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龍王様の半身  作者: 紫月 咲
3章 なつなの初恋
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穏やかな日々…でも、

2章終了から、半年の時間が経っております。

心話しんわ…なつなとシオンとコハクの心中のみの会話。周りに聞かれたくない時に活用します。





「殿下、おはようございます。」

「おはよう。」


恭しく頭を下げながら、廊下ですれ違う度にかけられる声に、微笑みながら応じる。

その傍に付き従う二頭の獣は、そんな主を見上げて、心話(しんわ)で声をかけた。





“なつな、また頬が引きつりかけているよ。リラックスして”

《そうです、なつな様。自然体が一番ですよ》

(これでもリラックスしてるつもりなのよ!ああ、頬がつりそうだわ…)


二頭のアドバイスに、私は心の中で返答する。

そんな会話の最中でも、すれ違う眷族の挨拶に応じて、微笑むのを忘れない。



こんな毎朝、毎夜のやり取りが、もう既に半年間、続いている。








私がこの世界にきて、半年の時が経った。

季節は秋を過ぎ、冬を越え――春に差しかかる頃。


この世界には、夏がない。

春が過ぎ、秋が訪れ、冬がくる。

季節の巡りは、ひどく穏やかだ。

時間の流れは、元いた世界と変わらない。



この世界はどうやら、日本とそこまでの違いはないようだ。

電気とか家電とか機械とか、そういったものはないんだけど…食べ物や飲み物なんかは名前や見た目が違うだけであまり変わらないし、服や化粧品ももちろん同じものなんてないんだけど、物や形が違うだけでそこまでの大差はない。


服に関しては龍がシンプルな装いを好むからか、あまりごてごてひらひらはしてなくて、むしろ私好みだ。



そして、何よりもこの世界に還ってきて変わったのは――









「よう、サーナ。おはようさん。」

「わ…っ!――アルウィン兄さん!」


突然浮いた体とかけられた声に驚きながら、私はその犯人を不満を隠すことなく見下ろす。

交わるガーネットの瞳が、どこか楽しげに細められて、口角が上がっている。

まるで、悪戯が成功した子供のそれだ。






「3日ぶりか?サーナ。元気そうで何よりだ。」

「もう、まだ3日しか経ってないよ!それからいつも抱き上げないでって言ってるのに!」

「んー?王はよくて俺はダメなのか?サーナ、そういうのを差別って言うんだぞ?」

「そもそも差別なんて言わないし違うし、レイは突然抱き上げたりしないもの。背後からなんて特に!」

「よし、分かった。一言断ればいいんだな?返答の有無は関係なく。」

「もう、そうじゃなくて!」


片腕に座らされながらの会話は、既にいつもお決まりになりつつある。

私が反応すればするほど、言い返せば言い返すほど、その表情は楽しさを隠さずに笑うのだ。

まるでこのやり取りを、心から望んでいるかのように。

そのことに気づきながらも、反射的に言い返してしまう私の言動を、この人はそれすらも分かっていながら楽しんでいるのだ。


そんな私達のやり取りに、心話(しんわ)でシオンが呆れたように告げてくる。





“——水龍といい、この炎龍といい、なつなの可愛がり方が歪んでいるように感じるのは、僕の気のせいか?”


