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龍王様の半身  作者: 紫月 咲
2章 半身と番【つがい】
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なつなの夢と孤独





「また、スケールの大きな話だなあ……そんな大きな愛情、受け取る身にもなって欲しいよ。」


どこか他人事のように呟く私に、レイはどこか戸惑うような瞳を向けてくる。

そんな彼の身体を抱き直して、私はため息をついた。





「万物全てって、考えても分からないなー。私はただの人間だから、受け取れる愛情だって多くないんだよ。多情じゃないつもりだし。」

「……なつなは、嬉しくないのかい?」

「嬉しい?どうして?」

「万物全てに愛されるということは、世界を思い通りに出来るということだよ。なつなが願えば、彼らはその全ての望みを叶えるだろう。君の敵になる者は全て排除するだろう。だから…」

「それが分からないって言ってるの。私の何を持って、愛される要素があるの?私は日本で普通に暮らしてた、23歳のただの人間です。何に惹かれるのかすら分からないのに…」


そう言ってまたため息を漏らした私に、それを漸く本心からの戸惑いだと受け取ってくれたのか、レイはまるで言い聞かせるように言葉を紡いだ。





「彼らにとっては、なつながなつなであればそれだけで理由になるんだよ。君が何の力も持たない人間だからこそ、彼らはより庇護欲にかられるんだろう。なつなの魂に、惹きつけられてもいるからね。」

「はあ…なんか理屈じゃないって、きっとこういうことを言うのね。今、唐突に理解したわ。」

「……」


その、諦めの感情が込められた言葉に、レイはどこか不思議そうな瞳で私を真っ直ぐに見た。





「……なつな、聞いてもいいかな?」

「なに?」

「君は、何故そうして全てを受け入れられるんだ?僕に初めて会った時もそうだ。あの神から、自分の半身が人ならざる者だと聞いていたとしても、君は僕を見ても…ある意味では戸惑わなかった。」

「それは…」

「君がいた世界では、龍は想像の産物だろう?初めて見た筈だ。」

「……」

「それに、君の力についてもそうだ。普通はそうして、すぐに受け入れられる筈はないんだ。なつなだって、今言っていただろう。万物全てに愛されるなんて、普通じゃないことだと。なのに、何故君は受け入れられる?」

「……」

「君は……なつなは、何を諦めているんだ?」


どこか確信めいたその問いかけに口をつぐんだ私から、レイは視線を逸らさない。

その瞳を見つめて、暫くののち。

私は細く息を漏らして、近くのソファーへとレイを抱えたまま座り込んだ。






「私ね、いつからだったか分からないけど…夢があったの。」

「…夢?」

「そう。絵本や物語に出てくる、ドラゴンとお姫様。大体どの話でもドラゴンがお姫様を守るんだけど、でも時々…お姫様がドラゴンを護るの。そんな2人の関係が羨ましかった。」

「ドラゴン…」

「ずっと、ドラゴンに何か親近感みたいなものを感じてて。ドラゴンや龍が出てくる絵本や物語を、両親に買ってってせがむくらい、夢中で。いつか、ドラゴンに会ってみたいって…叶う筈もない夢を持つくらいに。何でこんなに惹かれるんだろうって不思議だった。——でもその理由が、今日レイに会って分かったの。」

「……」

「レイが私の半身だったから。だから物語に出てくるドラゴンに…無意識にあなたの面影を見ていたのね。」


そう言ってその背中を撫でると、彼は何も言わずに身を任せてくる。

それに促されて、私は話し続ける。





「私…ずっと自分の環境に違和感を感じてた。」

「違和感…?」

「うん…違和感。優しい両親、口うるさいけど甘やかしてくれる兄さん。友達もいたし、仕事も大変だけど充実してたし…平和な国だった。でも…」

「……」

「心を開けなかった。ずっと、のけ者にされてるみたいで…怖くて、寂しくて、たまらなかった。」





世界に、たった1人きりな気がした。


抱き締めてくれる母の腕。

頬ずりしてくれる父。

どこに行くにも手を繋いでくれた兄。


温かいのに、優しいのに。

戸惑って、どこか緊張して。

愛想笑いしか浮かばない私。



手作りのおやつ。

温かい、いい匂いがするご飯。


美味しいって、感じなかったのはいつからだろう。

一時も休まない心、昼間は周囲の状況に過敏に反応しながら愛想よく過ごすからか、夜は疲れからぐっすり眠れる。


でも、夜中にふと飛び起きる。

それはいつも苦しさと、何かに差し迫られるような焦りと。

飛び起きる度に実感する1人きりの、部屋。

声を殺して泣いた夜は、数えきれないほど。






「いつからか、多くを望まなくなった。私にとっては家族は他人で、甘えようとも思えなかったから…。甘えたくないのに甘えて、関わって欲しくないけど関わらなくちゃいけなくて…。ずっとそんな日々だったから、だからいつからか諦めるようになったのかもしれない。自分の幸せも、我が儘も。叶えて欲しい願いは、絶対に叶わないって知ってたから。」

「なつな…」

「でもね?あの神様に出会って、私はこの世界に生まれる筈だったんだって聞いて…漸く、違和感の理由が分かった。私…きっと知ってたの。私には、レイがいるんだって。」

「…!」

「あなたが傍にいないことが不安で、怖くて…会いたくて会いたくて、きっと戦ってたんだ。レイに会えるように、会いに行けるように…」




私が甘えたい人は。

傍にいたい人は。


あの世界にはいなかったから。


だから、レイに会って。

抱き締めた瞬間、初めて安心出来て。

心から、安らげた。






「だから、レイ…。これからはいっぱい甘やかしてあげるからね。だから私も、甘えさせてね。」

「なつな…」

「こうやって、抱き締めさせてね…」


ぎゅっと抱き寄せてそう言った私に、レイは少しの間身を寄せてくれたけど。








「――僕も、なつなを抱き締めてあげたい。」

「え…」



不意に強く光が瞬く。

腕の中に抱き寄せていたレイの身体が熱を帯びて、反射的に腕を離す。


ふわりと離れていく重さ。

途端に切なくなって、手を伸ばそうとした、瞬間。

1人掛けのソファーごと、包まれる身体。






「レ、イ…?」


私の背を超えそうなほど、大きな身体。

白銀の鱗が、月明かりを受けて、艶やかに煌めく。

包み込まれる翼の感触は、さっきまでと変わらないのに。






「この日を、ずっと待ってた。君のために、大人になれる日を。」




少し、低くなった声。

でもその声は変わらず穏やかで、優しい。







「なつな――僕のお姫様。もう君を1人にはしない。僕だけが君を甘やかしてあげる。」





だから、僕だけに甘えてね。






そう言って微笑んだ彼は――絵本や物語に出てくるドラゴンよりも。

遥かに綺麗で穏やかな、愛しい龍でした。






レイ、大人の階段を登りました!(違う)

なつなちゃんの孤独は、きっと計り知れないと思います。

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