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龍王様の半身  作者: 紫月 咲
3章 ただす者
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知らせ

大変お待たせしました。

そして、どうやらなつなちゃんに隠し事をするのは、難しいようです…




空と大地を、緩やかな風が巡っていく。

真っ青な空も、草花揺れる穏やかな大地も、静かな風も、木漏れ日が差す木々も、何も変わらない。


しかし、そこに感じるふとした違和感。


空を見つめ、風に頬を撫でられながら、彼女は静かにその場に佇んでいた。





     ◇◇◇◇◇





「――ねえ、みんな。私に何か隠してること、あったりしない?」


その日、なつなはまた供をつけず、メルフィオーサ達護人(まもりびと)だけを連れて、白王宮(はくおうきゅう)からほど近い、泉にいた。

その泉は自然にありながら水温が湯のように高く、まるで硫黄の含まれない温泉のようで、なつなのお気に入りの場所の1つだった。


その泉を囲う、大小様々な岩の中でも程よい大きさの岩に腰掛け、素足を泉の水に浸し、景色を眺めていたなつなが、不意に口にした問いは、問の体を取りながらも確信を持って告げられていた。

そして、その問いを向けられたなつなの護人達は、それぞれが異なった表情で互いの視線を交わし合った後、代表するようにメルフィオーサが口を開いた。





『…何故、そう思うのかの?』

「だってみんなの雰囲気が、少し前から変わったもの。それに、全員がずっと私の傍から離れようとしないし、他の子達も…心配そうに私を見てる。」

『……』

「…その隠し事は、私に関係があるのよね?私のために、私に何も言わずに…何をしようとしてるの?」


向けられる瞳は、一点の曇りもなく真っ直ぐに、メルフィオーサ達を射抜く。

そしてなつなの言葉を裏付けるように、今も木々の間から動物の姿を取った『見えざる者』達が心配そうな眼差しで彼女を見守っている。


責めるわけでもなく、問い詰めるでもなく、ただただ真っ直ぐに自分達を見つめる主と、暫くの間視線を交わしていたメルフィオーサは、ふっとため息を漏らすとその瞳を伏せた。






『…全く、主には適わぬの。その思慮深さにものう』

『申し訳ありません、我が君…』


諦めるように息を漏らすメルフィオーサと、心底申し訳なさそうな翠月を見つめてから、なつなはしゅんとした様子のノーフォルクの頭を撫でて、傍に黙って佇むシュアルクスとランディアナに視線を向ける。

その視線に、2人は漸く主に隠していた秘密を打ち明けた。





《――数日前に、我らは姫に向けられる悪意を感じ取りました。その闇は、我らが見つけた時には既に大きく、そして今も拡大を続けながら…いつ姫に向けて牙を剥くか分かりません》

【故にわらわ達は、姫様に牙を剥かんとしている者の調査を行いましたの】

「私に、悪意を持った人…。私が会ったことのある人?」

《いいえ。その者は、姫の人となりも知らず、自身の認識だけで一方的に(さげす)み、妬み、その悪意を向けています》

【今はその者の傍に在る見えざる者達が、監視を続けておりますわ。…もし姫様に牙を向けし時は、わらわ達の手で…】

「――ううん、何もしないで。」


ランディアナの説明を遮ったなつなの拒否の言葉に、護人の誰しもが驚きに目を見開きながら、主を見やった。

その十の瞳を正面から受け止め、なつなは何でもないことのように言葉を紡いだ。





「相手は人でしょう?なら、私自身が話をした方がいいと思うの。」

《姫…!それはなりません!悪意ある者の前に、御身自らが立とうなどと…!》

【そうですわ!護人としても、四代(しだい)としても、到底受け入れられることではありません。姫様…】

『――何か、考えがあるのかの?主よ』


必死な様子で言い募るシュアルクスとランディアナの言葉を遮った、メルフィオーサの問いかけに、なつなは表情を変えずに頷く。





「どうして、私にそんな悪意を持ったのか、何が目的なのか…私は自分で知りたいの。」

『知る必要があるのかの?この世界の導き手たる主に、悪意を持つなどと…それこそが間違いなのじゃ。そのような罪深き者の行いに、主が手を煩わせることはあるまいに』

「それこそ、傲慢な考え方なのよ…フィオ。私は、支配者ではないし、そうなりたくもないの。」

『……』

「確かに、私は導き手――レイと同じ『王』の立場よ。だからって、私は理由も知らずに誰かの人生を狂わせたくないの。悪意でも善意でも、私は自分の目で確かめたい。…それが、私の『責任』だと思うの。」

『ふむ…』

《姫…》

「…ごめんね、我が儘だと思う。私を護ろうとしてるみんなには、余計な心配をかけると思うし…大変だと思う。でも、お願い…私に力を貸して。そして私のために、不用意に人を傷つけようとしないで。」


なつなの瞳と言葉に纏う、覚悟と決意に、翠月はその傍へと寄り添い、四代はその前へと跪いた。






『――主の意志を、我が儘などと思う筈がなかろうて。主の意志は、我らにとって何よりも優先すべきものじゃ』

「フィオ…」

『我らの主は、心根の優しい娘じゃからのう…。憎しみに囚われず、恨み辛みに縛られぬ。…我らは、少し盲目であったようじゃの』

《はい…反省せねばなりませんね》


メルフィオーサの言葉に頷くシュアルクスの傍を離れ、ランディアナは心配な表情を隠さずになつなを抱き締める。





【でも、わらわは心配でなりません…姫様に、もし何かあったら…】

「大丈夫よ、ディア。私だって、日本で一人前に働いていたんだもの。悪意の言葉だって、何度も聞いてきたんだから。」

〈姫様の境遇を理解していても…それでも、それでも僕達は心配なんです…姫様〉

「もう、そんな泣きそうな顔をしないで、フォル?あなた達も傍にいてくれるんだから大丈夫。私のことをちゃんと理解してくれる人がいること、分かってるから…私は大丈夫なのよ。」

『姫様…』

「ね?」


ランディアナとノーフォルクを交互に見つめて、諭すようにそう言ったなつなは、メルフィオーサに問いかける。





「それで、フィオ?その人の名前は分かってるのよね?」

『無論じゃ。その者の名はの――』


メルフィオーサが口にした名を聞いたなつなは、何かを思い出すように首を傾げた後、はっとした表情で、自分の背後に寄り添うように立つ翠月を振り返る。





「翠月、明日の分の私用の謁見希望者リストを出して!」


なつなの言葉に頷き、すぐに空中に現れた巻かれた状態のリストを差し出す翠月に、なつなはそれを受け取り、開いていく。

そしてリストを目で追っていたなつなは、目的の名を見つけ、そこに書かれた名を呟いた。






「やっぱりあった――モルフィード侯爵令嬢、ルエナ・ロジェル・ネマ・モルフィード嬢…」


そしてそれは、自分自身に向けられた悪意が、すぐ傍まで迫っていることを意味していた。




なつなちゃん、自分に向けられた悪意を知るの巻でした。

…うん、結局隠し切れませんでした(苦笑)

悪意を向ける者を知ったなつなちゃん、さてどう動くのやら。


補足します。

時間軸が分かりにくい気がするので、念のため書いておきます。

ルエナ嬢がなつなちゃんに悪意を持ったのは、生誕祭の時になります。

そこから漸くメルフィオーサ達がルエナ嬢の悪意を感じ取ったのが、あの夜となります。



またお時間いただきますが、お待ちいただければ幸いです。


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