嬉し涙(龍王視点)
漆黒の闇が、ただただ広がる。
その闇の中、僕は一人きりで。
23年間、いつも変わらぬ夢を見ている。
いつも変わらぬ夢を見ていることを夢の中では自覚しているのに、起きたら忘れてしまう。
胸に残る、苦しさだけを残して。
そして不意に、意識が戻る。
吐き出したいような苦しみと、もやが掛かったようなはっきりしない意識に、頭を振る。
「また僕は…叫び疲れて眠ったのか。」
かすれた声でそう呟いて、ぼんやりと部屋の中を見渡す。
月明かりだけが差し込む、真っ暗ないつもの自分の部屋。
1人きりの、部屋。
「…っ…」
また漏れそうになる嗚咽に、僕は歯を食いしばる。
そして翼を広げると、ふらりと飛び上がる。
そのまま寝室を出て居間に向かうと、案の定、水の入った器が置いてあった。
「……」
テーブルの上にふらりと着地して、それを黙って舐めるように口に運ぶ。
23年間、変わらずに続く日常。
鳴き叫び疲れて眠った僕を、ライナスがここまで運び、僕は夜遅く起きた後、彼が用意した水を飲む。
そしてまた1人きりの部屋で、眠るのだ。
乞い願う、僕の半身を想いながら――。
「!」
その時、隣りの寝室に忽然と満ちる気配。
一瞬で広がり、更に密度の濃いそれは――魔力の気配。
しかも、その濃度は。
龍王である僕にも匹敵するもの――。
弾かれたように寝室へと、文字通り飛び込んだ。
そして瞳に映った先で…強い光が満ちて、はじけた。
「なん、だ…?」
あまりに密度の濃い魔力に、極度の緊張感を持って飛び込んだというのに。
部屋に色濃く残るその魔力の残滓からは…なんの敵意も感じず。
また訪れる静寂。
月明かりだけが照らす部屋の暗さに慣れた目が強い光を受け、視点が定まらず、目を凝らした先で。
寝室の奥で闇が、動いた。
「…っ!」
素早く距離を離す。
魔力を凝縮し、すぐに発動出来る状態で、相手の動きに注視する。
けれど、いつまで待てど相手に動きはなく。
そこで音を聞き取ることに集中すれば、耳に流れてくるのは規則的な呼吸の音。
まるで、少女の安らかな寝息のような――。
音を立てぬように飛び立ち、その影が横になる自分のベッドへとふわりと降り立つ。
そして近付けば、そこにいたのは。
「……!」
呼吸を、忘れた。
瞳はその姿を見つめたまま、逸らせない。
無意識に零れる嗚咽と涙を、止めようとも思えなかった。
闇に浮かぶ、安らかな寝顔。
初めて、会った。
なのに、どうしてだろう——すぐに分かる。
「ようやく、会えた……」
僕の半身。
23年間待ち望み、何度も絶望し、それでも乞い願った――愛すべき僕の。
「ん……」
不意に、その体が身じろいだ。
その動きに、今まで気づけなかったもう1つの影が動く。
その影は、彼女の体に包まれるようにその体を横たえていた。
そしてはっと目覚めると、一度僕の姿に驚いたように瞬いて、すぐに彼女を振り返り、その頬を舐める。
途端に、僕の中に渦巻く激情。
初めて感じたその激情に一瞬だけ戸惑うけど、視線だけは逸らさない。
けれどそれが功を奏したのか、彼女が目覚めた。
そしてその瞳に僕を映して――
「…え、トカゲ?」
予期せぬ一言を、発した。
ヒロイン、なんて爆弾を落とすんだ感動の初対面なのに…!
こんな感じで、コメディテイストあり、シリアスあり、基本溺愛甘甘になるかと…。