烈な悪意に、私はその時がきたのだと悟った。





「恐れながら、殿下。三冬月トリウィマの月に控えます、国王陛下御即位20年を記念した宴には御出席されるのですか?」

「ええ、そのつもりです。今まで参加出来ませんでしたから…」

「それは仕方ありません。殿下は23年の長きに渡り、行方知れずでしたもの…それが本当に(・・・)神の御業みわざなら、誰にも不平不満は言い出せません。」

「…どういう意味でしょう?」


頷きながらも、含まれる意味合いに問いかければ、ルエナ嬢ははっとした様子で瞳を伏せる。





「…申し訳ございません、他意はございませんの。ですが、殿下に関わる全てを神の行いで片づけるのは、いささか都合がよろし過ぎるのではないかと…」

「……」

「この国に暮らす者は、誰もが神様と会話が出来るわけではありません。それは、半身様のみに行えること。そしてそれは、半身様が語る言葉を疑う余地がない(・・・・・・・)ことと同義ですわ。」

「……」

「そして、わたくし達民も龍王様ですら、半身様のお姿も知らず…この23年の長きに渡り、お帰りをお待ちしていたのです。もし、悪しき考えと力を持った者がいたとしたら…成り変われると考える者も現れたかもしれません。」

「…ルエナ嬢。あなたは私が半身だと偽っていると、そう言いたいのですか?」


あえてそう問いかけてみれば、ルエナ嬢はとんでもないと言わんばかりに首を振った。





「あくまで、可能性に過ぎませんわ。そんな恐ろしいことを考えたとしても、ただの人間(・・・・・)が、ずっと半身様に成り変われるはずもありません。生きる時間が違いますもの。」

「…そうですね。」

「ご機嫌を損ねましたこと、誠に申し訳ございません。ですが、そんなわたくしの杞憂も晴れるでしょう。然るべき時がくれば(・・・・・・・・・)、いずれは。玉座は、相応しい者にこそ与えられるべきですから。」

「……」

「…では、お時間となりましたし、もう質疑もございませんか?」

「…ええ、もうありませんね。」

「では、わたくしは本日はこれにて失礼させて戴きます。またお会い出来る日がくることを、祈っております。では、ご機嫌よう。」


完璧な微笑みを浮かべ、退室を告げたルエナ嬢は、颯爽と部屋を出て行く。

そしてその姿が完全に消え、気配も感じなくなった頃、私は背後から感じる寒気に気づきながら、深い深いため息を漸く漏らすことが出来た。







「典型的なお嬢様だわ…しかも自己愛論者ナルシスト。もう、爆弾を落とすだけ落とさないで欲しい…」



そんな、言葉と共に。





なつなちゃんとルエナ嬢の、相反する初対面でした。

ああもう、難産だったー!!!

最初、なつなちゃんだけの視点でいこうとしたんですが、どうやらそれが間違いだったらしく、進まない進まない…_|\○_

なので、えいやっ!…とルエナ嬢視点も混ぜ込んでみました。

そしたらあっさり進んだ…わたしの苦悩って!!


ええーそんなわけで、めっちゃくちゃオブラートに包みながらも、ルエナ嬢、なつなちゃんに宣戦布告です。

なんせ先手必勝です、時間が15分と限られてましたので。

まあ、ぶっちゃければ『あんたが偽者だなんてお見通しなのよ、さっさと消えて!その場所はわたくしにこそ相応しいのよ!』でしょうか。

そして敏い読者様なら、何故なつなちゃんの傍にいたのがセラフィナとシェリアだったのか、きっとお分かりになりますね。

次回、なつなちゃん無双、始まります(笑)


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