その言葉に、思わず内心で唸ってしまう。

思い当たることがありすぎるからだ。





彼――炎龍アークルウェザイン、渾名アルウィンは、思えば出会った時からこうだった。


深紅の長い髪を無造作に背に流し、艶やかな色気を纏う美丈夫。

獅子を思わせるつり目がちなガーネットのような瞳と、形のいい眉が、その感情を表すように動いて。

日本でいう、吉原とかにいそうな妖しさ漂うカッコ良さ。



私がこの世界に落ち着いて、ライナスさんの次に会った最上位の龍が彼だった。


出会った当初、真名を明かされアルウィンさんと呼んでいた私は、会う度に兄さんと呼べと訂正させられ。

お茶に誘われ、彼の元に行けば流れる動作で抵抗する間もなく膝に抱き上げられ、美味しそうなお菓子をしこたま勧められる。


廊下でばったり会えば、また抵抗する間もなく抱き上げられ、そのままレイの執務室に連れて行かれたことも数知れず。

その度に、私を抱き上げていたことや独り占めしていたことに不機嫌な様子で辛辣な言葉を発するレイと、そんな様子を一切気にかけるどころか、むしろそれを分かっていながらそれを楽しむように飄々と対応する兄さんに、何度小さくなったことか。



——でも、それも全てアルウィン兄さんなりに、レイの変化を喜んでいるからこそだっていうのも、私は知っている。

私が還ってきて、明るく穏やかになったレイ。

だからこそ私を通じて、レイと冗談を交わしたりからかったり、そんなことが出来ることを心から楽しんでいる。


…けど、それに面白がっている面が含まれていることも知ってる。

だからこそ、シオンが言いたいことも良く分かる。

可愛がってくれてるってことは、私だってよく分かってるんだけど――










「――またやっているのか、アルウィン。」

「エドガーさん!助けて!」

「あーあ、見つかっちまった…」


呆れたような響きを伴った、低いバリトン。

現れた救世主にいつものように手を伸ばせば、逞しい腕が私を抱き上げ、優しく床へと立たせてくれる。

私が腕から離れた途端に残念そうな声を漏らす兄さんを、呆れを多分に含みながらちょっとだけ睨む。

そんな私の髪を、宥めるように柔らかく撫でる手の感触に見上げれば、エドガーさんの穏やかな眼差しに見下ろされる。




彼――雷龍エールストルガ、渾名エドガーさんは、最上位の龍の中でも最年長だからか、とても穏やかな人。

濃い紫色の髪に、アメジストの瞳。

背中で緩く束ねられた髪は、彼の紳士な一面が感じられて。

アルウィン兄さんと最初に出会った時もその場にいて、いつも柔らかく穏やかな瞳で私を見守っていてくれる。

私が知らないことも、いつも嫌な顔1つせずに教えてくれる。

アルウィン兄さんのからかいから、いつも頃合いを見て助けてくれるのも、大体がエドガーさんで。



私の先生でもあり、そしてお父さんのような人だ。






「おはよう、サーナ。食事は済ませたのか?」

「ううん、まだなの。今日はレイが朝から執務室に直行だったから、ダイニングに行こうかなって。」

「そうか、それならちょうどいい。私もこれから食事なんだ。一緒に食べよう。」

「ホント?じゃあ、またご飯を食べながらお話を聞かせて!」

「いいとも。」

「ちょっ、おい!俺も行くって!俺もメシまだなんだ。」

「サーナは嫌そうだぞ?」

「おいおい…!サーナ、悪かったって。俺も一緒にメシ食わせてくれ!なっ?」


そう言って、私のご機嫌取りをする兄さんと、穏やかに笑みながら、私をエスコートするエドガーさん。

そんな私達の後ろを、静かについてくるコハクとシオン。




とてもあたたかで、穏やかな日々。



けれどそこに小さな波紋が広がっていることを、私は知っている。


彼を思い浮かべると、途端に広がる波紋。






自分が知らないその感情が怖くて、私は。

それを振り切るように、2人に微笑むのだった。







さて、物語が大きく動く第3章、スタートです。

章タイトルにもありますように、テーマはなつなちゃんの初恋です。

まあ、相手は言わずもがなでしょう。

彼らはそれは長い寿命なので、時間軸を時折進めていきます。

そして新たに登場しました、炎龍アルウィンと雷龍エドガー。

完全にシスコンと父性愛ですね(笑)

あー楽しかった!


さて、第3章の裏テーマは“すれ違い”となっております。

どうぞ、お付き合い下さいませ。

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