まさかの私の半身は、龍の王様でした
目が覚めて。
目の前にいた、私の半身は。
トカゲでした。
「んなバカな!!」
心からの声を叫ぶ。
トカゲなんて…トカゲなんて!
“キミの半身は、人ならざる者だからね。だから驚いたらいけないよ?”
そう言っていた彼を思い出す。
くそう、あの猫め…!
確かに人じゃないけど!でもトカゲって、トカゲって…!
混乱した頭で目の前の姿を見つめていた時、ふと感じる視線と、もふっとしたやわらかな感触。
それに引かれるように視線を向ければ――
「なんでここにいるの?!」
私の声に、目の前にいる自分の半身が震える。
けれど私の視線を一身に受ける彼は、動揺もなくしっぽを揺らした。
“言ったでしょう?どちらを選んでも、キミには僕から加護を授けようって”
「それは聞いたけど…」
“キミは初めてあるべき場所に還ってきた。でもキミには知らないことばかりの世界だ。だから僕がキミの守護を果たすために、共にきたんだよ”
そう言って、どこか楽しげにしっぽを揺らす姿に、私は彼の脇に手を差し込み、抱き上げた。
「私の守護って、じゃあ神社はどうするの!神なし神社になっちゃうじゃない!」
“それは心配いらないよ。僕は担当を外れたから。今頃新しい担当の神がいる筈だよ”
「……。神様が担当とか、なんて現実的な…」
どこか打ちひしがれた気持ちになっていると、そんな私の意識を呼び戻すように、彼のしっぽが私の手の甲を撫でた。
“さて、そろそろ本題に移ろうか。『彼』が可哀想だ”
その言葉にはっとして視線を向ければ、私と彼に強い視線を向けたまま、どこか居心地悪そうにする姿。
「お、怒ってる…の?」
恐る恐るそう尋ねれば、私に向ける視線はどこか柔らかく、優しい。
交わる瞳は、夢の中と同じエメラルドを思わせる緑色の瞳。
けれど、私が彼をその場に下ろし、その彼が私の太股に乗ってきた瞬間。
その瞳に、殺意のような敵意が混じる。
“なつな、安心するといい。彼はキミに怒ってなどいないよ。僕に怒っているのさ。キミと親しげだからね”
「え…」
“それから、彼はトカゲなどという知能の低い者ではないよ”
「そうなの?」
“うん、よく見てごらん。キミは彼と似たような姿をあの世界で見たことがあるはず。彼は、ドラゴン――龍さ。そしてその力も知能も最上位の……『龍王』だ”
「!!」
“キミはその彼の半身。つまり先程も話したけど…”
「『なつな』…」
彼の言葉に衝撃を受けていた私は、その小さな声を聞き逃しそうになった。
その声にハッとして瞳を向ければ、なつな、と何度も何度も呟いて。
その緑色の瞳が、私を射抜いた。
「君の名前は、なつな…?」
その声が紡ぐ、私の名前。
あの世界では聞き慣れた、名前。
でも、こんなにもこんなにも…嬉しかったことがあったかな。
名前を呼ばれただけで泣きそうになるなんてこと、今まであったかな。
そして私は、手を伸ばす。
意識をしたわけじゃない。
なのに触れたくてたまらなかった。
こんな風に、抱きしめたくてたまらなかった。
夢では、いつも叶わなかったから。
「そう、そうだよ…私はなつな。澤木なつなっていうの。」
「サワ…?それは真名?」
「マナ?」
“真の名という意味だよ。この世界で真名は、誰にでも名乗ってはいけないものなんだ。名を縛れば、その者を意のままに操れてしまう”
「真の、名…」
“真名を明かすは、真の忠誠を誓う者、永久の愛を誓う者。そしてキミ達のように――魂を分かち合う者”
神様のその囁くような言の葉に、私は耳を傾ける。
こんな小さな体で、彼は私をずっと待っててくれた。
寂しかっただろうに、辛かっただろうに。
決して短くはない23年間、現れるかも分からない、私を。
そして、こんなにもこの出逢いを喜んでくれている。
私達は、『魂を分かち合う者』。
彼は私、私は彼。
2人で1つ――だから。
「私の名――真名をあなたに捧げます。」
「!」
自然と、そう口にしていた。
この世界に来て、初めて自分の名前を告げるのは、彼が良かったから。
その言葉に、彼は目を見開いて。
抱きしめていた腕から離れると、少しの距離を取ってから、翼を大きく広げ、高らかに宣言した。
「僕の名を――真名を君だけに捧げよう。僕の名は『レーンルイハルベルト』。愛すべき僕の半身、これからはずっと一緒だ。」
死が、2人を別つ時まで――
やっと名を明かせたー!!
1番気合の入ったシーンです。
ヒロインの名は、『澤木なつな』。
さわき、と読みます。
そして龍王は、レーンルイハルベルト。
噛め!と言わんばかりの名前ですね(笑)
さ、次はいよいよライナスの登場!…かなあ?