繰り返し見る夢
薄暗い部屋に、無機質な音が響き渡る。
規則的なその音は、鳴り響くにつれ大きくなり、早くなる。
その音がけたたましく鳴る前に、もぞりと動いた手が、それを止めた。
しかしその手はそれ以上動きを見せず、暫く微動だにしなかったが、ふと何かに気づいたように、その手が動く。
「………また、か。」
そう呟いた声は、若さを纏いながら、どこか大人の女性を感じさせた。
そして声を漏らしながら彼女は、自分の目許を指で撫でる。
そこには、冷たい水の感触。
「最近、見る頻度が増えてきたような…」
そう漏らして、彼女は疲れたように瞼を伏せる。
目許に溜まっていた涙の粒は、その動作に耐えきれず、流れていく。
それは、ある夢のせいだった。
響く叫び、何度も胸を突き刺す…切ない慟哭。
姿ははっきりと見えないのに、その瞳の色だけは鮮やかに思い出す。
まるで輝くエメラルドを思わせる、緑色の瞳。
その瞳から溢れる涙を見る度に、胸が詰まって。
届かない声を、それでも張り上げてしまいたくなる。
どうして泣いてるの?
泣かないで、泣かないで。
悲しまないで、苦しまないで。
あなたが悲しいと、私も悲しい。
あなたが苦しいと、私も苦しい。
泣き止んで、泣き止んで。
どうしたら泣き止んでくれるの?私はあなたのために、何が出来る?
届かない声がもどかしい。
抱きしめられないことが、こんなにも歯がゆくて。
そんな私に構わず、その瞳を持つあなたは、いつも最後に叫ぶ。
『会いたい』と。
それが誰に向けての言葉なのかは分からない。
なのに私はいつも、その叫びに。
嬉しくなって。
手を伸ばしかけて、目が覚める。
そして、そのあまりに鮮明な夢に、またいつものように涙を流すのだ。
「あなたは、いったい誰なの…?」
物心ついた頃から、繰り返し見る夢。
その度に浮かぶ問いと疑念は。
この日、思ってもみない状況に陥ることで解決する。
そして、それは。
私という存在と、彼と彼を取り巻く存在や、世界。
ずっと感じていた違和感がなんなのか、明らかになることでもあった。
ヒロイン、登場です。
次回、たぶんトリップ…出来るかな?